スタートアップの広報PR

連載①スタートアップが知っておきたい広報PRの考え方

「広報 PR」はよく聞く言葉ですが、意味や意義を問われるとあやふやなことはないでしょうか。また、変化の大きなスタートアップにおける、広報PRのあり方や手法も特徴的なものがあります。

今回から全6回の予定で、「スタートアップにおける広報PR」の連載を開始します。少しでも皆様のヒントになるような情報をお届けしていきます。

1. 広報PR「パブリックリレーションズ」の本質はコミュニケーション

最初に、広報PRの本質はコミュニケーションである、とお伝えします。PRの正式名称は「パブリックリレーションズ」で、利害関係者(ステークホルダー)と双方向のコミュニケーションを行い、継続してよい関係を構築するためのマネジメントを指します。ステークホルダーとは、組織の内外を問わず利害が絡む関係者全体を指し、たとえば社員、出資者、ユーザー、今後ユーザーになりうる人たちなどのことをいいます。

PRと混同されがちなものに、広告、広報、マーケティングなどがあります。PRがファン作りを行う「love me」であるのに対して、広告は「buy me」と表現され、広報はより狭義で一方的なPRということができ、マーケティングは売るための手段を模索するものです。

ソーシャルメディアの出現と拡大により、消費行動のモデルもAIDMAからAISAS*に変化しており、双方向コミュニケーションの重要性が増す現代に広報PRが果たす役割や効果は強力です。急成長を狙うスタートアップこそ、広報PRの本質はコミュニケーションであることをしっかり認識し、経営の意思決定に生かしていきたいところです。

*AISAS:Attention(注意・認知)→Interest(興味・関心)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有)の頭文字をとって、インターネット上での消費者行動を説明するモデルの一つ。対して、平成初期以前はAttention(注意・認知)→Interest(興味・関心)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(行動)の「AIDMA」とされていた。

2. PRパーソンに求められる資質とは

社内外とのコミュニケーションを担うPRパーソンは、自社を誰よりもよく理解し、プロダクトやサービス、理念の第一のファンであることが求められます。一方で「Cool Head but Warm Heart」という言葉のように、現状と将来を冷静に見極めるマネジメント層に近い目線も必要とされます。

PRパーソンには以下のような資質が求められてきました。
 ①社内外のステークホルダーと円滑にコミュニケーションを取る能力
 ②情報を取捨選択して正確に伝えるライティング能力
 ③自ら率先して情報を発する発信力
 ④積極的な情報取集のための行動力

近年は社会の発展・成熟に伴って、CSRやSDGsなどのアンテナを高く持つ必要もあり、これらの倫理観はマネジメント層以上にPRパーソンに求められるとも言えそうです。

3. スタートアップにおける広報PRの特徴

スタートアップとそうでない企業には大きな違いがいくつかあります。スタートアップは、その性質からピボットによって提供するプロダクトやサービスが変わることがあり、提供するものが変われば広報PRの方法や目標設定も変わってきます

また、成長のステージによって、ステークホルダーも大きく変化します。シード期にはエンジェル投資家やファーストユーザーなど限られたステークホルダーとなりますが、成長に伴って、VCやクラウドファンディングの支援者なども視野に入ってくるでしょう。ステークホルダーの範囲や種類も多様化します。

様々な変化や組織の成長に伴って、広報PRに求められる役割も変化していきます。創業間もない時期は、何よりも「社外への存在アピール」を優先すべきです。ビジョンやミッションを策定し、自分たちの挑戦する領域へ強く共感してもらう必要があります。

共感してもらえるメッセージ作りをするためには、すでにステークホルダーである方々との誠実なコミュニケーションと、今後ステークホルダーになりうる方へのヒアリングが重要です。いずれも1対1の双方向コミュニケーションを大切に進めていきましょう。

事業が確立してくると、マーケティングや営業との連携が求められます。提供するプロダクトやサービスが確定しアクセルを踏む時期は、事業を強化するための広報PRが必要です。カスタマージャーニーの設計やKPIの策定、モニタリング手法などのマーケティング戦略を策定し実行します。

いずれの段階も、専任のPRパーソンが必須というわけではありませんが、経営陣は広報PRの重要性と役割をしっかり認識する必要があります。

4. スタートアップの広報PRが目指すべきこと

スタートアップに限らず、どんな組織においても広報PRの目的は「自社のブランド力を高める」ことです。「この商品・このサービスならこの会社」という印象を広く持ってもらうことこそ、広報PRが目指すべきところと言えます。

そのためには、どんな人が自社のプロダクトやサービスに興味を持ってくれているのかを把握する必要があります。スタートアップの広報PRの難しいところは、それらのステークホルダーが、すでに述べたように組織の成長によって大きく変化するという点です。

スタートアップのPRパーソンは変化の都度、ステークホルダーの把握・分析を重要視すべきです。ステークホルダー図を描き、自社との関係性の種類、関係の遠近、人数などを可視化するとよいでしょう。

ステークホルダーが把握・分析できたら、社内外を問わず、情報は待たずに取りに行きましょう。そのためのコミュニケーションの設計を丁寧に行う必要があります。多様なステークホルダーの中から、コミュニケーションの対象者を選定し、ペルソナを設定し、期待する態度の変容から 届けるべきメッセージを作り、対象者の属性に適した情報ツール を選びます。

シード期、アーリー期の広報PRは、プレスリリースに頼りすぎないことが大切です。プレスリリースも重要ですが、直接のコミュニケーションをより重視しましょう。気になる情報は積極的に掴みにいき、「この人のところに行けば情報がある」と、周りから頼られるPRパーソンを目指したいものです。

スタートアップは早期から広報PRへリソースを割こう(まとめ)

ここまで、PRパーソンに求められるもの、役割などを述べてきましたが、スタットアップのシード期・アーリー期の広報PRに最も不可欠なものは、経営層が広報PRの必要性や重要性、効力を認識することだとも言えます。

たとえ専任の広報担当者を置かなくても、広報PRの機能を担う人材をできる限り早期に位置付けるとよいでしょう。広報PRの機能は、社外のステークホルダーに対してよい関係を構築し、ブランド力を高めるだけでなく、社内に向かっても自社の存在意義を整理・再確認し実行力を高める効果があります。

スタートアップにとって早期から広報PRにリソースを割くことは、急成長の起爆剤となりうるのです

次回予告

次回は10/12(水)に、「ソーシャルメディア」についての記事を配信する予定です。
どうぞお楽しみに!

文/ 麓 加誉子
編集/ 神成 美智子


【麓 加誉子 プロフィール】
フリーランスライター+市民活動家。広く社会課題にアンテナを張ってライター活動9年目。社会課題解決のためにも「伝える」ということに特に課題感を持ち、広報PRは非営利活動分野から始めて実践を重ねている。個人的には団体広報と企業広報の融合がテーマ。

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