グランストーリー SOTRIUM 越智敬之 オリックスキャピタル 田中正人 木村彰利 WITH NovolBa

対談 Vol.005 株式会社グランストーリー × オリックス・キャピタル株式会社

左から オリックス・キャピタル 木村彰利氏、田中正人氏、グランストーリー 越智敬之氏

新たな価値創造に挑戦するスタートアップと、視座の高いキャピタリストをつなぐにはどうすれば良いのだろうーー。
スタートアップ・投資家・事業会社がつながり出会う新産業創造プラットフォーム『STORIUM』を運営する株式会社グランストーリー代表取締役CEOの越智 敬之氏は、起業家と投資家との「最適な出会い」について考え続けてきた。

スタートアップがVCとの資金調達ラウンドを始める際、繋がりのない投資家とのやりとりが圧倒的に多いと言われている。また投資家に届けられるDMやメール、Webサイトからの問い合わせは膨大な数であるため、実際の面談やピッチの機会に恵まれるのは、ほんの一握りのスタートアップ。ようやくピッチの機会を得られても、投資ステージやタイミング、投資家との相性や視座が合わなければ、出資検討にも至らない。
スタートアップと投資家の出会いから支援までのプロセスには、あらゆる課題があるのだ。

「”最適な投資家と最適なタイミングで出会い、よりスムーズな流れで調達ラウンドを乗り越えたい” これはすべてのスタートアップ経営者の願い。だからこそ調達ラウンドに介在するあらゆるプロセスを省力化・効率化することができれば、経営者が事業や顧客、チームに向かう時間や気持ちの比率を高めることができ、事業の成功確率も高まっていくはずだ」と越智氏は語る。

越智氏のインタビューを読む

今回は、オリックス・キャピタル株式会社・田中正人氏、木村彰利氏をゲストに、起業家との最適な出会い、ベンチャーキャピタリストのあるべき姿について、対談インタビューでお届けする。


越智敬之 Ochi Hiroshi グランストーリー 代表取締役CEO

越智 敬之 
Ochi Hiroshi
株式会社グランストーリー
代表取締役 CEO

【 Profile 】早稲田大学在学中にWEB制作会社を起業したのち、2002年サイバーエージェントに入社。インターネット黎明期より大企業のデジタルシフトを11年にわたり支援。AOI Pro.(現AOI TYOホールディング)にてグループ全体のデジタル戦略と組織再編プロジェクトを担当後、グループ会社の執行役員に就任。ガリバーインターナショナル(現IDOM Inc.)では、事業企画やスタートアップとのアクセラレーター運営に携わったのち、採用人事責任者として採用戦略やリーダーシップ開発インターンプログラムを企画。2019年株式会社グランストーリーを創業。


Winの価値にこだわり、スタートアップの真のパートナーになる


田中 正人 
Tanaka Masato
オリックス・キャピタル株式会社
マネージングパートナー

【Profile】2007年SBIインベストメント入社。ベンチャー投資歴15年の中で13社のIPO企業、8社M&A企業を輩出。その他、ベンチャー2社の経営、EXITを実現した経験あり。Forbes JAPAN日本版Midas List(最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング)では2017年8位、2018年5位、2019年4位、2021年8位に選出された。主な投資先は、ビジョナル / BASE / ANYCOLOR / TreasureData / ミンカブ / RPAホールディングス / プロジェクトカンパニー / ギックス / サイバーバズ / シェアリングテクノロジー / リネットジャパンなど。2022年7月よりオリックス・キャピタルに入社。



越智:オリックス・キャピタルは1983年の設立から2013年まで、累計1,655社の企業に投資され、216社の企業がIPOするなど、とても有力な投資会社でした。そして2022年より新たに投資活動を再開され、そのタイミングに豊富な実績をお持ちの田中さんがジョインされたことで、業界でも話題になりました。
まず田中さんの新たなフィールドとしてオリックス・キャピタルさんを選択された理由や背景からお話いただけますか。

田中 :私はここ数年、スタートアップのエコシステムにどう貢献するかをずっと考えてきました。そのなかで、前職のSBIインベストメントに残るか、独立か、転職か悩んできましたが、今回オリックス・キャピタルでの道を選んだ理由はいくつかあります。
まず一つは、オリックスがかなりの規模の投資予算をとって、ベンチャー投資の再始動に向かう決意を示していたこと。またオリックスグループの年間の純利益は約3,000億円あり、スタートアップとシナジーを描けそうな事業領域もかなり広い。自ら独立ファンドを立ち上げ、投資家として活動するよりも、豊富なオリックスのアセットを最大限に活用して投資活動を行なっていく方が、スタートアップ業界により貢献し、社会にインパクトを残せるだろうと考えたからです。

そしてもう一つは、10年近くも新規投資を止めていたベンチャーキャピタルを、実質ゼロから立ち上げなおすチャレンジであることに、大きな魅力を感じたことです。

越智:田中さんはキャピタリストとして豊富なご実績がありながらも、ご自身の経験や学びをSNSで業界全体に向けて、積極的に情報発信をなさっていますよね。ただでさえお忙しい中、そうした情報発信はなかなか出来ることではないと思うのですが、普段から意識されていることはありますか?

田中:私の今の目標は「1兆円企業の創出」を支援することです。そのためにスタートアップの「真のパートナー」になること、VC業界全体の意識がより高まっていくよう、自らも貢献をしていきたいと考えています。

スタートアップの真のパートナーとは、起業家に寄り添って起業家なりの成功を実現させる伴走者である、と思っています。そのために価値のあるアドバイスや支援を行っていく。私もスタートアップ2社の経営を6年間させてもらっているので「経営」がいかに大変かは、ある程度理解しているつもりです。起業家の大変さを理解した上で支援を行い「最後に勝たせること」にこだわっていきたいと考えております。また米国のトップティア・キャピタリストと比べると、知識や経験、洞察力など色々な面でまだまだ劣っていると考えており、私自身がレベルアップしていかないといけないと思い、日々研鑽しています。学んだことについては業界全体にプラスになるようにと、出来る限りTwitterなどでシェアさせてもらっています。

越智:業界の方たちにも、田中さんのそのお気持ちはしっかり届いていると思いますね。
今の日本のスタートアップとVC業界に対して、何か課題感はお持ちでしょうか。

田中:そうですね。かつてシリコンバレーに滞在した時に感じたことですが、米国のキャピタリストは投資先1社あたりに、かなり多くの時間や熱量を費やすのです。本気でリターンを追及するからこそ、投資先へのバリューアップ支援に本気でコミットします。
また、米国では質の高いディスカッションがオープンに展開されていることも大きいと思います。日本はクローズドで出来る限り隠したがる印象がありますよね。日々のディスカッション、やり取りの積み重ねが大きな差を生んでいるように感じています。日本のVC業界も、一つひとつのコミュニケーションの質と量をもっと高めることで、スタートアップがより成長しやすい環境を実現できるのではないでしょうか。

越智:本気でスタートアップのビジョンに共感し、企業価値を高める支援をしようとする意識があるからこそ、出資検討の段階であっても、熱量溢れる協議が自然と生まれているんでしょうね。

キャピタリスト同士がより公益的に「起業家や産業のために」という姿勢でオープンな対話ができる場所があると、よりポジティブな切磋琢磨が生まれそうですね。今後のサービス開発のヒントにさせていただきます。

CO-WORKを大切にするオリックスの文化が、イノベーションを生む源


木村 彰利 
Kimura Akitoshi
オリックス・キャピタル株式会社
ヴァイスプレジデント

【Profile】2014年オリックス株式会社に入社し、法人向け各種金融商品の営業に従事。2018年に新規事業開発部に異動し、オリックスグループ各社と連携しながら戦略投資(M&A)やベンチャー投資、新規事業開発等を経験。2022年7月よりオリックス・キャピタルに参画。


越智:オリックス・キャピタルさんは、なぜこのタイミングでVC事業をリスタートすることになったのでしょうか?その戦略的な意義や目的などを、かねてよりCVCチームで活躍されてこられた木村さんに伺いたいと思います。

木村:おっしゃる通り、これまでもオリックスはCVCとして活動をしてきましたが、投資先は基本的に協業を見越した企業への出資が中心でした。つまり純投資ではなく、事業手段としての投資ですね。
ある時社内の議論で「純投資目的でも、ベンチャー企業の投資に取り組むべき」といった話が出ました。その背景には2021年の年明けくらいから株式市場が調整局面に入り、割安感も出てきたため、再参入しやすいタイミングだったというのもあります。
また当社はB/Sから投資しているため、投資期限については比較的柔軟に対応できます。不安定な資金調達環境の中で、スタートアップにとっては大きな利点なのではないでしょうか。先ほど田中も言っていましたが「挑戦者の真のパートナー」になるために、状況に応じてフレキシブルに対応していくつもりです。

そもそも社会全体のイノベーティブな変化はかなり中長期なスパンで起きていて、産業創造を支援する投資家としては、産業変革に挑むスタートアップにより長く、腰を据えて投資し応援していくべきだと考えています。ずっと事業投資にチャレンジしてきた当社ならそれが可能ですし、積極的にやろうとも思える。こういった背景から、オリックス・キャピタルを再始動することになりました。

越智:再始動に際して「挑戦者の真のパートナーになる」と明言されたことは、業界にとって良いカンフル剤になると感じています。確かにスタートアップからすると、中長期で支援していただける点は大きな魅力ですよね。具体的にはどのような事業領域が投資対象なのでしょうか?

木村:幅広くビジネス展開をするオリックスだからこそ、法人金融、産業/ICT 機器、環境エネルギー、自動車関連、不動産関連、事業投資・コンセッション、銀行、生命保険など、様々な領域で協業の可能性がありますし、投資検討も可能です。

特に、より大きな変化が起こりそうな業界。例えば新しい技術が生まれようとしている、規制緩和が進んでいる、消費習慣や商習慣が変わりそう…そういった領域で挑戦しようとするスタートアップと、長期的に取り組んでいきたいですね。変化が大きいからこそ、大きな資金力で長期投資をしてくれる投資家が必要だと思います。オリックスグループにはその体力があります。

また、投資に限らず、親和性の高そうなスタートアップをオリックスの事業部や、各グループ会社に積極的に繋いでいます。

越智:それも御社ならではの強みですね。ちなみにスタートアップを紹介された際の、事業部の方々の反応はいかがですか?

木村:どの事業部もスタートアップとの出会いに積極的で、紹介するとかなり前向きなリアクションが返ってくることが多いです。事業部の者からすると、普段なかなか起業家と話す機会もないので「そんなことやっている人がいるの?」「そんなサービスがあったんだ!」と新鮮な刺激となっているようです。

またオリックスは、グループ経営の基本姿勢として「CO-WORK(専門性の連携)」を大切にしています。この根底には、連携を取ることでより良い提案ができると考える企業文化があります。そのため、いきなり連絡してもみんなウェルカムです。年齢、役職関係なく話ができますし、ミーティングをお願いして断られた経験はありません。

越智:それは素晴らしいですね。優れたキャピタリストは「知的好奇心」と「応援するエネルギー」が絶妙に同居していると感じるのですが、木村さんはどんな起業家を応援したいですか?

木村:テーマ領域で言うと、漫画・アニメをはじめとした日本文化を世界に向けて発信しようとしている起業家ですね。「文化」は日本の強みのひとつですから。また、起業家のタイプで言うと「誰がなんと言おうと、自分だけはこんな世界が実現すると信じている」と確信し、その世界の実現に向けて突き進むリーダーに強く惹かれます。そして、その人が描く世界に共感できれば、多くの人が無謀な夢だと感じたとしても、私は全力で応援したいです。

越智:今の日本には挑戦を諦める人が多く、組織もチームも、多くの制約条件に囚われ、できない理由に意識を向けすぎてしまう風潮が強い。私はこれもこの国に蔓延する社会課題のひとつだと考えてきました。ですから、起業家の前向きな挑戦心を応援の気持ちで支えようとされるお二人のような投資家に出会うと、希望を感じられて幸せな気持ちになります。

投資家と起業家の「必然的な出会い」を生み出す場

越智:起業家とお会いする機会が多いお二人から、STORIUMの率直なご意見をお聞かせください。

木村:起業家の皆さんから気軽にご連絡をいただけるのが素晴らしいですね。実際に出資に至るかどうかは双方のコンディションやタイミングもあり、まだSTORIUMを通じた投資実績までは出せていませんが、何社かにはマッチしそうなグループ会社を紹介し、前向きな提携協議も進んでいます。

越智:御社のグループとの提携が成立したら、スタートアップにとっては企業価値向上につながり、嬉しい成果になりますね。ちなみに、気軽に話せるのはどのような理由が考えられますか?

木村:STORIUM内のスタートアップが、投資家と出会うことを意図して情報開示している点でしょうか。メンバーや事業、ステージや資金調達の開始時期など、かなり奥行きがある一次情報が掲載されていますよね
投資家として知りたい情報を事前に把握した上でお会いできるので、気軽な質問から、より本質的なディスカッションに向かいやすいです。

スタートアップの登録基準を設け、運営サイドが個別に面談しているおかげで、優良なスタートアップしかいないことも安心感として大きいですね。万が一、ミスコミュニケーションがあったとしても、STORIUMの方々が中立的な立場でいてくださるので「何かあればフォローしていただける」という安心感もあります。

越智:そこをご評価いただけるのは嬉しいですね。良質なプラットフォームを育んでいくためにも、登録企業の質と数、そのどちらも欠かすことができない重要ファクターだと考えてきましたので。
そもそも私たちビジネスパーソンが事業やミッションを通じて得られる醍醐味は、良きご縁に恵まれ、その機会を通じてお互いがエンパワーメントされる瞬間があることだと私は思ってきました。いつの時代も運がいいリーダーは、最適なタイミングで絶妙なご縁に恵まれ、それを新たな機会として活かしているものです。

STORIUMでは、起業家やイノベーターの皆さんのご縁の確率と純度を上げながら、出会うべくして出会う再現性を高めていきたいです。そして今はオンライン起点での出会いが中心ですが、やがてはリアルなオケージョンでもそれを成し遂げたいと考えています。

木村:いいですね。それは投資家同士でも言えることかもしれません。
STORIUMを利用するようになってから、VCや事業会社等関係なく投資家同士がつながって学ぶ機会があってもいいのかな、と考えるようになりました。自分たちで学ぶことはもちろん、会社の垣根を超え、先輩方に教えを乞う場があってもいいのかなと。

私は身近に田中という経験豊富な先輩がいて、日々様々な経験をする機会に恵まれていますが、他の方とも気軽にディスカッションできる場があったらいいですね。投資家サイドも、今後はクロスの関わり必要だと感じます。

VC業界を牽引する存在を目指して

越智:今後、スタートアップ業界全体に対して、オリックスさんとしてどのような価値を提供していきたいですか?

田中:過去につくられた偉大な仕組みをただ回すだけでは、長期的に企業も産業も成長しません。もっと大きな、産業レベルで新しい仕組みを作り、視座を高めていくために、今回のベンチャーキャピタル事業は一つの大きな柱になるはずです。ぜひ期待していただきたいです。

私個人としては、これまでのキャピタリストとしての経験から得たことを、どんどんペイフォワードしていきたいです。SBIインベストメントのインフラや大きな資金を使えたというのは、ある意味で特権的なことでした。本当の意味で大成功している様々な企業と、これだけ密に仕事をした経験がある人間は少ないはずです。とても恵まれていたし、周りの方々には感謝してもしきれません。

これまでの経験から得たデータやノウハウ、成功体験、人脈を後輩にどんどん伝えていくことが恩返しになると考えています。

成功する経営者は、やはり視座が高いのです。普通は目の前のプロダクトに集中してしまい、事業がスケールした後の成長を描けていないケースが圧倒的に多いのですが、本当に成功している経営者たちはその先を見ている。だから、ベテラン経営者を紹介して、視座を高めたり視野を広めていただくことも意図的に行うようにしています。
また、起業家・大企業の中の人に限らず、社会に新たな価値を生み出しているのはどんな人たちなのか、そして彼らがより挑戦しやすい環境を作るにはどうしたらいいのかを、スタートアップ業界が一枚岩となって考えていくことが大切です。

そうすれば挑戦者も増え、イノベーションが生まれるでしょう。その結果、世の中全体も良くなっていくはずです。

越智:とても共感します。スタートアップ業界のノウハウを、どんどん次の世代に伝えていくことで産業のエコシステムも強くなる。そして挑戦者ファーストの社会を作っていくこと。きっとそうした積み重ねと相乗効果が、次なる1兆円企業を育むことにつながっていくんでしょうね。
私たちも、質の高い「出会いの場」づくりにこれからも邁進し、日本のスタートアップの企業価値を高める環境を皆さんと一緒に作っていきたいです

株式会社グランストーリー

「次世代に活力と希望に溢れる豊かな未来をつなぐ」をビジョンに掲げ「意志ある人の可能性を解き放ち、新たな価値を生み出すプラットフォームをつくる」をミッションに活動するスタートアップ。革新的な挑戦に躍動するスタートアップと、国内外の有力投資家、豊富な叡智とアセットを有する事業会社のキーパーソンがつながり出会う新産業創造プラットフォーム「STORIUM」を企画・運営している。

会社サイトhttps://grand-story.jp/
STORIUMhttps://storium.jp/about/

オリックス・キャピタル株式会社

 オリックスグループが持つリソース・知識・経験のすべてを投じて起業家とともに大きな価値を創出していくことを目指すベンチャーキャピタル。1983 年の 設立以降 、累計調達額は865億円、累計投資先は1,655社に上る。VC 事業で豊富な実績を持つ専門家を外部より招聘し「挑戦者の真のパートナーに」を合言葉に、新たに投資活動を再始動。

会社サイトhttps://orixcapital.co.jp/


取材日:2022年12月15日
文:佐藤 まり子
編集:NovolBa
写真:Kowaki

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