株式会社Shippio 代表取締役CEO 佐藤孝徳

昇る場case.09「リアルな『場』から生まれる価値創造を大切にしたい/株式会社Shippio」


「スタートアップの働く場」にフォーカスする連載記事。第8回は「理想の物流体験を社会に実装する」をミッションに掲げ、国際物流・貿易の仕組みの大幅アップデートに尽力する株式会社Shippio(シッピオ)のオフィスに訪問しました。Shippioらしさを体現した空間は、社員同士のコミュニケーションを活発化させ、職種に関わらず出社するカルチャーに一役買っているそうです。

急拡大する中でも、カルチャー・組織力が高まるShippioさんの事例は、オフィスづくりに迷っているスタートアップ必見です!

【移転背景】
コロナ禍の影響による港のロックダウンやウクライナ情勢等によって、国際物流は一時期非常に混乱しました。コンテナ不足や、船の遅延が頻繁に生じ、海上運賃の価格は高騰。こうした状況において、デジタルフォワーダーとして、ITの力を活用して貿易業務の課題を可視化・効率化し、物流の安定稼働に貢献することは急務でした。こうした背景を受け、事業及び組織の拡大を進め、現在は60名規模にまで組織は成長しました。
今後は国際物流インフラに関わる全ての人の課題解決となるソリューションを提供すべく、グローバルプラットフォームの実現を目指し、さらなる組織拡大を実現してまいります。こうした構想を踏まえ、組織を100名規模への拡大を計画しており、2022年8月にオフィスの拡大移転を実施しました。(移転リリースより抜粋)

佐藤 孝徳  Sato Takanori / 代表取締役CEO

【 Profile 】新卒で三井物産に入社。石油部での原油トレーディング業務、企業投資部にてPE投資・スタートアップ投資業務などを経て、中国総代表室(在北京)にて三井物産の中国戦略全般の企画・推進を行う。2016年6月、北京で同じく駐在していた土屋氏とともに、国際物流スタートアップ「サークルイン株式会社」(現・株式会社Shippio)を創業。


加賀 彩乃  Kaga Ayano / Corporate・Marketing

【 Profile 】5年以上にわたる演劇の制作・宣伝を経て、大手芸能事務所にて芸能マネージャーに従事。その後、ビューティー・ヘルスケア領域のメディア会社にて、メディア制作およびバックオフィス業務に携わる。2019年にShippioへ入社。Shippioのバックオフィス機能を立上げ、2023年からは広報・マーケティングを担当している。

スタートアップがオフィスを持つ理由

新しい価値創造は、リアルな「場」から

NovolBa 鄧:創業から現在に至るまで、5度のオフィス移転を経験しているそうですね。コロナ禍の影響でフルリモートに切り替える会社が多いなか、リアルな場を大切にしている理由は何でしょうか。

Shippio佐藤 :私たちの会社は、まさにオフィスと共に成長してきたと言えます。最初のオフィスは五反田の小さなマンションの一室でした。その後、一時的にシェアオフィスを利用したものの「やはり自分たちのオフィスを持ちたい」との思いから、いくつかのオフィスを経て、2022年8月に現在の浜松町オフィスに移転しました。

リアルなオフィスを大切にする理由は2つあります。
一つ目は、新しい価値創造は、人が集まる「場」から生まれる、と信じているからです。既にビジネスが完成されている大企業と異なり、私たちのようなスタートアップ企業はすべてをゼロの状態から立ち上げなくてはなりません。同じ解像度で共に成長するためには、リアルな「場」において人と人が集まり、意見を突き合わせることが大切です。異なる考えを持つ者同士が刺激し合い、試行錯誤することによって、新しい価値創造やインスピレーションが生まれやすくなると思うのです。

知の連鎖」を繋ぐ

佐藤:二つ目は、代をまたいで人々が繋ぎ続けてきた「知の連鎖」があるから、会社が成り立っていると考えているからです。
自分がビジネスパーソンとして自信をもって仕事ができるまでに成長できたのは、さまざまな場面でいろいろな人たちから、業務の進め方や困ったときの対応などについて教わり、育ててもらったからだと思っています。ですから次は、自分が教わってきたことを次の代の人たちへと伝えていくターンだと考えています。リアルなオフィスという「場」は、知や経験の継承に適していると感じています。

スタートアップに必要な場とは(NovolBa作成)

:ところで、最近は「リモートワーク可にしないと、エンジニアの採用が難しい」という人事担当者のお話をよく聞きます。御社はどのように解決されているのでしょうか。

佐藤:当社はリモートワークの利便性も取り入れつつ、対面でのコミュニケーションの利点を生かしたワークスタイルを意識しています。当社のエンジニアは、週1回は出社して仕事をするスタイルをとっていますが、アイデア出しやコミュニケーションが必要な相談など、対面の方が良いと判断して出社するメンバーもいます。社員同士がリアルに顔を合わせて向き合うための「Shippioらしい場」が必要なのです。

また、ビジネスサイドの社員もフレックスタイム制を利用することで、快適な働き方をすることができます。「今日は子どもの世話があるから早めに帰る」「オンライン会議が多いから自宅でのリモートワークにする」など、各社員が置かれた状況に応じてフレキシブルに働ける体制が確保されていれば、より良い働き方が実現できるのではないかと考えています。

自分たちだけにしっくりくる、唯一無二のオフィス創りを

オフィスへの想いを語る佐藤氏(代表取締役)

:オフィス移転プロジェクトは、佐藤さん自らがプロジェクトの先頭に立ち、全社的に行われたそうですが、その理由や背景について教えてください。

佐藤:オフィスは社員のみんなが日々仕事をする場なので、会社としての哲学や理念、カルチャーなどがしっかり反映された場所にしたいという思いがあり、代表である私がリーダーシップを取って移転プロジェクトを進めました。
当時、オフィスデザインの方と「我々らしいオフィスにしたい」と話をしていました。Shippioが使うからこそしっくりくる、「Shippioらしさ」を込めた唯一無二のオフィスを創り上げたかったのです。

:会社の根幹になるカルチャーとオフィスづくりが、深い次元で共鳴し合っているように感じますね。

佐藤:我々のようなスタートアップ企業は、すでに他がやっていることではない、新しいことに挑戦していきます。そういったカルチャーを、オフィスづくりでも具現化したいと思ったのです。

社員数が3倍になった今のほうが、コミュニケーションは活発

:カルチャーの具現化といえば、オフィスの壁面に社員の皆さんが描いた絵を飾るアートプロジェクトは、多様な価値観を認めあう御社らしさがよく表現されていると思いました。

「一人ひとりの描く海」をテーマに、メンバーそれぞれが描いた作品が展示されている

Shippio加賀:このプロジェクトは現在もまだ継続中です。上のほうにまだ作品を飾る枠が残っていて、今後新しく入ってくる社員たちの作品がどんどん増えていく予定です。

:今回のオフィス移転はShippioさんに、どのような変化をもたらしましたか。

加賀:私は社員数が20人ぐらいの頃からこの会社にいますが、人数が3倍以上になった今のほうが、社員間でのコミュニケーションは取れていると感じています。以前のオフィスは2階と3階にフロアが分かれていたこともあり、社員間のコミュニケーションが取りづらかったんです。

現オフィスでは、社内でランチを取る人も増え、社員同士の交流も盛んになりました。入社後1カ月以内に佐藤とランチをする「CEOランチ」も設定し、役職を越えたカジュアルな会話の場にもなっています。

加えて3階にあるカフェテリアでは、淹れたてのコーヒーが飲めるので、場所を変えて1on1を行う社員もいます。私も、社員と「ちょっとしゃべりたいなあ」と思ったときは、気軽に誘って3階でお茶をしながら会話することもあります。

:代表の佐藤さんと社員の方々の関係にも良い変化はあったのでしょうか。

加賀:佐藤の席は執務エリアから会議室エリアへ向かう出入り口の一番近くにあります。基本的に佐藤は、ミーティング以外は自席で仕事をしているので、気軽に話しかけやすい配置になっています。

:会社のフェーズが上がっていくと、社長の外出が増え、それゆえ社長が考えていることが社員に共有されにくく、経営陣と社員との距離が離れてしまうことも耳にします。佐藤さんの席配置には、それを防ぐ意図もあるのですね。

佐藤:私自身が「みんなに話かけやすい環境」をつくりたかったので、オフィス移転によって、それは達成できたと思います。

佐藤氏(代表取締役)の席を執務エリアの出入り口付近にしたことで、社員との距離が近くなったそう

変化を恐れず、常に成長し続ける組織を目指して

:最後に、今後の展望を教えてください。

佐藤:私は起業の際、「社会的に大きなインパクトが出せそうな領域」と考えた時に、貿易業界の国際物流やサプライチェーン領域に行きつきました。オペレーションのDXや生産性向上に寄与することは、社会的にも大きな意味があると考えたのです。

しかし、事業をスケールさせるためには自分一人の力だけでは難しく、組織や仲間づくりが不可欠です。また、今の私たちが、歴史ある大企業と同じことをやっていては、いつまで経っても追いつくことはできません。ものすごいスピードで変化と成長を遂げ、強烈な成長曲線を描き続ける必要があります。

そのために、仲間が集まって仕事ができる「場」に着目し、新しいオフィス環境を通して、その「場」の質を高めました。これからもたくさん変化していくつもりです。「変化を恐れず、常に成長し続ける」組織をつくっていきたいです。

このオフィスも、社員の人生における、輝ける時間を共に過ごす「場」となり、さらにはビジョンやミッションを共に成し遂げる「場」となると嬉しいです。

:ありがとうございました。今後Shippioさんがこのオフィスを起点として、どのように変化し、成長していくのかがとても楽しみです!

こだわりの「場」

解放感のあるエントランスには、Shippioのロゴや船の形を模した受付が設置されている

港を連想させるロープの柵。その奥にある打ち合わせスペースへ向かう途中、ワクワクする気持ちが演出されている

エントランス壁面はアートで彩られている。国籍や性別、年代など、
多様性のあるメンバーそれぞれが「一人ひとりの描く海」をテーマに描いた作品を展示されている

色合いが、ラテンの陽気な雰囲気が出ているこちらの作品は、佐藤氏によるもの。お上手!!

会議室やミーティングスペースの部屋名は、船の部位でネーミング。「帆」に部屋名が表示されている

Shippio 船の操舵に使用する「舵輪」を使い作製したオリジナルテーブル
船の操舵に使用する「舵輪」を使い作製したオリジナルテーブル

Shippio 東京湾を見渡させる採光抜群のスペースは、カジュアルな面談や社員のコミュニケーションの場として多用されているそうだ
東京湾を見渡させる採光抜群のスペースは、カジュアルな面談や社員のコミュニケーションの場として多用されているそうだ

Shippio  まるでお店のようなバー・スペース。みなさんお酒好きのようで、ウイスキーも沢山並んでいた。
夜の賑わっている様子も見てみたい
まるでお店のようなバー・スペース。みなさんお酒好きのようで、ウイスキーも沢山並んでいた。
夜の賑わっている様子も見てみたい

Shippio 物流現場でよく目にするパレットを使用したオリジナル家具
物流現場でよく目にするパレットを使用したオリジナル家具

Shippo 可動式のオープンシェルフ
可動式のオープンシェルフ。将来の人員増に合わせて、執務エリアとミーティング・交流エリアのバランスを調整できるようになっているそう。まさにアメーバ的なオフィス!

ワンフロアに集約しているオフィスは社員同士のコミュニケーション活性化にも繋がっている

オンラインとオフライン同時に内容共有ができる「電子ホワイトボード」の説明をする加賀さん

執務エリアには所々にミーティングスペースや雰囲気の違う作業スペースがあり、
その日の気分や作業内容に合わせて自由に選択できる場が設けられている

株式会社Shippio

Shippioは「理想の物流体験を社会に実装する」をミッションに掲げ、国際物流のDXを推進する、日本初のデジタルフォワーダー。貿易システムの提供と、国際物流フォワーディング業務の提供を通じて、国際物流プラットフォームを構築し、国際物流領域のDXを推進している。


【編集後記】

佐藤氏の「さまざまな人たちから仕事について教わり、育ててもらった仕事場。だから、リアルの場は大事」という言葉に、とてもハッとさせられました。コロナ禍、リモート入社した新入社員の離職率の高さに、多くの企業が頭を抱えています。これらはまさに「知の連鎖」が断ち切られたから故、起きた現象だったのかもしれません。
「人は教え、教えられて知の連鎖が起きる」という考えは、スタートアップに限らず、全ての企業が大切に言えることです。そして、それを実現する場として「オフィス」の存在が必要であることを改めて感じました。佐藤氏の一言一言から人生哲学のようなものを感じ、終始胸が熱くなる取材でした。(原康太)


取材日:2023年3月16日
インタビュー:鄧 雯 

企画・撮影:原 康太 
編集:神成 美智子

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