コミュニケーション・音楽業界・農業・働く スタートアップが届ける4つのプラットフォーム

革新的なビジネスに挑戦するスタートアップやベンチャーキャピタル、大企業の次期経営幹部など、キーパーソン限定の新産業創造プラットフォームである『STORIUM』。
今回は、11月16日にオンラインで開催されたスタートアップ企業のピッチ#10に潜入した。

必要なのはボードとカードのみ、「ウェブ上で議論ができる空間」を実現

1. postalk株式会社

創業者の川野氏と共同創業者の平間氏がpostalk株式会社を起業したのは、前職のスタートアップでの経験が大きく関わっている。二人は福岡と東京でリモートワークをしており、コミュニケーションの難しさを非常に感じていたという。その課題を解決すべく、サービス提供を始めたのがコミュニケーションを円滑に進められる「カード型チャットツール」だ。

コロナ禍の影響もあり、ZOOM会議やビデオチャットが増え、オンラインが当たり前の世の中になった。一方、オンラインだとコミュニケーションを深めることが難しいという課題がある。加えて、ビデオ会議ではZoomとGoogle Meetを使い分け、チャットではSlack、Chatwork、Microsoft Teamsなど多種多様なツールを使うことにより情報分散・複雑化が起きている。

これらの課題を解決し、「付箋と模造紙のように使えること」、「情報が活用され続けること」、「みんなが気軽に参加できること」、の3つを実現したのが「postalk」だ。
必要なのはボードとカードのみ。カードに文字を記載し、それらを柔軟に並べ替えることができる。カードを並び変えながら、議論を深め、自分たちの手で構造を創っていくことができ、「ウェブ上で議論ができる空間」を構築する。

主なユースケースは議事録、グループウェア、ワークショップの3つ。カードにメモする感覚でまとめられるので、会議を進めながら簡単に議事録を作成できる。また、カード整理ができ、slackへのAPI連携、テキストへのエクスポートができるため、TODO管理やナレッジ共有のグループウェアにも対応できる。簡単に誰でも使えるからこそ、黒板・模造紙を使用するのと同じ感覚で、ワークショップにも活用されている。現在、60代の大学教授もアクティブユーザーの一人という。教授は20代の生徒とのコミュニケーションに活用しており、20代から60代の幅広い層が利用できることが大きな魅力といえる。

今後はチーム向けに特化した「postalk space」のサービス展開も予定しているという。postalkが広がることで、誰もがどこにいても、簡単にコミュニケーションを深められる世界が来るのではと感じた。

独自のファンダム経済圏を生み、自立自走する仕組みが業界の再成長を図る

2. 株式会社BEAMING

株式会社BEAMINGは、音楽ライブ配信プラットフォーム「MUSER(ミューザー)」を展開している。代表の次呂久氏は、これまでにアーティストの楽曲プロデュース、大規模ライブのステージ制作実務、また自身も元バンドマンでメジャー・デビューを果たしたこともあるなど、業界への理解は深い。

音楽業界での日韓の動向を比較すると、「ファンダム」の存在がマーケット成長に大きく関与しているという。ファンダムとは推し活を組織的に行うファン集団のことを指す。海外では推しアーティストを世の中に広めるためにファンダムが「応援広告」と称して、ニューヨークタイムズスクエアの広告をジャック、更に音楽チャートをハックし、露出の機会を増やす事例も出てきている。日本の音楽事務所でもファンダムへの注目が集まる一方、自分たちでその仕組みを実現する方法が分からず課題となっていた。

この課題解決として、DAO*¹に準えた「DAF」の考えをファンダムに掛け合わせ、誕生したのがDAF量産・運営支援プラットフォーム「MUSER」である。
運営の大きなカギとなっているのが柔軟なIP*²活用による主客一体の仕組み。ファンに様々の権利を与え、活動の幅を持たせることで、二次創作や応援広告を積極的に行える環境がある。現在は事務所から預かったIPを活用し、ファンダム自らライブや特典などを企画、更にそれらチケットやグッズを販売までできる機能を提供している。

今後の展開として、ファンダムがコンテンツを企画する際、イベント会場やライブ制作、デザインなどの外部業者と繋がれるマッチング機能の追加。また、既存のIP運用に留まらない、肖像権を活用したオリジナル3Dアバター制作といった新市場への開拓を計画している。更に、ファンダムに“Stan to Earn”のトークンエコノミー*³を実装予定。ファンは儲けたいのではなく、好きという気持ちが軸にあるため、“Stan to Earn(推し活で稼ぐ)”で稼いだお金をまた推し活に使う循環が生まれる。つまり推し活が増える程、経済圏が安定的に拡大していく流れが見込めるという。

MUSERのアセット基盤を強化しつつ、ファンダム経済圏を拡大、更にファンダム自体が自立自走できる仕組みが計画されている。音楽業界に新たな力が加わり、より拡がりを見せる今後が楽しみだ。

*1:ブロックチェーンの仕組みを使って作られたコミュニティや組織のこと。
*2:Intellectual Property(インテレクチュアル プロパティ)の頭文字をとった略称であり、 「知的財産」のことを指します。
*3:暗号資産(仮想通貨)において、トークン(貨幣の代わりになる価値のあるもの、代替貨幣)を用いた経済のことを指します。

未来の食糧問題を解決する、持続可能な「食」と「農」を実現するプラットフォ―ム

3. プランティオ株式会社

プランティオ株式会社は、ユーザーとファームをloTで繋ぎ、マイクロファーミングを実現する次世代型アグリテインメントプラットフォーム「grow」を展開する。芹澤氏は「プランター」を発明し、世界中に広めた、芹澤次郎氏を祖父に持つ。農をコンシューマー目線で考えた第一人者であり、その考えがプランティオにも次世代の形で引き継がれている。

今、世界中で食糧不安に対する声が大きくなっている。ニューヨークやフランス、ロンドンでは既に都市内に多くの農園が存在。従来の大規模農業「マクロ・ファーミング」でなく、一般の方が農を行う「マイクロ・ファーミング」が広がっている。これは、深刻なフードロスや農薬の残留濃度の高さなど「農業の環境負荷の高さ」が大きな課題として挙げられる。これを解決するために必要なのが、地産地消の仕組みであり、プランティオのサービスだ。

独自開発したloTセンサー、grow CONNECTとスマートフォンをペアリングし、リアルタイムで野菜栽培をナビゲーションする。更にそれらを家庭のプランターや、ビルの屋上農園、屋内のインドアファーミングに展開し、繋いでいくことで農のコモンズを形成、持続可能なプラットフォームを提供する。

同一センサーのため、誰がどこで何を育てているかわかる他、地産地消を実現できるため、CO2削減、生ごみ削減、ヒートアイランド現象への貢献など環境貢献度がビジュアライズできる仕組みをとっている。それらを通じて、野菜を楽しく育てて、楽しく食べるというカルチャーを作っていくという。

実績としては、恵比寿の農園から渋谷神泉町、日本橋、竹橋エリアにも農園を開設。今年の4月には、三菱地所の大手町ビルに都内最大級のシェアリングIoT 農園を設置。スマートシティ(都市DX)の流れとも連携し、農的活動をもとに手に入るポイントが街で利用できる仕組みを実現した。この仕組みを活用し、他エリアでも展開を進めている。農的活動とスマートシティが連携、加えて環境負荷にも配慮できる世界を実現できる未来が見えはじめているという。

また、渋谷区では2024年までに世界最大級の農園を創る構想が立ち上がっており、そこに参画している。130個の公園を順次農園へと変換していく計画が進んでいる。郊外においては出光興産と手を組み、3年で3,000か所の農園を創る計画だ。

既存農業を代替する民主的な次世代食糧自給インフラ「grow」を元に、多くの行政・企業と一緒になって、迫っている気候危機や食料枯渇問題を解決していくプランティオ。将来私たちの生活にはなくてはならない存在となっているだろう。

さよなら雑務、多くの人が自分らしく人生を歩める世界を実現する

4. 株式会社エイチ

株式会社エイチ代表の伏見氏はP&Gマーケティング部門で活躍したのち、複数の起業・Exitの経験ももつシリアルアントレプレナーだ。その彼が今回のサービスで実現しようとするゴールは、働く誰もが主人公で、目をキラキラさせながら仕事ができる状態を創ること。日本の労働環境において、日々の業務の35.5%が本業とは直結しない「雑務」の時間が占めている。この状況に対して、「さよなら雑務」と掲げ、社内のあらゆる雑務課題をあっという間に解決するサービスが「叡知AIアシスト」だ。

このサービス、実は0円から使うことができる。チャット形式で社内の問い合わせ自動化、ワークスペース予約、会場予約、出張予約、アポ調整など事務作業がワンストップで簡単にできる環境を提供している。

また、経費精算も「叡知AIアシスト」内で行うことができ、1か月に1度エイチ側から利用会社への請求処理にて完結できる。またアメックスとの連携も行い、コーポレートカード決済による仕訳の自動連係も実現。手配関係の手間に留まらず、経費精算・決済の手間までなくす仕組みを構築している。

導入事例として、株式会社デンソーや損保ジャパン株式会社など大手が続々と導入しており、株式会社キャリアでは営業がクライアント先の近くのワークスペースを活用することで一人の商談生産性が2倍へと拡大。ミニストップ株式会社では採用での説明会・面接の会場・出張手配を自動化することができ、戦略的業務へ集中できる環境構築に繋がった。これらの実績から分かるように、企業の評価や従業員満足度も非常に高く導入企業は8,000社にのぼるという。

記事作成:原 康太

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