VC Vol.015 株式会社ジェネシア・ベンチャーズ・代表取締役 田島聡一さん

第15回は、プレシード/シード期におけるスタートアップへの投資と経営支援を行っている株式会社ジェネシア・ベンチャーズ、代表取締役 田島聡一さんにインタビューさせていただきました。

スタートアップのシード期支援を通して「すべての人に豊かさと機会をもたらす社会の実現を目指す」とともに、「アジアで持続可能な産業が生まれるプラットフォームをつくる」ことで、スタートアップを中心に、投資家や大企業など様々なステイクホルダーが持つ強みを掛け算にしていきたい。そんなベンチャーキャピタルを立ち上げた心の奥底には、田島さんの「自分たちは起業家が持つ未来の可能性を信じ、その挑戦を支える存在になると同時に、スタートアップの力によって、社会をあるべき方向に前進させていきたい」という信念がありました。

急成長するスタートアップを経営する上で欠かせない「強いチームづくりの秘訣」や「投資したくなる起業家像」など、田島さんの経営哲学・投資哲学に迫りました。

田島 聡一
Tajima Soichi 
株式会社ジェネシア・ベンチャーズ 代表取締役 / General Partner

【 Profile 】大阪大学 工学部卒。三井住友銀行にて約8年間、さまざまな形態のデットファイナンス業務に関わる。2005年1月、サイバーエージェントに入社。サイバーエージェントの100%子会社であるサイバーエージェント・ベンチャーズ(現:サイバーエージェント・キャピタル)にて、ベンチャーキャピタリストとして投資活動に従事し、多数のIPO・バイアウトを実現。2016年8月、株式会社ジェネシア・ベンチャーズを創業するとともに、2023年7月より日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の会長を務めている。

【 ファンド情報 】 ※2023年6月取材時の情報

ファンド名
Genesia Venture Fund 3号投資事業有限責任組合
サイズ 150億円
ファイナルクロージング 2023年3月
運用期間 10年間
チケットサイズ ~5億円
投資対象

デジタル・トランスフォーメーション(DX)、ニューエコノミー、メディア・エンターテインメント、フロンティアテック、以上をメインにフルセクター

投資ラウンド

主に、日本と東南アジアのプレシード/シード期のスタートアップ

基本戦略

徹底したリード投資、ハンズオン支援

 

自分にしかできない「人生のテーマ」となる仕事を求めて

NovolBa 原はじめに、田島さんが大学卒業後、銀行とサイバーエージェントを経てジェネシア・ベンチャーズを創業されるまでの経緯について簡単に教えてください。

ジェネシア・ベンチャーズ 田島 :まず銀行からサイバーエージェントに転職を決めたのは、銀行のように過去の実績を見て融資するのではなく、未来の可能性を信じて投資をしたいという想いがあったからです。

サイバーエージェントでは、自分より若いメンバーがゼロから会社や事業を作って活躍する姿を目の当たりにし、「自ら新しい価値を生み出し続けられる人になりたい」という想いを強くしました。しかし、次第に会社に求められていることと自分のやりたいことの軸がずれてきたと感じるようになり、39歳で独立しました。

:独立は大きな決断だったと思うのですが、突き動かしたものは何だったのでしょうか。

田島:もともと僕は「40代の10年間を人生の節目」として、全力でやりたいことに挑戦しようと決めていました。なぜなら、僕の父親が50歳という若さでこの世を去っているからです。ですから「自分はこの世に何を残して死ねるだろうか」、これが僕の人生を貫く大きなテーマでした。

:人生におけるテーマを実現する手段として、なぜベンチャーキャピタル(以下、VC)を選ばれたのですか。

田島僕が特にこだわったのは「自分でなければできないこと」でした。言葉を変えれば、自分が生きてここに存在したからこそ、世に生み出すことができたもの。
具体的には自分がスタートアップに伴走することを通じて、産業と呼んでもおかしくない規模の事業を一つでも多く世に送り出すことに貢献したいと考えていました。ですから複数のスタートアップに伴走しつつ、世の中の様々な社会課題を解決できるVCは、自分にとってまさに天職でした。

また、日本ではトラクション(過去の実績や事例)をもとに投資判断するところが多く、まだ見ぬ未来への挑戦に対して支援するところは少ない。だからこそ、そこに自分が挑戦する意味があると感じました。

 

150億円のファンドで力強く支える

:今回立ち上げられた3号ファンドは150億円という、2号ファンドの約2倍の資金規模になりましたが、そこにかける想いをお聞きしたいです。

田島ファンドサイズ増額の背景には、プレシード/シード期のスタートアップがシリーズAに辿り着くために必要な、時間とコストが増加している現状があります。とくにディープテックやフロンティアテック領域においては、プロダクトやサービスのリリース、及びPMFまでに時間とお金がかかりますし、業界全体を通して採用コストもかなり上がっています。そのような環境下では、シード段階で十分に資金を調達しておかないと、途中でお金が足りなくなり、事業が暗礁に乗り上げてしまいます。
そんなスタートアップのシード期をしっかりと支えるために、このようなファンド規模となりました。

:ジェネシア・ベンチャーズは積極的に東南アジアへの展開を進めておられますが、その狙いについてもお伺いできますか。

田島:日本と東南アジアは大きく「3つの軸」において、逆相関な関係にあると考えています。
1つ目は、マクロ経済の在り方です。日本は1995年以降生産年齢人口が減り続けており、いわゆる人口オーナス期にありますが、東南アジアは労働人口がこれからどんどん増え続ける人口ボーナス期にあります。

2つ目は、デジタルの在り方です。日本はアナログなオペレーションが成熟しているために、デジタル化を進めようとすると、既存産業との間で大きな摩擦が生じます。加えて日本は超高齢社会であり、新しいサービスを作るときには常にシニア層を意識しなければならず、デジタル化が進みづらい状況にあります。その一方で東南アジアでは、既存産業がそこまで成熟していなかったため、デジタル化する際に余計な摩擦が生じず、デジタルベースでの産業の進化を極めて速いスピードで推し進めることが可能です。さらに人口の中心を若年層が占めているので、新しいサービスを作るときにも、若い人たちにターゲットを当てたデジタル化が進めやすい。

3つ目は、エグジットの状況です。日本ではまだ大きなM&Aが活発ではないので、基本的にIPOがメインになります。一報で東南アジアは、アメリカや韓国、中国など様々な国が参入しようとしており、そうした外資によるM&Aやファンド出資分の一部買い取りなど、大きなエグジット機会が存在します。

我々は、上記のような逆相関な関係にある日本と東南アジアを投資エリアとして合わせ持つことによって、外部環境の変化に強い投資ポートフォリオを構成しています。今は日本のマーケットが厳しいといわれていますが、逆に東南アジアはそこまで景気は悪くない。そういう意味でも、日本と東南アジアの両方で投資事業を行うことに大きな価値があります。

 

必要なものは「深い欲求のタンク」

:田島さんが実際に投資判断する際、どのようなポイントを見ていますか。

田島:僕は主に「事業領域」と「起業家」という2つの観点から見ています。

事業領域については、まずその事業が時代の大きな流れや方向性に沿っているか、時代の大きな変化に抗っていないかですね。

少し抽象的な例えになりますが、大きな時代の変化の方向性と変化の因子の強さです。ここで言う「変化」とは、高いところから低いところに流れる水路のようなもので、その水流がどっちに向かっていて、流れはどのぐらい強いのか。変化を引き起こす「因子」として何があり、その因子がどれくらい強いのか、その事業がその因子をしっかり捉えられているかを強く意識しています。

さらに、時代が大きく変化する際には、変化する方向に大抵複数の水路(競合及び代替サービス)が存在しています。時代の変化に紐づいて生まれるマーケットの大きさや拡大スピード、変化の因子の強さ、競合及び代替サービスの付加価値の大きさといったものを俯瞰的に見る中で、最も滑らかでたくさんの水を流しうる水路に投資しないと、スタートアップ投資はうまくいきません。そういった水路を創れるのか、の見極めもとても重要だと思います。

:なるほど。では起業家については、どういったところを見ておられますか。

田島「起業家が持つ欲求のタンクの大きさと水の色」を見ています。特にタンクの水の色が澄んでいるかどうかですね。たとえタンクが大きくても水が濁っていると、事業自体が人や世に良くないインパクトを与えることになりかねないからです。

具体的には、起業家が事業を成功に導くためには、数々のHard Thingsに直面しても折れない心、諦めない粘り強さを持っていることが極めて重要ですが、これらの源泉となるのは “起業家が持つ欲求” だと考えています。だからこそ、起業家にとって、挑戦しようとしている事業が、「自分の人生をかけてでも成し遂げたい」と思える世界観や課題かどうかが極めて重要だと考えています。
起業家としてそういった世界観や課題を見つけることができたら、たとえ途中で何があっても、何度でも立ち上がれるからです。


(キャプチャ:「全ての起業家が持つべきものとは」NovolBa作)

:その「成し遂げたいこと」に加え、起業家が持つ「スキル」の部分も重要になるのでしょうか。

田島:僕は、スキルの上位概念は「欲求や想いの強さ」だと考えています。人には欲求があるからこそ努力が生まれ、その努力がスキルを生み出す。ですから、スキルも重要ですが、その上位概念である欲求が最も重要だと考えています。
「自分はこの課題を解決して、こういう世界をつくりたい」という、自分が抱く理想における解像度の高さというか、欲求や想いの強さがなくてはなりません。なぜなら、それが人を動かし、世の中を動かすからです。

起業家にとって「仲間集め」が最も重要なミッション

:田島さんは、スタートアップを成功させる上で、起業家はどのようなマインドを持って行動すべきだと考えていますか。

田島:起業家にとって最も重要なミッションが仲間集めだと考えています。資金調達も、いわば投資家という仲間集めの一環にすぎません。事業を成功に導くためには、自らのビジョンを社会に伝えていくプロセスを通じ、いかにビジョンに賛同してくれる仲間を集めることができるか、それによって世の中に対して最大限のインパクトを与えられるかが問われるでしょう。
そのためには、経営者自身が人間として誠実であり、心の底からその世界感を実現したい、課題を解決したいと思えていることが重要だと考えています。そうした部分を自分の中でどれだけ意識してスタートアップに挑戦するのか。それによってアウトプットの質が大きく変わってくるのではないかと思います。

事業を成功に導く「強いチーム」とは


(キャプチャ:「強いチームに必要な要素とは」NovolBa作)

:これまで多くのスタートアップに伴走してこられた田島さんにとって「強いチーム」とはどのような集団だと思われますか。

田島:僕の経験上、強いチームには次の2つが備わっていると思います。
1つ目は、チームとしてのビジョンの実現と、個人の自己実現のベクトルが同じ方向を向いていることです。ここが揃っていないと強いチームは作れません。

2つ目は、自分一人ではできないことでも、チームでやるからこそできる。そういうチームづくりをすることです。具体的には、お互いの強みや個性を互いに引き出し合って、掛け算を生み出せるチームであること。そのためには、チーム内の心理的安全性が高く、常に率直に意見が言える環境である必要があります。

:逆に、強いチームが創れていない起業家にはどのような共通点がありますか。 

田島:うまくいっていない起業家の多くは、仲間に光を当てるのではなく、自分自身に光を当てようとしている傾向がある気がします。起業家は自分で会社を興そうとするぐらいですから、もともと自己顕示欲が強い方が多いです。しかし、それも度を超してしまうと、自分がいかに目立つかに意識が向き過ぎてしまい、結果としてあまり強いチームづくりができていない印象を受けます。

反対に、強いチームづくりができている起業家ほど、仲間に光を当てていますね。起業家が、自分にではなく仲間や社会などに光を当てようとする時、チーム全体が大きく変わる気がします。

事業を成功に導く「強いチーム」とは

:最後に、会社の今後の戦略や将来像についてお聞かせください。 

田島今後の私たちが目指す軸は2つあります。
まず、投資対象地域を広げていくことです。今年度はインドに進出しますが、続いてアフリカもターゲットとしており、すでに投資もスタートしています。但し、あくまでもプレシード/シード期を支えるという軸脚はずらさずに、1社1社に深くディープダイブできるようなファンドサイズを目指していきたいと思っています。

次に、支援先の強いチーム創りをアシストする体制をより強化することです。シリアルアントレプレナーでない限り、起業家にとってチーム創りは多くの場合初めての経験で、分からないことだらけです。チーム創り、もっと言えば組織トラブルで大きく回り道をしてしまうスタートアップが多いので、できるだけ回り道しないようにアシストするソリューションを充実させていきたいと考えています。

:では、田島さん個人として抱いていらっしゃるビジョンを教えてください。 

田島:大きく2つあります。一つ目は、スタートアップだけでなく、社会起業家のように必ずしも急成長は求めないが、世の中にとって欠かせない事業に挑戦する人々の可能性を解き放つプラットフォームを実現することです。
スタートアップにはVCが存在しますが、社会起業家には資金提供面を含めて、しっかり伴走してくれる機能が殆ど存在していません。ですから、社会起業家のような広義の挑戦者が、その持てる可能性を解き放ち、より持続的に活動できる環境づくりに貢献していきたいと考えています。

もう1つは、「世の中に新しい価値を生み出す人=起業家」を増やすための取組みを進めることです。私たちは今年から、『Entrepreneurs Academy(アントレプレナーズアカデミー)』という、世の中に新しい価値を生み出すことに挑戦している人に向けた事業成長支援プログラムを提供開始しました。これは、一部に集中しているスタートアップとして成功するためのTipsを日本全国に広げていくことで、起業家を増やすための取組みです。これらを通して下記のことを実現したいと考えています。

・世の中に新しい価値を生み出す人を増やす
・世の中に新しい価値を生み出す人同士の一期一会が起こる仕組みを創る
・世の中に新しい価値を生み出す人の可能性を解き放つ環境を創る

この3つが実現できると、日本にとってもすごくよい掛け算になっていくと思います。

:田島さんの起業家やチームに対する哲学をお聞きできて、とても学びの多い取材でした。ありがとうございました!

株式会社ジェネシア・ベンチャーズ

田島代表が2016年に創業した、独立系ベンチャーキャピタル。日本および東南アジアにおいて、シード・アーリーステージのTech系スタートアップへの投資を行い、成長スピードの最大化にコミットしている。これまでの投資先には、人事評価クラウドの「HRBrain」、建築現場と職人のマッチングプラットフォーム「助太刀」、東南アジアの医師向けSNSとe-learning「Docquity」などがある。

https://www.genesiaventures.com/

【編集後記】スタートアップは、事業と組織、両軸を動かしていくことが求められます。組織は定量的に測れないものだから後回しになりがちですが、まだ見ぬ世界を追いかけるからこそ、「チームの力」が必要だと私は思っています。今回、田島さんにお話をお聞きし、改めて「強いチームとは」いう定義そのものに触れることができました。私たち自身もスタートアップだからこそ、一人ではなく、チームで勝ちにいく組織創りを心がけ、成長していきたいと思いました。(原)


取材日:2023年5月10日
インタビュー/編集:原 康太
写真:鄧 雯
校正:山田 直哉

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