こんにちは。営利と非営利の両分野でお役に立てるPRパーソンを目指して奮闘中の麓(ふもと)です。
WITH内でお届けしてきた広報PR連載の最終回は、地域の「事業承継」という社会課題を解決するべく奮闘する、株式会社ライトライト・取締役COO 兼 広報PR 管掌責任者の齋藤めぐみさんにインタビューしました。多くのスタートアップが挑むのは社会課題の解決。いかに関心を持つ人を増やし、巻き込んでいくのか。そこには「自分ごと化のハードル」が立ちはだかっているように感じます。社会課題のハードルを越えるための「PR的巻き込み力」について、お話を伺いました。
齋藤 めぐみ
Saito Megumi
株式会社ライトライト
取締役COO / 広報PR 管掌
【Profile】宮崎県出身。東京の老舗出版社でライター・編集業務を行う。2013年フリーランスとして独立。2016年株式会社サーチフィールド「FAAVO」事業部マネージャー、翌年CAMPFIREに移籍し、宮崎オフィス立ち上げ、宮崎オフィス長となる。2021年株式会社ライトライト 取締役就任。コンテンツ/セールス/アライアンス/広報等 実務全般の統括を担う。
キャリアをフル活用して地域に光を当てる
―縦横無尽のご活躍をなさっている齋藤さんですが、はじめにご経歴をお聞きしてもよろしいでしょうか。
私は最初は出版社で長年編集や執筆の仕事に携わっており、その後フリーランスになりました。独立後宮崎発・地域密着型クラウドファンディングの業務に関わり始め2016年に本格ジョイン、その事業がクラウドファンディング大手CAMPFIREに事業譲渡されました。その時にM&A現場統括のような形で一緒にCAMPFIREに入り、CAMPFIRE宮崎オフィスの立ち上げや宮崎オフィス長、事業のマネージャーを経て独立しました。夫であるライトライトの代表が立ち上げた会社にジョインし、COOをしております。
立ち上げやマネージャーとして事業を引っ張る経験が、そのまま今の会社に活きています。ライトライトが提供する「relay」という事業承継マッチングプラットフォームは、記事のコンテンツ作りをゼロから行ったので、編集やトンマナを整えるといった、出版社勤務の経験も大いに役立っています。
日本初のオープンネーム事業承継に挑むライトライト
―ライトライトの事業についてご説明いただけますか?
私たちはオープンネームでの事業継承マッチングを行っています。M&Aの仲介会社は、日本中に本当にたくさんあるのですが「事業名を出している」ところが一番の特徴かと思います。「事業承継はクローズドで行うのが当たり前」と言われる中で、当社は名前も顔も出して「こういう思いでやっていて、こういうところを大事にしている。だからこういう方に継いで欲しい」というところを記事化しています。共感した方からご応募いただくので、事業者の「人となり」から入っていただけます。
―なぜ、クローズドで行う事業承継が一般的なのですか?
事業承継は通常、売上や負債の有無から入るので、秘密保持に始まり秘密保持に終わるという言葉があるくらい、秘密裏に行うのが当たり前だったのです。そもそもオープンにしようという考えが全くなくて。しかし、地域の小規模事業者さんにとっては、クローズドで進めることが決して最適解ではありません。金銭面に突出したメリットがないとしても、地域に何十年も根付いて無くしたくないお店、無くなると多くの人が困る、悲しむお店だったりするからです。今は伸びていなくても、若い方々が継承することで、DX化やEC導入といったチャンスが広がり、また伸びていく可能性がある事業が世の中にはたくさんあります。
―オープンネームで行う難しさはありますか?
当初一番言われたのは「風評被害」ですね。閉店や廃業する時に名前が出てしまうことで、変な噂が立ったり融資先や取引先に影響が及んでしまうとか。しかし、実際にrelayのプラットフォームを使って頂くと、小規模事業者さんは特に、ご自身でお客様に思いを伝えられたり、取引先とも近かったりすることから、後継者を探すために拡散に協力してくれる人がいたり… relayでしっかりした記事を書いて伝えることができているので、そこまでのリスクはない事業者様も多かったですね。
―プラットフォームとしては、会社名や担当者が公開されてしまうと、直接連絡ができてしまいますが、事業者さんがrelayを使うメリットはどんなところにあるのでしょうか?
基本的にプロのライターとカメラマンが入って取材をするので、事業者様が今までやってきたこと、考えていることが一つの記事にまとまるので、自分たちの事業の魅力を第三者目線で可視化できるところですね。プラットフォームに乗って全国あるいは世界に発信していける拡散力もメリットだと思います。
直接連絡を取り合った時の罰則は、今は特に設けていません。私たちは独占契約をしていないので、他の媒体にも掲載する方もいらっしゃいます。ここの線引きは難しく、まだまだ試行錯誤しているところです。
手数料を払ったとしても、最後の基本合意書や契約のサポートまで専門家が付いてくれますので、本気で完遂しようと思ったらrelayを通した方が良いですよ、といつも言っています。サポートメンバーであるコーディネーターと売り手さんとの信頼関係で成り立っていますね。
自治体や地域商工会へ泥臭く直球を投げ続ける
―自治体や地域の商工会にrelayを知ってもらって巻き込んでいくために、どういう動きをなさっているのでしょう?
かなり泥臭いですが、立ち上げ当初は片っ端から電話をかけていました。封書でDMを送ったり、以前繋がりのあった自治体にお話を聞いていただいたり、少し前までは後継者募集の記事が出る度にプレスリリースを出していたので、そこからのお問合せも増えていきました。ようやく芽が出て来たというところですね。
自治体によっても課題感が違ったり、県民性みたいなものもあったりするので、一斉に発信するよりも、一つひとつの自治体とお話しして、その自治体に合ったサービスをご提案していく方がすぐに効果が現れるように思います。事業承継という課題そのものが、小さい町であればあるほど喫緊の課題として捉えられています。現在進行形で様々な自治体とお話を進めているところです。
圧倒的な実績で「文化」を作り、社会を巻き込む
―社会課題って、一般の人が自分ごと化するのが難しい面があると思うのですが、そこはどう巻き込んでいこうと考えていらっしゃいますか?
ライトライトは「第三者承継が当たり前の選択肢になる未来へ」、その文化づくりを本気で目指しています。そのためには圧倒的な実績を作って、オープンネームでこれだけの後継者の方が見つかって成約しました、という数をどれだけ増やしていけるかにかかっていると思っています。私たちが一生懸命説明するよりも、実際に間近で見ていただくのが最速で波及する近道だと思っています。
買い手さんにとって第三者承継ってメリットだらけってくらい、いいことずくめなのです。起業したい人にとってはすごいチャンスで、ゼロからの初期投資がかからない、場所があってレシピがあってお客さんがいて、と、いいとこ取りの新しい形。起業でも転職でもない「新しい第3の選択肢」だと、毎月のイベントでもお伝えしています。去年だけでも累計4〜500人くらいイベントで集客できているので、ライトライトにとって大きな発信要素になっています。
―私も「relay」の記事を読んでみましたが、自分の未来、成功してハッピーに暮らしているゴールまで見える気がしました。
広報目線で言うと、やはり成功事例をどれだけ発信していけるかと言うところに力を入れたいと思っています。メディアリレーションみたいな形でしっかり取り上げていただくことを重要視しています。
「地域大好き素人の集まり」ライトライトの採用巻き込み力
―社会に広く発信して巻き込んでいくためには、社員と社員候補となる人にアプローチする必要があるかと思います。振り向いて欲しい人へ、どんな採用巻き込み力を発揮なさっていますか?
これもライトライトの特徴なのですが、事業承継の専門家に都度サポートしていただきながら、社員は全員その道の素人です。採用の決め手は「地域が大好き!」なことです。地域軸でやっていますし、ライトライトという社名も「地域に正しく光を当てる」という思いで、そこに共感して「地域を良くしたい」「地域課題に取り組みたい」人たちの集まりなのです。
事業承継というよりも「地域の方々や商店街を守りたい」といった目的でジョインして、手段としての「事業承継」を後から知る人が多いですね。地域に対する情熱とかパッションみたいなものって、スキルと違って後からついてこないからこそ、それが本質なのだと思っています。
あとは、ベンチャーなのでどんどんグイグイ変化していく、着実に進んでいく、そういう挑戦を恐れない人。会社のバリューに「未知を拓く」とありますが、そういう誰もやっていないことを開拓するモチベーションを見ています。
代表も私も、事業承継に対して素人でしたが、やりながら学んでいくことができました。知識は後からでもちゃんとついてくるので、まずは恐れずにどんどん一緒にやっていける「前のめり」な方が良いですね。
「ワンランクアップの広報」は突破力と胆力で
ー齋藤さんがなさっていることって、PRの仕事をまさに体現していると思うのですが、何か転換期はあったのでしょうか?
私のPRに関する一番の転換期は、昨年2022年4月の株式会社ストライクとの資本業務提携です。約1億円投資いただいて、そのプレスリリースを発表する日に向かって3ヶ月くらい、たくさんの準備をしたんです。たった1本の、その1日のためだけに本当に色々なことを仕掛けました。その過程の中で、私のPRに対する考え方がものすごく変化したのです。
発信するだけでなく、社内の現状をきちんと整理して把握しながら、「relayとは何者か、何を発信したいのか」を正しく理解し外に発信すること。世間一般に「事業承継」がどれだけ求められていて、どういうデータがあり、何に基づいて私たちはこの事業を行っているのか、論理的にまとめて発信すること。PRというのは、外側の情報をきちんと会社の中に取り入れて、循環させていくものなのだと、奥深さがその時初めてわかったのです。
PRっていわゆる後方支援に思われがちなんですが、PRが先頭に立って引っ張っていく会社はきっと強くなるに違いない。「ワンランクアップの広報」をずっと言い続けているのですが、いわゆる広報というところから一歩飛び出して、みんなを引っ張っていくPR広報が体現できたら、何倍も強い会社になると思っています。広報が優秀であれば会社はある程度どうにかなる、というぐらいの存在だと考えていて、PRパーソンには突破力、胆力みたいなものがすごく大事だなと痛感しています。
ー会社の中も外も情報をぐるぐる、正しく回して正しく届けて、正しく切り出して、上昇スパイラルを生み出すのですね!
事業承継の情報って結構単一になりがちで、毎年5万件廃業しますとか、このままだと126万人の雇用が失われますとか。でも数字だけじゃないもっとリアルな、世の中の情勢や困っている人たちの声、声を出せない人たちの声をもっとキャッチして、ライトライトのサービスの中にきちんと循環させていくことも、とても大事だと思います。一方で、中小企業庁の出す情報や国の施策に、ライトライトはこう対応して挑戦していこうというキャッチアップも必要です。ベンチャーは視野の広さが必要とされて、キャッチすべき情報の幅が広いのが面白いですね。国の施策から個人の、例えば一人のおじいちゃんまで、すべてキャッチアップしていきます。
ライトライトをローカル企業のトップへ
ー齋藤さんの今後の野望をお聞きしたいです。
私自身というか、結局会社になっちゃうんですが、ライトライトを事業承継はもちろん、ローカル企業のトップに押し上げたいと立ち上げ当初から思っていて、折に触れて言うようにしています。宮崎から全国展開は無理だと言われましたが、最近、北海道や新潟、福井といった色々な地方のテレビ局が当社の活動を取り上げて放送してくださって。今年は、全都道府県で特集していただけるよう、地方との繋がりを大切にしていきます。目指すはローカル全局制覇です!
そういうことができると、ローカル企業としてのベンチマークといいますかロールモデルになれるのではないかと思っています。やはり地方にこだわっているので、地域にきちんとバリューを発揮して全国に届けていきたい。東京にある企業を下請けにするぐらいの勢いでやっていきたい、という野望を持っています(笑)
ー自分たちのことだけじゃない、まさに「スタートアップエコシステム」ですね。最後にライトライトの事業が今後目指しているところを教えてください。
もっと気軽に第三者承継ができる未来ですね。後継者がいないことに後ろめたさを感じたり、親子承継でないと恥ずかしい、というような事業者さんと社会の意識を変えていかないと、地域に根付いた事業が減っていく一方です。事業者さんが廃業の決断をする手前で、もっと気軽に後継者探しをできる未来、オープンでポジティブな第三者承継をもっと当たり前の選択肢にしていきたいですね。そのための地道な文化づくりに邁進していきます。
ー今日は夢も視野も大きな最高のお話をありがとうございました!
企業情報
株式会社ライトライト
ライトライトは「地域に正しく光を当てる」をミッションに、事業承継マッチングプラットフォーム「relay(リレイ)」の運営やクラウドファンディングの企画/体制構築/実行支援、新規事業の立案、立ち上げ、運営サポート、web/紙媒体の編集/ライティングなどを行っています。
【編集後記】
連載の締めに、最高にパワフルなお話を聞くことができました。6回に渡り、スタートアップの広報PRについて書いてきましたが、新しく知ることも多く、私自身学びあふれる、いえ、学びに必死な6回となりました。新しいことを知るのはとても楽しいことです。まだまだ学んで行動し、さまざまな巻き込み力を発揮できるようになりたいです。最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!(ふもと)
取材日:2023年3月7日
インタビュー・文:麓 加誉子
編集:神成 美智子
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