サムライインキュベート 久保浩成 Kubo Kousei ファンドコントローラー

VC Vol.013 株式会社サムライインキュベート・Fund Controller 久保 浩成さん

ベンチャーキャピタル業界の職種の一つ、“Fund Controller”をご存知だろうか。
投資会社の中で、ファンド組成から管理、投資先のポートフォリオ管理などを担う職種を指す。


一般的にバックオフィスのイメージを持たれているが、サムライインキュベートファンドでFund Controllerを務める久保浩成氏は「スタートアップの創出やVC業界の発展を企図したエコシステムの構築に最前線で関わることができる職種だ」と熱く語る。

久保氏は、日本のベンチャーキャピタル業界において、ファンドコントローラーのロールモデルがまだまだ少ないからこそ、そのフロントランナーを担っていこうと挑戦されている。

今回は、日々業務に関わる中で感じるベンチャーキャピタル業界の現在や今後、優秀なキャピタリストの条件などについて迫った。


久保 浩成 
Kubo Hiroshige
株式会社サムライインキュベート / Fund Controller

【 Profile 】1982年生まれ、高知県出身。大学卒業後、銀行に入行。支店勤務にて、中小企業を中心とした融資業務に従事した後、本部にて中小企業、上場企業を対象とした法人融資やビジネスマッチングを担当。その後、銀行グループ傘下のベンチャーキャピタルに出向、国内スタートアップを対象とした投資業務を経験し、2015年より中小企業基盤整備機構にて、ベンチャーファンドへのLP出資、モニタリング業務に従事。2019年10月にサムライインキュベートに参画し、ファンドコントローラーとして、ファンド管理及び投資家対応などの業務を行う。



ベンチャーキャピタルのエコシステムを実現する存在

NovolBa 原:久保さんが「Fund Controller」に出会った経緯を知りたいです。

サムライインキュベート 久保:新卒で銀行に就職し、上場企業向けの融資業務や中小企業の経営支援などを行っていました。そのなかで、事業はもとより組織マネジメントも経験をしたことがない自分が経営者にアドバイスをしていることに違和感を感じ、上席や人事に相談をしたことがきっかけで、外部のベンチャーキャピタルへの出向の機会を得ました。未知のベンチャーキャピタルに飛び込み、驚きの連続でした。
出向先には、いろいろなバックグラウンドを持ち、豊富な経験やノウハウ、知識を持った方々が集まっていました。おもしろいアイディアを持ち、チャレンジしたい若者たちが出すビジネスアイディアに耳を傾け、こうしたらうまくいくのではないか、とアドバイスし、一緒にアップデートし続けようとする向上心あふれる場がそこにはありました。
現場にも寄り添いつつ、一方では金融的でロジカルな議論もする。こんなに優秀な人たちが、こんなに謙虚な姿勢で仕事に取り組んでいるのか、と衝撃を受けたんです。とても高レベルで専門性の高い仕事だと思いました。

そこから、銀行のグループ傘下のベンチャーキャピタルに戻るも、改めてベンチャーキャピタルの基本知識や土地勘を学び、業界全体を俯瞰的に見ることで、起業家やベンチャーキャピタルが抱える課題を解決したいと思い、中小企業基盤整備機構へ転職しました。

:中小企業基盤整備機構では、どのような業務を担当されていたのでしょうか?

久保:国内VCファンドへの出資審査と、その後のモニタリングです。いろいろなファンドの担当をさせていただきました。通常では経験できないような投資検討の最終会議に出席させていただく機会もありました。国内のトップで活躍しているキャピタリストがどういった視点で投資活動をしているのかを間近で見ることができて、多くのことを吸収できたと思います。

:そこで、運営側の視点も身につけていかれたのでしょうか?

久保そうですね。キャピタリスト、というよりは、ベンチャーキャピタル産業を発展させる立場を目指したい、という気持ちになっていきました。キャピタリストは、大企業にいても出世できるような人たちの集まりです。そんな優秀な人たちが、大企業の社員ではなくあえてリスクを取ってキャピタリストを選んでいる。そこに大きな共感を覚えました。起業家が主役でベンチャーキャピタルは黒子、と言われていたなかで愚直に起業家や社会課題に向き合う姿勢を見て、ベンチャーキャピタルはなくてはならない存在で、自分もそれを応援し盛り上げたいという気持ちが強くなっていきました。ベンチャーキャピタルのエコシステムを構築するには必要な要素がたくさんあります。この10〜20年でキャピタリストは数も増え、レベルも向上していますが、一方でそのインフラを担うバックオフィスはまだ十分ではないです。キャピタリストを目指すよりも、自分のキャリアを活かし、バックオフィスで活躍する方がレバレッジが効き、そこに貢献できるのではないか、ということで “Fund Controller”への道を選びました。

成功事例・失敗例は100社以上、蓄積された圧倒的実績

サムライインキュベートが掲げるVALUE「志勇礼誠」の中で、久保さんのお気に入りの言葉は「誠」だという

:久保さんは、ベンチャーキャピタルの運営業務に携わりたいということで、中小企業基盤整備機構からサムライインキュベートに転職されたのですよね。改めて、サムライインキュベートの魅力を教えていただけますか?

久保:弊社は、2008年に設立しました。シード投資を行うベンチャーキャピタルの中では老舗だと思っています。成功例も失敗例も含めて、100社以上の経験があります。事業を立ち上げる際の基礎モデルも形成されてきて、オペレーションを含めて共有できるノウハウは確実に蓄積されています。
投資先も、海外を含め240社以上になりました(2023年1月現在)。起業家、事業会社、支援機関のネットワークリレーションも構築されてきています。起業家には起業家、事業会社には事業会社など、それぞれにしか分からない特有の悩みもあると思うのですが、そこを弊社のネットワークを通して解決に導くノウハウがあります。そこが強みであり、魅力かなと思います。

ベンチャーキャピタルは究極のゼネラリスト。敏腕キャピタリストの条件とは

:久保さんは役職柄、俯瞰して業界を見ることができると思いますが、ずばり、ベンチャーキャピタル業界のおもしろさは何だと思いますか?

久保ベンチャーキャピタルの仕事は、究極のゼネラリストだと思っています。日々さまざまな業界や職種、立場の方々とのやり取りが発生しますし、起業家、金融業者など多面的な視点も持っていなければなりません。このバランスを保ちつつ、経済全体におけるスタートアップの価値を創出していくこと、その絶妙なバランスを以って世の中に大きな影響を与えるハブとなることがベンチャーキャピタル業界の魅力ではないでしょうか。

:なるほど。では、久保さんが思う、優秀なキャピタリストの条件とは何でしょうか?

久保言葉に説得力があり、他人を巻き込める人、ですかね。情報量や言語化力だけでなく、経験を元にした自分の言葉で情熱的かつ論理的に話ができる人には人を惹きつける力があります。この人の話を聞いてみたい、この人に任せれば時流に乗れるはずだ、と感じさせるポジショニングができると成功する確率はグッと上がります。さらに成功事例を積み重ね、実績を以て未来が語れるようになると勝ちが勝ちを呼ぶ好循環のスパイラルに入ると思います。

この業界では、探究心があったり行動力があったりすることは当たり前の条件だと思っています。みなさん息をするかのように行われています。その中で、私が出資者の目線で大切にしていたのは、“謙虚さや素直さ”です。
上記と若干相反する部分もありますが、過去の実績に囚われず、時には過去の自分をアンラーニングしながら自分をブラッシュアップできる人、そして、スタートアップに投資して伴走していく際に、できていないことを探すだけではなく、自分ごととして起業家と対等に向き合うことができる人に魅力を感じます。
あと、何でも自分でやりたいという考え方は危険かなと思います。その企業に自分が永続的に関わっていけるわけではありませんからね。我々は、事業を成長させてその後自立できるように関わる立ち位置にいなければなりません。自分で全部やろう、というよりは、一歩引いた目で適切なアドバイスをしていく姿勢も大切かなと思います。

今後必要になる、ミドルバックオフィスを支える人材

:今後、ベンチャーキャピタルがサステナブルに発展していくために必要なことは何だと思いますか?

久保:アセットクラスとして認知される実績ももちろんですが、ベンチャーキャピタルに関わる人材だと思います。たとえば、スポーツはアスリートがいなければ成り立ちませんが、他にも医学的な知識がある人や競技についてアドバイスできるコーチ的な人も必要不可欠ですし、マスコミなどの存在も重要ですよね。

ベンチャーキャピタルにおいても同様です。キャピタリスト自体の層は厚くなってきましたが、それを裏側で支えるミドルバックオフィスの層はまだ十分とは言えません。投資実務以外にも、法務、財務、労務など、投資活動に付随する周辺業務を土地勘を持って見ることができる人が必要なのではないかなと思います。
人材の流動性を上げるには難しい面もありますが、業界としては成功事例やロールモデルを語れる実績も積み上がってきたので、徐々に下地はできつつあるのかなと思っています。

チャレンジをし続け、業界全体を産業として拡大させる

:今後の展望を教えてください。

久保弊社の理念は「できるできないでなく、やるかやらないかで世界を変える」です。ただ履き違えてはいけないのは、無責任に何でもやればいいという話ではないということ。そこにプロフェッショナルの意識と、リスクテイクができる覚悟、それに伴う情報やナレッジなどを組織に蓄えていく準備が必要であると思っています。
弊社では、これまで国内47都道府県を回るピッチイベントや、コワーキングスペースの運営、大企業とのアクセラレーションプログラムなどを先駆的に行ってきました。今後もこういったチャレンジを続けていきながら結果を出して、産業になるところまで作り込んでいけたらと思っています。

日本のベンチャーキャピタル業界の課題の1つは、その歴史が浅く、ファンドのクロージングの実績などがまだ蓄積されていないことだと思います。景気がいいときは投資も前向きですし、事業もうまく回りやすいです。投資家も見つけやすいので、投資先の企業価値もある程度右肩上がりに上がっていくと思います。ただ、その波がずっと続くとは限りません。その波を超える経験やファンドのクロージング経験はまだまだ業界全体に蓄積されてないところがあります。なかなかその経験を持った人がいない中で、弊社のさらなる成長の意味も込めて、ベンチャーキャピタルのロールモデルを増やし、ベンチャーキャピタル業界全体が産業として拡大していくための働きかけができればなと思っています。

株式会社サムライインキュベート

2008年の創業より「できるできないでなく、やるかやらないかで世界を変える」をミッションに掲げ、創業期のスタートアップを中心に出資・成長支援を行うベンチャーキャピタル。日本のみならずイスラエル、アフリカへ進出し、現在国内外のスタートアップ累計240社以上へ支援を行っている。


【編集後記】

ベンチャーキャピタルを支える「Fund Controller」についてお聞きし、スタートアップエコシステムを実現する上で必要不可欠な存在であることを強く感じました。裏側で支えるミドルバックオフィスの存在が、投資家、スタートアップを支えていることを知り、この役割の魅力をもっともっとWITHで届けていければと思いました。それが結果として、スタートアップ業界全体を更に盛り上げ、産業全体を押し上げることに一役買えたら嬉しい限りです。(原康太)


取材日:2022年11月27日
インタビュー/編集/写真:原 康太
校閲:山田 直哉

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