「スタートアップの働く場」にフォーカスする連載記事。
第7回は、事業拡大による人員増加に伴い、2020年5月にオフィスを移転した株式会社ワンキャリアを訪問し、スタートアップにとってのオフィスという”場”に関する哲学に迫りました。
背景
事業拡大による人員増加と、人材採用における面接・イベントのオンライン化に対応するため、オフィスを移転。ワンキャリアライブを始めとしたクライアント企業の採用動画配信事業の更なる拡大を目指し、オフィス内に独自のスタジオを新設した。
取材メンバー紹介
吉村 彩
Yoshimura Aya
デザイナー/アートディレクター
【 Profile 】学生時代は美大で空間デザインを学び、卒業後は展示会・イベントプロモーションなどの企画、デザイン、施工を手掛ける企業に、空間デザイナーとして入社。十数年働いたのち、人材紹介会社などを経てワンキャリアへ入社。小学生の息子を育てながら、現在はワンキャリアでデザイナー/アートディレクターとして、新オフィスをはじめ動画スタジオのなどの空間デザインを中心に、グッズ制作などのコーポレートデザイン等を手がけている。
デザイナー×人材の掛け合わせで見えた、新しいキャリア
NovolBa 原:今回の移転の経緯について、教えてください。
ワンキャリア 吉村 :私が入社したときのオフィスは、部署ごとに部屋が分かれており、部署を超えてフランクに話せる機会がない、という課題を経営陣が抱えていました。そこで、「オープンにコミュニケーションがとれるオフィス」を作りたい、という想いから移転の話があがりました。
実は、そのとき私はまだ入社していませんでした。面接の際、元々は別のポジションで応募したのですが、前職での十数年の空間デザインの経験から、デザイナー職として関わってもらえないか、というお話を代表から頂きました。結果、オフィス移転を見据えて、デザイナーとして入社しました。
原:デザイナー職を10年以上経験した後に、転職に踏み切ったのはどうしてですか?
吉村:前職では、空間デザイナーと人事部を一時期兼務していました。人事部での、デザイナーのキャリアパスを作成する業務の中で、だんだんと“キャリア”に興味を持つようになりました。人のキャリアはそれぞれ違いますし、正解も不正解もありません。そこに寄り添える仕事や事業を行っている会社に興味をもち、ワンキャリアへの転職に至りました。
原:デザイナー職の募集がない中での応募に、不安はありませんでしたか?
吉村:やってみたい気持ちと自信がない気持ち、両方ありました。やってみたいけどできるのか、役目を果たせるのかなど、正直、不安は今でもあります。でも、それも1つの力にするといいますか。その不安な気持ちも原動力にして、新しいものが生み出せるような気がしています。
転職を決めた当時、周りからは「子どもがまだ小さいのにどうして転職するのか」と言われました。でも、このままいたら会社に甘えてしまうのではないか、と思うようになり、転職を決意しました。それは、「この会社に所属している人」としてではなく、自分自身が「個」として人に求められる状態を目指していたい、という気持ちがチャレンジの後押しになっていたと思います。
デザインには「届ける人」と「解」がある
原:吉村さんがデザインに興味を持たれたきっかけを教えてください。
吉村:美大出身の母の影響もあり、幼少時から「美術」が身近にある環境で育ちました。その影響を受け、ものづくりができる学校に行きたいと思い、美術の道に進みました。高校では、絵画コースとデザインコースのどちらに進むか選択するのですが、デザインコースを選びました。デザインには、「解」が明確に存在しているように思ったからです。例えば、空間デザインであれば、使いやすさや安全性という「解」に向かって、その空間を考えていきます。届けるべき相手に対して、デザインを手段に答えを導き出すことが好きで、この道へ進みました。
その時点でのベストな回答を追求したい
原:吉村さんは、普段どのような仕事に携わっているのですか?
吉村:オンライン企業説明会「ワンキャリアライブ」の空間デザインや配信スタジオの設計など、空間デザインに関する仕事をしています。それに紐づいて、ライブのキービジュアルやプレスリリースの画像、その他では、社員が使用するグッズなどのコーポレートデザインも行っています。
原:吉村さんがデザインをする際、大切にしていることは何ですか?
吉村:届ける相手を想像することです。そうすると、必然的にデザインのトーンが決まってきます。たとえば「ワンキャリアライブ」の空間デザインには、おもてなしの意味を込めています。各企業の人事の方が来られるので、普段と違う雰囲気、空間でテンションが上がるようなデザインだったり、緊張感をほぐすために植物をメインにした装飾をしたり。
コーポレートグッズには、モノトーンを基調にしつつ、“私たちのメッセージ”を入れています。具体的にはミッションが世の中に浸透していきますように、と思いを込めて黒いパーカーに黒の刺繍をし、「浸透」を表現したり、私たちのミッションで一人一人のキャリアに光が差すように、という願いを込めて、コーポレートカードを透明にしたり。1つずつに意志を込めてデザインしています。
私にとってデザインは、「テキストだけでは伝わらないことを解決するもの」と捉えています。時代や環境により、解決すべき課題は様々です。だからこそ、その時、その時に私が思う最高の「解」を出していきたいです。時代の流れが速い今、世の中の流れに合わせつつ変化していくことを大切にできるデザイナーでありたいです。
移転に一番必要なのは共通認識となる軸
原:オフィスを移転する上で、意識されたことはありますか?
吉村:プロジェクトマネジメントの立場でオフィス移転を進めていく中で、社員一人一人のニーズと、移転を通じて解決したい課題を汲むバランスは非常に重要だと感じました。
移転は全社員が関わるプロジェクトです。全員が納得いく空間を構築しようとすると、どうしてもすべてのメンバーの話を詰め込もうと考えます。しかし、そうすると、空間設計において大切にしたい本来の目的がずれてしまう可能性が高いと考えています。大切なのは、その空間で達成したい目的やコンセプトです。
今回でいえば、「みんなが集えてコミュニケーションが取れるオフィス」が明確な軸としてありました。その軸を共通認識としてメンバー全体で持った上で、オフィス移転の発起人である、経営陣へのヒアリングを丁寧に行いながら進めたことで、全員にとっての場を構築できたと思っています。
人を大事にするために必要な「場」
原:場の重要性について、どうお考えですか?
吉村:オフィスは、組織が成長するためにも必要だと思います。オンラインだと、基本的には話すことが決まっていて、ちょっとした雑談ができないなと感じています。カジュアルな話やちょっとした思い付きがあるたびにオンラインでつなぐ、というのはなかなか難しく感じることがあります。一方で、オフラインではそのちょっと会話する、ということができると思っています。
場があることによって、人が育ち、チーム力が増し、新しいものが生まれていくのではないかと思います。弊社は、ひとりひとりを大切にしていきたいという方針を持っています。だからこそ、それを実現するためにはリアルな場での人と人とのコミュニケーションが必要なんだと思います。
原:今回のオフィス構築後、会社の変化はありましたか?
吉村:オフィスは、活用されるからこそ価値があると思っています。どんなに素敵なオフィスでも、使ってもらえなかったら意味が薄れてしまいます。新オフィスは、「この場を活用し、こんなことしたい!」と自然にアイディアが湧いてくる場になるように意識しました。
例えば、経営企画部のメンバーが、社外の方を招いて交流イベントを開催しています。このように、メンバーそれぞれが自由にアイディアを膨らませ、活用してもらえるような空間を作れているのは嬉しいことですね。
活用される空間とは、「使い方が決まっている空間」ではなく、自由に使える余白のある空間だと思います。壁で仕切るのでなく、段差や家具で変化をつける空間、ちょっとした腰掛スペースを設け、滞留できる空間を設けています。人と目的によって流動的に使える余白の空間があることで、事業成長の加速にも繋がっているのではないかと考えています。
誰にでも当てはまるデザインではなく、唯一無二を生む
原:吉村さんが今後やっていきたいことを教えてください。
吉村:相手の期待や要望に応えられるデザインをしていきたいと思っています。何かをデザインする際、そのデザインに辿り着いたコンセプトや背景のストーリーをちゃんとお伝えするように意識しています。そこに納得感がないと、受け取る方も愛せるものにはならないです。
どこにでも当てはまるようなデザインはしないように心がけています。これからも「唯一無二のデザイン」を作っていきたいです。
こだわりの「場」
社名 :株式会社ワンキャリア / ONE CAREER Inc.
本社所在地:東京都渋谷区桜丘町 20-1 渋谷インフォスタワー 16階
設立 :2015年8月18日
代表者 :代表取締役社長 宮下 尚之
事業内容 :キャリアデータプラットフォーム事業(採用DX支援サービス、その他)
【編集後記】
デザイナーとして活躍される吉村さん。私もオフィス設計をやっているので、「デザイン」というものと捉え方からお話でき、とても楽しかったです。オフィスを見学させて頂く際、照明や床板、壁の仕上げや設計自体の考え方などとても楽しそうに話される姿は吉村さんにとって「デザイン」という手段は必要不可欠なものであると感じさせられました。デザイナー×キャリアという新しい掛け合わせで自分の道を切り開かれていく吉村さん。見た目はとっても穏やかで温かい雰囲気ですが、芯にある志を強く感じる熱い方でした。(原)
取材日:2022年11月17日
インタビュー/編集/写真:原 康太
校閲:山田 直哉