freee Tsujimoto Yuka 辻本祐佳 CCO

Vol.47 freee株式会社・CCO 辻本 祐佳 さん

第47回は「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、中小企業や個人事業主を中心とした顧客へ「クラウド会計ソフト freee会計」を中心にサービスを提供するfreee株式会社。「マジ価値」や「あえ共」といったユニークな独自文化の推進者、Chief Culture Officer(CCO)の辻本 祐佳さんにお話を伺いました。


freee COO 辻本祐佳 Tsujimoto Yuka

辻本 祐佳 
Tsujimoto Yuka
freee株式会社 / CCO

【 Profile 】和歌山県出身、一児の母。東京大学法学部を卒業後、楽天株式会社に入社し、法務を担当。2017年8月にキャリア2社目となるfreeeに入社。PRや価値基準の再定義プロジェクトに関わり、2018年7月以降は一貫してカルチャーの領域で人事総務機能など通じた組織づくりに取り組む。


ミッションを達成できる組織であるための価値基準

NovolBa 神成:スタートアップでMVVを大切にしているところは多いですが、freeeさんはそれがカルチャーとして浸透しているように見えます。
カルチャーはどういうものだと捉えていますか?

freee 辻本 :“Culture eats strategy for breakfast.(企業文化は戦略に勝る)”というピーター・ドラッカーの言葉がありますよね。freeeが掲げるミッションを達成していくうえで「それができる組織であること」が重要で、大きく関わってくるのが「カルチャー」だと考えています。
一方で、カルチャーというものは、会社や経営陣が自分たちだけで考えて作れるものではなく、あくまでそこにいるメンバー全員の行動や思考の結果にできあがるものなのではないでしょうか。一朝一夕ではつくれませんし、今できていることで慢心して気を緩めるのではなく、常に能動的に関わっていくことが必要なのだと思います。
freeeでは、MVVのV(value)にあたる「価値基準」が浸透しています。これはfreeeとして大切にしたいマインドや行動の指針を言語化したものなので、私たちがカルチャー・組織作りについて考えるとき、この価値基準を中心に考えるようにしています。

神成:素敵ですね!創業してからそこに行き着くまでには、きっと色々な変遷があったのではないでしょうか?

辻本:価値基準については初期の頃から何度も見直しをしてきています。まったく違うものというよりは「そのときに自分たちにとって必要な要素は何か?」を全員で議論し、アップデートしている形です。それでも、コアにある「マジ価値*」という考え方だけはずっと変わっていません。
こうやって「全員で議論する」だとか、マジ価値*に表れているユーザーへの向き合い方、ユーザーに感じてもらいたいブランド価値の具現化などを通じて、freeeが大切にしたいfreeeのカルチャーができあがってきていると思います。
*「本質的(マジ)で価値ある」の略。ユーザーにとって本質的に価値があると自信を持って言えることをする、という考え方。

神成:なるほど。そういった価値基準が根付いて、freeeのカルチャーに繋がっているのですね。

最高文化責任者(CCO)とは?

神成:辻本さんのCCO(Chief Culture Officer)*という肩書は、日本ではまだ多くないように思います。社内でどのような役割を担っていますか?
*2006年にカルチャー醸成のためGoogle社が役職をつくったことで、世の中に広まったと言われている。

辻本:freeeという集団が持つ力として「カルチャー」の力を一番信じていて、オーナーシップをもって一番気にかけている人。良し悪しの判断をするのではなく、価値基準などを通じてfreeeの誇るべきところをみんなに伝える、体現に向けて働きかけるのが私の使命だと思っています。
また、会社で起こる全ての出来事がカルチャーに関わるので、常に「これはミッションの達成に近づいているのか」を基準に考えます。

神成:メンバーが増えていくと、違った考えやアイデアがいくつも出てくると思います。辻本さんはどのように多くの意見を取り入れてfreeeらしさに昇華していますか?

辻本:とにかくまず意見をしっかりと聞いた上で、とことんみんなで話合います。そうすることで、納得のいく良い解決案が生まれると思うのです。話し合いをする時には、前述のとおり「必ずミッションに立ち返って」freeeが大切にしているものにどちらがより近いか、で判断するようにしています。

freee COO 辻本祐佳 Tsujimoto Yuka

社内活動をサポートして文化醸成を一番に考える

神成:元々カルチャーを大切にする社風はあったのだと思いますが、改めてCCOという役職ができた背景をお聞かせください。

辻本:freeeは一般にいうバリューに近い「価値基準」をコアに持って拡大してきた組織です。積極的に採用活動を続け、2017年頃には既存メンバーと新規採用者が半々という状態になりました。そのときに「本当にこの組織の一人ひとりに価値基準が伝わっているのだろうか」「今後、価値基準が組織の“コア”であり続けるためには、今のままでいいのだろうか」という課題感が、当時の経営陣の中で持ち上がってきました。
私は、まさにその2017年8月に入社したメンバーのひとりでした。

最初は広報PRとしてジョインしたのですが、前職までの法務職とのギャップで少し難しさを感じていました。広報PRは「世の中の潮流を読み、どんな切り口でどう見せるか」考えられることが大切だと思いますが、私自身はそういったことが得意ではないことに気づいたためです。

そんな時「Weekly All Hands」という、全社共有会のチームに入ってMCを任されることになりました。社内の色々な人・チームの取り組みを知り、そういう「人」や「活動」が生まれるイキイキとした「場づくり」「組織作り」というものに興味を持ち始めたときに、価値基準の見直しプロジェクトに参加することになったのです。
経営陣との約半年のプロジェクトを経て出来上がった価値基準を、本当にfreeeの「コア」にしていくためには、そこにオーナーシップをもつチームが必要ということで、カルチャー推進部が発足しました。
価値基準を中心とした「freeeのカルチャー」にアプローチする機能を集めたチームで、社内コミュニケーションの設計やオフィス設計・運営、人材育成や人事制度など、色々なことを担当していました。

その後、時を経てチームの編成などが変わっていきましたが、各々の機能がチームとしてしっかり成熟したこともあり、現在はひとりCCOとして、また新たなミッションを持って動いています。

アソビゴコロあふれる言葉選びと体験設計

神成:クレドやバリューといったものをつくっても、定着して会社内に浸透させるためには、何か仕掛けが必要だと思うのですが。

辻本:価値基準を深く理解してもらうためには、「言葉として知る」だけでなく、実際に体験してもらうことが必要と考え、イベントを含めた体験の設計に力をいれています。
例えば「フリスピ(freee spirit)」は年初の全体キックオフ、「フリクラ(freee claps)」は期の半ばにお互いを慰労しあう日、「あえ共(あえて共有する)」は2月14日など、各メンバーがfreeeのミッションや「マジ価値」を体感し、自分ごととして考えられるきっかけを設計しているのです。
カルチャー・デベロップメントという専任チームが、イベントの企画・実施だけでなく、日々の生活の中でカルチャーを意識するための取り組みを担っています。

神成:フリスピ、フリクラ…とにかく全ての言葉選びがユニークでインパクトがあって、最高です!noteも色々読ませて頂きましたが、ただコトバ遊びをしているのではなく、そこに意味がしっかり込められているのが秀逸だな、と。

辻本:ありがとうございます!コピーライターが入っているわけではなく、メンバーが大真面目に考えた言葉たちなんです。本質的な価値があることを「マジ価値」、新オフィス移転プロジェクトを「新宝島」、本社と支社と呼ぶのに違和感があって、全国のオフィスをそれぞれそのオフィスのある場所を冠して「〇〇ネスト」と呼んだりします。

神成:マネージャーの役職はメンバーを輝かせる役割であるから、タレント事務所の業界用語「ジャーマネ」を使っているのが、個人的には一番のツボでした(笑)

辻本:こうやって覚えていただけるので、ネーミングって大事ですね。「7つの価値基準」については水の缶に印刷をして、お客様や採用面接でいらした方には持ち帰っていただいています。帰り道にふと目に留まり、freeeが大事にしていることが少しでも伝わったら嬉しいです。

缶の裏には「マジ価値2原則」と「マジ価値指針」が記されている

価値基準が浸透しているかの指標

神成:どのくらいカルチャーが根付いているのか、ミッションに近づいているのかを数値化することは、なかなか難しいと思います。どのようなKPIを立てていますか?

辻本:おっしゃる通り、直接的・定量的に測ることは難しいため、そういった意味でのKPIはありません。また「目標」というと定量的なものが挙げられることが多いですが、定性的に状態を把握することも重要だと考えています。

年に1回、全社員に匿名で回答してもらうアンケートがありまして、その中に「価値基準」一つひとつの項目に対して「(自分自身が)共感しているか」「(組織として)実践できていると思うか」を聞くことで、価値基準の浸透度を測っています。

もうひとつ、組織、メンバーの状態を計る指標として、「パルスサーベイ*」というものがあります。定期的にたった3問だけ「今あなたの仕事は充実していますか」「人間関係は充実していますか」「眠れていますか」を聞いて、答えてもらうというものです。一定期間回答がない、眠れていない状態が続いている、といった人にはすぐにアクションをします。
もちろん、こういった数値だけで「組織が健全」と判断できるわけではありません。
*2022年10月から別チームに引き継ぎ。
ひとりCCOとして動き出したのはこの10月からですが、指標となる様々なものを見つけていきたいと思っています!

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経験貯金を増やすため、スタートアップに転職

神成:最後に、辻本さんのキャリアについてお話を聞かせてください。

辻本:大学を卒業して、新卒で楽天に入りました。当時、楽天がバックオフィスにも新卒を採用し始めたころで、法務で7人目のメンバーでした。次々に持ち込まれる、様々な難題を解決することにやりがいがありましたし、相手が違えば課題も異なります。同じパターンは1つとしてなかったので、どんどん経験を積めている感覚があり、とても楽しかったですね。
情報を集約して整理・再構築するのがおもしろくて。例えば訴訟の場合なら、過去の関連資料はすべて読み込んで「これはうちの主張に使えるな」と証拠資料を集めて…そういうアプローチはめっちゃ得意でした(笑)  

神成:辻本さん、インプットして整理するのが得意そうですよね!楽しい職場だったところから、freeeに転職するきっかけは何でしたか?

辻本:職業選択という意味でも、新しいことにチャレンジしてみたいという気持ちがあり、そんなときにfreeeに出会いました。私は和歌山県内のかなり田舎の出身なのですが、大学で東京に出てきたときに、成長環境における機会格差を感じていました。スモールビジネスと大企業という場面でも、規模感の差からくるチャレンジできる環境の差があり、それをテクノロジーで解決したいというfreeeのミッションに強く共感して、その世界観にワクワクしたのです。

神成:素敵ですね!今まで大企業で築き上げてきたものを捨てて新しい環境に飛び込むのは、結構勇気がいりますよね。

辻本:freeeでは初めてのことばかりで、広報PRの時は「自分がfreeeに貢献できているのか」と不安に思った時期もありましたが、色々なことにチャレンジできて、freeeのミッションや「マジ価値」の実現に向けて何が必要か?を日々問うことができています。
これからもfreeeらしくカルチャーが進化していける環境をつくっていきたいと思います。

神成:本日はありがとうございました!

freee株式会社

「スモールビジネスに携わるすべての人が、 創造的な活動にフォーカスできるよう」というミッションのもと2012年に設立。クラウド型会計ソフトを皮切りに、人事労務や会社設立支援と、スモールビジネスのバックオフィス業務を効率化するクラウドサービスを開発・提供している。


【 編集後記 】

行動指針は「会社が定めてそれに従うもの」となりがちですが、freeeでは、メンバーそれぞれが「主体的にカルチャー作りに参画している」ように感じました。また、オフィスにお邪魔して驚いたのは、ミッションを考える仕掛けがそこかしこにあり、アソビゴコロがたっぷり盛り込まれていたことです。今後の更なる進化のために、辻本さんが担うCCOという役職がキーであることは間違いありませんね! 辻本さん、広報のさくらさん、ありがとうございました!(神成美智子)


取材日:2022年11月17日
インタビュー/文:神成 美智子
写真:原 康太

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