VC Vol.009 南都キャピタルパートナーズ / 代表取締役社長・堺 敦行 さん

投資家に聞く!第9回は、「投資を通じてナラに新しい価値を」をミッションに掲げ、スタートアップと地域経済・南都銀行取引先・南都銀行グループとのオープンイノベーションを創り、地域・投資先の発展を目指される南都キャピタルパートナーズ株式会社の堺 敦行さんに取材させていただきました!

堺 敦行  Sakai Atsuyuki / 代表取締役社長

大手監査法人を経て、リーマンショック直後に株式会社経営共創基盤(IGPI)に入社。企業・事業再生や組織改革、成長戦略策定等のハンズオン支援に携わったのち、ディープテック領域の投資を担当。退職後、南都銀行に顧問として携わり、南都銀行グループの投資会社「南都キャピタルパートナーズ」の設立と同時に代表取締役に就任。
公認会計士

リターンだけを求めない、地域とのシナジーを一緒に創り上げる

原:NovolBa 原(以下、原):南都キャピタルパートナーズさんの特徴についてお聞かせください。

南都キャピタルパートナーズ  堺(以下、堺):当社の親会社である南都銀行は、奈良県唯一の地方銀行であり、地域との密着度が非常に強いです。また、当社は南都銀行の出身者のみで構成されておらず、外部から来た人材も交じった組織となっていることが、地域金融機関の投資会社としては特徴的な部分だと思います。
南都銀行のグループ会社ではあるのですが、外部の知見が融合されることで、独立系VCのようなスタンスで投資を行い、投資後も積極的な支援・連携の取り組みを行っていくことが私たちの魅力だと思います。

2月にローンチした当社初の単独GPとして運営するファンドに関して言いますと、地域への価値創出に更に力を入れ、投資のみならず、投資先へ何か貢献できることがないかを意識して積極的に関わっていきます。

原:どのような基準で投資判断をされているかお聞きしたいです。

堺:当社は「投資を通じてナラに新しい価値を」というミッションを掲げています。
奈良の由来は「土地を平らにするという意味の”ならす(平す)”」と同源の「ナラ」という説があり、南都銀行がこれまで事業で地域をサポートしてきたエリア=ナラしてきたエリアに、新しい価値を提供する投資をしていくという意味が込められています。
このミッションを軸として、地域とのシナジーを一緒に創り上げていける会社に投資をすることをポリシーとしています。単純に投資した後のリターンだけではなく、投資先が地域の事業者や南都銀行グループとどう関わっていけそうか、が大きな投資基準です。

投資基準に“地方”という文脈が入ると、投資先は奈良に拠点がある、あるいは拠点をつくらないといけないと思われることもあるのですが、全くそうではありません。地域に何かしらの価値が生まれる可能性があれば、投資を行います。

スタートアップと地方企業の連携が、もう一段ステップアップするきっかけに

原:地方企業とスタートアップの連携に関して、良い事例があればお聞かせください。

堺:全国の人材紹介会社と求人企業を繋ぐプラットフォームを提供している株式会社grooves*の事例があります。地方は東京とは比較にならないくらい求人難であり、特にマネジメントクラスの人材は都心に集中してしまっているという課題があります。
その課題を解決するため、当社とgrooves、更に南都コンサルティングを加えた3社で連携しました。

具体的には、当社がgroovesへの投資を行い、南都コンサルティングは奈良の企業の人材に関する課題の情報を収集してgroovesに提供し、groovesが求人企業と人材紹介会社をマッチングさせて、都市部からのUターン人材、Iターン人材が流れてくる仕組みを作りました。
groovesは主に幹部人材・管理職の人材を多く扱っており、地方企業で起きていた「製造の生産部門の部長がいない」、「管理部の部長クラスがいない」という課題解決に大きく貢献しています。

人材不足はとてもわかりやすいテーマですが、それ以外でも地方企業の課題は沢山あります。

例えば、製造業の場合、独自の技術を持っていてもどうやってそれを活用させたら良いのかわからず、困っている企業が多いです。仕事の大半も大企業からの受託業務であり、大企業で今何が必要かという情報しか持てていません。地方企業がスタートアップと組むことで、自分たちの技術がもっと広く世の中に活用されるにはどうすべきか、というステップアップのきっかけに繋がれば良いと思っています。
地方は課題の宝庫なので、スタートアップにはあらゆる角度で地域との関わることができると思います。こんなことを地方で出来ないか?と考えていらっしゃるスタートアップには、ぜひご連絡を頂いて、取り組みの可能性を一緒に検討したいと思っています。

*株式会社grooves : 「はたらくヒトと、未来を拓く。」をビジョンに、企業と人材紹介会社をつなぐ「Crowd Agent(クラウドエージェント) 」とエンジニアのキャリアを支援する「Forkwell(フォークウェル)」、2つのプラットフォームを運営

スタートアップが地方企業と連携する魅力とは

原:スタートアップが地方企業と連携する魅力は何だと思いますか?

堺:
実行力とスピードが、地方の企業と連携する大きな魅力であると思います。

地方にはオーナー企業が多く、意思決定構造がいわゆる大企業よりもずっとシンプルなため、多くは、社長が決めれば実行されることになります。
この“やるかやらないか”という考えは実はスタートアップと大きく似ている部分だと思います。
新しく始める取り組みに関して「実現可能なのか」、「自分たちが本当にやりたいと思うか」という部分を真剣に考えるため、意思決定には少し時間はかかりますが、やると決まったことに対する実行力とその後のアクションのスピードは、大きな特徴だと思います。

原:地方と連携したいと思うスタートアップが「大切にすべきこと」は何でしょうか。

堺:
お互いを尊重する姿勢を大切にしてほしいです。

都心のスタートアップはこれからの未来を牽引する存在ですし、地方企業は地域を支える存在です。
それぞれがそれぞれの立場でビジネスをきちんと行い、発展させていきたいという想いは共通としてあるからこそ、同じ目線、立場で関わることを意識してほしいなと思います。
特に地方企業は、自分たちの歴史や文化みたいなものがあるので、それをスタートアップとは違うということで否定するのではなく、ある種の多様性として尊重しながら、自分たちのビジネスとどう掛け合わせるとお互い発展できるのか、と建設的に考え、取り組めるスタートアップはぜひ地方企業と関わってほしいと思います。

地方・南都銀行グループと連携する前に考えておくべきこと

原:南都銀行グループ、地方企業と関わりたいと思うスタートアップが最初に考えておくべきことをお聞きしたいです。

堺:スタートアップが地方とどのような形で連携を進めたいかを整理しておくことが大切です。具体的には、地方企業と連携する際にスタートアップ自身が地方企業と膝詰めで議論を重ね、密にコミュニケーションをとっていく方法があります。地方の企業は東京の企業よりも、実際のコミュニケーションを重要視する風潮があるため、直接会って、積極的に対話をすることに前向きなスタートアップは向いていると思います。
一方、そこまでやることへのハードルは感じるが、全国の企業と浅く広く取引を行いたいというスタートアップもいると思います。そういった場合には、地方銀行のような、地方の中核的な企業との関係性を構築するという方法があります。例えば私ども南都銀行グループであれば、域内のネットワークを持ちながら、スタートアップの方々とも様々な方法でコミュニケーションを取れるので、私たちをある種の代理店のように活用して地域とのシナジー創出を探る方法も可能です。
自分たちがどちらのモデルでの関わりを好むのか、スタートアップ側で整理しておいてもらえると最初の話からスムーズに進んでいくと思います。

地方から応援される期待のルーキー企業を!

原:新ファンドも立ち上げられ、ますますこれからの動きが楽しみですが、そんな南都キャピタルパートナーズさんの今後の展望をお聞かせください。

堺:地方において、期待のルーキーのような存在となるスタートアップが生まれる世界を創りたいです。
そのために、地方に関わりたい人が来たいと思えるインフラを創ることが私たちの役目だと思っています。
日本の地方には、多くの企業が存在しており、日本のGDPの7割は地方から生み出されています。そこには日本の誇れる技術、モノがたくさんあります。地方にスタートアップの新たな要素が加わり、更に大きな価値を生み出す企業となれば、行政からも地域からも応援され、重要な会社と捉えられるようになります。
これは奈良に限ったことでなく、47都道府県どこに行っても、きちんとした行政や地方企業が存在している日本の大きな特徴・魅力だと思います。地方とのシナジー創出に興味を持って頂けるスタートアップと共に、自分たちの事業を通して地方の価値拡大に務めていきたいと思います。

南都キャピタルパートナーズ

南都キャピタルパートナーズ株式会社は、2020年10月に南都銀行の投資専門子会社として誕生。「投資を通じてナラに新しい価値を」ミッションとし、スタートアップと地域経済・南都銀行取引先・南都銀行グループとのオープンイノベーションの創出に汗をかくことで、地域・投資先の発展に貢献。南都銀行と 南都キャピタルパートナーズ株式会社の共同で 「ナント CVC 3 号 あけぼの 投資 事業有限責任組合 」 (新ファンド) を設立(会社HPより引用)

https://www.nanto-cap.com/


【編集後記】
投資して終わりでなく、投資先へのその後の関わりまでを考えている堺さんの力強いお言葉がとても印象的でした。スタートアップや、地方企業にとってもメリットがあり、奈良の地盤を活かした形で、独自の投資方法、連携をされていることがよくわかりました。都心を主体とするスタートアップも地方に目を向けることで、新たな価値創造のきっかけを得られるチャンスがあるかもしれません。地方とスタートアップが積極的に連携していくことで、日本が更に成長する可能性があることを感じ、とても楽しみになりました。(原 康太)


取材日:2022年3月31日
インタビュアー:原 康太

写真:西 可菜子  
編集:山田 直哉

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