KUSABI 渡邊佑規 Watanabe Yuki

VC Vol.014 KUSABI ・代表パートナー 渡邉 佑規さん

第14回は、VC業界で名を馳せてきた3人のキャピタリストが共同で設立した、ベンチャーファンド「KUSABI」の代表パートナーを務める渡邉 佑規さんにインタビューしました。挑戦するのは、兆円企業の創出。世界で勝てるユニコーン、デカコーン企業を世に送り出すため、100億円を超える1号ファンド、アクセラレーションプログラム「KUSABI α(アルファ)」が2023年3月より本格始動。
敏腕キャピタリスト・渡邉さんの思考と起業家への思いを伺いました。

 


渡邉 佑規
Watanabe Yuki
Wedge 株式会社(KUSABI) / 代表パートナー

【Profile】静岡県出身、一橋大学大学院修了。2004年に三井住友銀行に入行し、主としてホールセール業務に従事した後、2008年に行内公募制度を活用して大和SMBCキャピタルへ出向、VCキャリアをスタート。2015年にグロービス・キャピタル・パートナーズへ入社、シニアキャピタリストの一角を担う。2021年に独立、KUSABI の代表パートナーを務める。
(主な投資先)TRiCERA, STRARTS, TRIPIA, Laspy, QuickWork, xincere 等


 

【 ファンド情報 】 ※2023年3月取材時の情報

ファンド名
KUSABI 1号投資事業有限責任組合
サイズ 106億円
ファイナルクロージング 2023年3月
運用期間 10年間
チケットサイズ 2,000万円~5億円
投資対象
情報通信・ITサービスをメインに、フルセクター。BtoB/BtoC問わず
投資ラウンド
プレシード、シード、アーリー中心。(一部、ミドル、レイターも含む)
基本戦略
徹底したリード投資、ハンズオン支援

 

VC業界のツワモノたちが集結

NovolBa 神成:KUSABIさんはVC業界で有名なベンチャーキャピタリスト3人で創業されたと伺っています。どのような出会いだったのでしょうか。

KUSABI 渡邉:私たち3人は同じくらいの時期にVC業界に入りました。リーマンショック前後の最も辛い時期で、VCの仲間内でも、毎月のように「〇〇がクビになった」「××が転職してVCから足を洗うことになった」という話を聞くような。VC各社、積極的に投資活動をしているプレーヤーはほとんどおらず、投資できても5千万円とか、そんな時代でしたね。
この業界は「ライバルでありながら共同投資家としての仲間」という稀有な業界で、3人とも少し変わり者だったので、気の合う人が少ない中なんとなく馬が合ったのです。

神成:みなさん素晴らしいご経歴と投資実績をお持ちで、アベンジャーズ状態ですね(笑)
始めから3人で立ち上げようというお話だったのですか?

渡邉:実は他にも声をかけているメンバーがいる中で、最終的にたまたまこの3人の布陣になったというのが正直なところです。そういった意味で、未来永劫この3人のみでやっていくというつもりもなく、理想的には優秀な人をどんどん呼び込み、横並びで拡張していきたいと思っています。多くのVCは創業者であるキャピタリスト・General Partner(GP)が不動の地位であることが多いと思うのですが、KUSABIは違います。実力があって成果を出せれば横並びのGPとなる、結果出せなければ創業メンバーでも居場所がなくなる、結果・成果にコミットすることにこだわる組織を志向しています。

また、せっかく新しいVCをやるのだから安易にプラクティスを踏襲するのではなく「他でやったことがないことに挑戦する、本来あるべきことを追求する」のが私たちの存在意義。One of themになってしまったら、良いVCを辞めてまで創業した意味がありませんから。世の中へのインパクトを追求したいので、それには規模がどうしても必要です。どんどん人を増やして取り扱うお金も増やして、しっかり爪痕を残したいです。

神成:そこまで追い込んでいる投資家も珍しいですね。なかなかできることではないと思います。

 

ロゴへの思いを説明する渡邉さん。一本一本の楔(くさび)が既にある程度打ち込まれた状態を意味するそうだ。

「虫の目、鳥の目、魚の目」の視点

神成:多くのスタートアップから投資を求めてアプローチがあると思いますが、起業家のどのようなところを見ていますか?


渡邉:当たり前のようですが「信頼できる人かどうか」ですね。良いことしか話さない、良い答えしか返ってこない人には、懐疑的です。スタートアップには何らかの「穴」があるのが当然で、そういう課題やリスク要因を自己認識できていない、投資家と共有できない人はNOです。
また「なぜ起業したのか」、いわゆる「Why you?」に関わる原体験、起業家が成し遂げたいことは非常に重要だと思います。

物事をあらゆる視点で見られる「虫の目、鳥の目、魚の目」を持ち合わせているかも大切ですね。大きな構想を抱ける「鳥の目」と、小さいことに気が付く「虫の目」、どちらも大事で、ようはバランスかと。昨今、スタートアップのピッチの中で「Why now?」を伝える人は多いと思いますが、これがまさに「魚の目」、流れを読んで未来を見通す目ですよね。

神成:「抽象と具体」のバランスにも置き換えられそうですね。ほかに、起業家として最低限もっておくべきスキルはありますか?

渡邉:ファイナンス思考でしょうか。私は、数字で会話ができない人は事業を伸ばせないと思っています。創業者自身が数字に強いに越したことはありませんが、強い人が近くにいれば良いと思います。どちらもない場合「教えればわかる素養・センスのある人、興味を持てる人」であって欲しいです。

 

リード投資とハンズオン支援にこだわる

神成:KUSABIさんの投資フェーズ、投資戦略をお聞かせください。

渡邉:プレシード、シード、アーリーが中心ですが、ミドルも一部組入れています。プレシードの場合は、事業が決まっていない、一旦これをやるが変わるかもしれない、要はピボットの可能性がある、という人でもOKです。完全に起業家の能力、ポテンシャルに投資するものとなります。学歴、職歴といったもののほかに、趣味や部活なども含めて「今まで何を成し遂げてきたのか」「再現性をもってコトを成し遂げられるのか」、私たちの人生と経験を総動員して判断します。
常にゼロベースで「しなやかに」意思決定し、行動できるかどうかもポイントです。

神成:なるほど!渡邉さんは言語化がお上手ですね。とてもわかりやすいです。
KUSABIさんならではのこだわりはどんな部分でしょうか?

渡邉:リード投資には一番こだわっています。日本のVC業界を見渡すと、シード/アーリーステージは特に、リード投資不在でクロージングしない案件も多く存在しています。我々は責任をもってそこを埋めにいこうと考えました。
また、社会にどれだけのインパクトを与えられる事業なのか。投資家視点で言えば「エクイティストーリーの魅力」を常に意識しています。例えば「IPOはできても、One of themで他社とやっていること変わらないよね」といった案件は、見送ることもあると思います。

業界を俯瞰してみたときに「自分たちなら成功させられる、KUSABIなりの付加価値が出せる」という観点も投資判断を左右します。これにより、ポートフォリオがユニークになるので、LP投資家さんにとってもハッピーだと思っています。

神成:チケットサイズが2,000万~5億円と随分幅がありますが、これはリード投資にこだわり、一気通貫で投資するということでしょうか。

渡邉:そうですね、投資金額にはいくつかの変数があるので、そのチームがチャレンジしているテーマの大きさ、市場構造やKSF(Key Success Factors)によって投資すべき額も変わってきます。そのお金を入れることで、どうグロースするか、どうスケールするのか、具体的な資金使途を含めてとても重要です。

また、投資先へのハンズオン支援は広く深くめちゃめちゃやっています!これは本当に胸を張って言えますね(笑)例えば、私の投資先で、現代アートのECプラットフォーム事業を行うTRiCERAという会社がありますが、代表の井口さんとは、ほぼ毎日コミュニケーションをとり、日々の経営意思決定に伴走しています。出資先の方にハンズオンの中身を聞いていただければ、濃い中身をわかっていただける自信があります。

 

 

起業家の意識と行動

神成:起業家はどんなところにアンテナを張り、どう過ごすべきだと思いますか?

渡邉:私の中には明確にありまして「自らが魅力的になること」「自分磨きをすること」が解だと思います。自分が魅力的になれば、周りに人が寄ってきます。アンテナを高くすることも大事ですが、まず、自分自身がユニークなバリューを出せるようになることを意識すると良いのではないでしょうか。この業界は好奇心がある人が多いので、ユニークな人、面白い人、何か特定の分野が尖っている人を常に求めています。
あと、ポジションをとることもすごく大事ですね。耳目を集める問いに対して「私はこう思う」「私は○○を支持する」「将来仮説はこうである」といった感じで、自分の意見を表明するのです。そうすることで、敵も増えるかもしれませんが、仲間が増えるきっかけになります。

神成:すごくわかります。それらしいことだけを言っているだけの方、意外と多いかもしれません。

渡邉:スタートアップ業界でもよくあることですが、皆が知る有名な人の言うことは無条件に信じて「正しい」と思い込んでしまう人が多い気がします。時価総額100億とか20億調達した人とかのセリフを、あたかも金言のように思ってしまいがちですが、実はそれは汎用的ではない、固有の解だったりすることが多々あります。 先人からの学びを得ることは大切ですが、自分なりのアウトプットをすることが、より良質なインプットに繋がると思うのです。インプットするときは情報の正しさを意識して、常に疑問(問い)を持ちながら実際に試して、何をとって何を捨てるか、自分で判断できる人であって欲しいです。

 

 

今後の展望

神成:最後に、KUSABIさんの今後の展望をお聞かせください。

渡邉:先ほどの話の延長にはなりますが、起業家にとってもVC業界にとっても「替えの利かない存在になること」です。また、現在はまだ私たち1人ひとりの看板で戦っているので、KUSABIとしての看板をしっかり磨いていきたいですね。すでに22社に投資をしていまして、すべて成功すると思っていますが…(笑)胸を張って「ユニコーン、デカコーンになる」と断言できる投資先はまだありません。
飛びぬける会社をこの先2~3年で生み出していくことが、我々がやるべきことです。
その先には時価総額「兆円」企業の創出があります。一時期のメルカリさんの時価総額が1兆円を超えていました。これくらいじゃないと世の中に振り向いてもらえないですし、インパクトを残せません。
その足掛かりとして「KUSABI α(アルファ)」というアクセラレーションプログラムを始動しました。企業や事業が生まれたての、初期の段階から関わることで、「兆円」企業を一定の再現性を持って生み出せるのではないか、という仮説を持っています。

「三つ子の魂百まで」の言葉通り、起業家のマインドは最初の段階でかなりの部分が固まってしまう。だからこそ、初めにどこまで目線を引き上げられるかにかかっていると思うのです。「兆円」企業を生み出すためには「急がば回れ」です。

神成:渡邉さん個人としてはいかがでしょう?

渡邉:日本のスタートアップ業界にとって、日本の大企業が重要なカギを握っていると思っています。 USではスタートアップとVCを中心とした「スタートアップエコシステム」が回っていますが、日本の場合はどうでしょう。その二者だけで大きなエコシステムが作れるとは言い切れず、そこに大企業の存在が必須だと考えています。日本の場合、優秀な人がいるのも、お金があるのも大企業なんです。大企業をどうやってこの業界に巻き込めるかが肝で、繋ぎ役というか、カタリスト的な役割を果たせたらいいなと思っています。
私は元々SMBCにいて、所属していたVCもエスタブリッシュなところでした。大企業側、スタートアップ側、どちらの気持ちもわかるので、自分の付加価値としてうまく繋ぎ合わせる触媒になれるよう尽力していきます。

神成:渡邉さん、とても勉強になる貴重なお話をありがとうございました!

 

 

番外編 ~起業家にサッカー部が多い理由~

神成:渡邉さんのファーストキャリアに銀行を選んだのはなぜですか?

渡邉:私は小学生から大学生まで野球ばかりしていて、それ以外の記憶があまりありません(笑)いざ、就職の時にやりたいことが特になくて、野球以外でなにか生きがいになる仕事に就きたい、と漠然と考えていました。勝負事も好きだったし「我こそは」というギラギラした強そうな人がいるところを、と当時就職希望ランキング2位のSMBCに入社することにしたのです。優秀な人がたくさんいると思ったので。

神成:渡邉さんは野球少年だったのですね、意外です!
これは私の個人的データなのですが(笑)起業家は圧倒的に元サッカー部が多くて(5割)、次にバスケ部(2割)、その他って感じでして。今まで元野球部の起業家の方にお会いしたことがないんですよ。

渡邉:それは論理的に説明できるかもしれません。僕は野球が大好きでピッチャーをやっていたので、あまり野球をディスりたくはありませんが…(笑)
野球は「監督至上主義」です。監督が圧倒的なパワーを持ち、ゲーム中に試合を止め、非常に具体的な指示を選手に出すことが可能です。選手はそれぞれが決められた役割をきっちりこなすことが求められます。かつての日本の製造業などは、野球とすごく相性がいいですよね。

逆にサッカーは相手チームの出方によって臨機応変に動くことを求められます。また、ゲームを途中で意図的に止めることも難しく、何か不測の事態が起こっても監督の指示を仰ぐといったことはできず、選手が主体的に瞬時に考えて対応しなければなりません。起業家に、サッカーをやっていた人が多いのはわかる気がします。

神成:やっぱり渡邉さんは言語化がお上手ですね!(2回目)今度、起業家の方々に学生時代部活は何だったのかアンケートをとってみたくなりました!

Wedge株式会社(KUSABI)

設立:2021年3月
ファンド運用額:106億円
事業内容:ベンチャーキャピタルおよびアクセラレーションプログラム『KUSABI α(アルファ)』の運営
ミッション:
-時価総額1兆円クラスの企業創出を通じた国力向上
-シリコンバレーのエコシステムに比する生態系の構築
-VC業界の進化の布石、礎となる

 

 

【 編集後記 】
ベンチャーキャピタリストの皆さんは、知識と経験が豊富で聡明な方ばかりですが、渡邉さんはとにかく「言語化」がお上手で驚きました。また「原石を見つけてリード投資をする」というのは並大抵のプレッシャーではないと思うので、起業家に伴走どころか、時には前を走ってみせたり、後ろから押したりされるのかな、と想像しています。投資家としての本気度がひしひしと伝わってきたインタビューでした。
個人的には「どんな方が起業するのか」というデータをもっと集めてみたら面白そうだなと思っています。元野球部の起業家の方がいらっしゃったら、ぜひご連絡ください!(神成)



取材日:2023年3月6日
取材・文:神成 美智子
写真:原 康太
校正:山田 直哉

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