江尻 祐樹- Ejiri Yuki 株式会社ビットキー 代表取締役CEO

Vol.48 株式会社ビットキー・代表取締役CEO 江尻祐樹さん

第48回は、人・モノ・サービス・空間をつなげるプラットフォーム事業を行っている株式会社ビットキー・代表取締役CEO 江尻祐樹さんにインタビューさせていただきました。

創業4年目ながら累計調達額は約120億円。プラットフォームサービス『homehub』『workhub』の展開先はオフィスビルや住居など、その域は留まることを知らない。そこには、代表 江尻さんの事業・組織創りに対する特別な考えが根っこにあるのです。

「ビジョンを設定する」「メンバー同士の共通言語を作る」といった、一般的な組織作りとは違う江尻さんの特徴的な思考に迫りました。


江尻 祐樹 
Ejiri Yuki
株式会社ビットキー / 代表取締役CEO

【 Profile 】1985年生まれ。大学では建築/デザインを専攻。リンクアンドモチベーショングループ、ワークスアプリケーションズなどを経て、2017年プライベートで先進テクノロジー研究会を発足し、同研究会メンバーを中心に2018年8月に株式会社ビットキー創業。ビットキーの中核を担うID連携・認証認可の基盤『bitkey platform』の発明者でもある。


ビジョンは「動的」なものであるべき

NovolBa 原:まずビジョンについてですが、江尻さんの場合は未来を見据えた上で現在を描いていらっしゃる印象があります。改めて、江尻さんのビジョンについてのお考えをお聞きしたいです。

ビットキー 江尻 :一般的なスタートアップの場合、おそらく特定の領域や業界の課題があり、それをどう解決していくかをビジョンとして描いていることが多いです。でも、僕にはそれがありません。なぜなら「答えがわからない」から。30年後に何をやっているのかなんて、全然想像がつきませんよね。だから「こんな社会になったらいいよね」と静的なビジョンを長い目で見るのは良くないと思っています。大事なのは静的なビジョンではなく、「動的」なビジョンです。

今は、不確実性が高くてどうなるかわからない時代です。ビジョンは最初からあるものではなく、ベクトルのような抽象的なもの対し、何かのタイミングで描き出して実現できる動的なものであるべきだと思っています。

:何かのタイミング、というのは例えばどういったことでしょうか?

江尻:人との出会いなど、偶発性や運、縁のことを指します。たとえば、ある人との出会いがきっかけで事業が軌道に乗ることがありますよね。その人との縁があったからこそ、それを活かしてより社会にインパクトがあるものを生み出せる瞬間があると思います。抽象的な方向性があって、チャンスがあったときに具体的なビジョンができあがる。これが動的なビジョンだと思っています。

:なるほど。動的なビジョンであるからこそ、ここぞという時に具体的な行動に移せる、ということでしょうか?

江尻:そうですね。あと、動的にビジョンを描くためには、あらゆる想定をし尽くしておくことも大切だと思います。個人としても企業としても、チャンスが来たときに戦える最高のパフォーマンスを準備しておくんです。

たとえば、あるプロジェクトに参加したとき、我々ができること、やりたいことをお伝えすることも大事ですが、先方の希望や強み、世界観を即時に理解して新たなビジョンを生み出せると、よりスムーズに物事が進むと思います。縁や運は偶発的なもので、いつ恵まれるかはわかりません。その時に、準備しておいた引き出しから「我々ができることを即答で出せるかどうか」です。だから、とにかく引き出しの量を多くしておくこと。どこまで準備するかというよりは、どこまで「も」できるように計画的に準備しておくことが重要です。十分な準備をしておけば、瞬時に最適解を生み出して、皆さんに共感していただけるような未来やビジョンを生み出すことができると思います。

絶対的な「解」がない中で、最適解を導く方法

:江尻さんは、“抽象的なベクトルから具体的なビジョンを描く”、“偶発を待ちながらも準備を怠らないなど”、2つの異なる事象をバランスよく行き来されながら「最適解」を導き出されているように感じます。

江尻:そうですね。絶対にAとか絶対にB、といったバイアスは作りたくないと思っています。そのとき一番いいものが何なのかは、その時点まではわかりませんから。世の中には答えがないものも多いですしね。その時々で解は変わりますし、絶対的な解はありません。目の前のKPIも大事ですし、会社としての中長期の成長も大事ですよね。そこで重要なのは、自分が可能な限り広く、深く、遠く考えることです。そうすることで「最適解」にたどりつきやすくなると思っています。

デザインとビジネスの共通点

:可能な限り広く、深く、遠く考える視点は、ものごとを追求していくと、どうしても忘れがちですよね。江尻さんはどのようにしてその思考を身につけられたのでしょうか?

江尻:子供のころからそういう性格だったんですよ。2、3歳のころ、ブロックで遊んでいた時の記憶があります。お城を作って遊んでいたのですが、俯瞰して見る目線と、そこに立っている目線の両方を持っていたのを覚えています。サッカーで言えば、観客席から見る視点と、フィールドに立っている視点、といった感じです。小さい頃から多視点で考えるのが好きだったのでしょう。だから、仕事をするようになってからもその思考が根底にあるのだと思います。

:江尻さんは大学時代、建築やデザインを専攻されていますよね。建築に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

江尻:建築は、構造力学や設備環境のように数式やモデリングで表現できる理系領域もあれば、非常に情緒的で、感情的な文系的領域もあります。二律背反の真ん中にあるイメージがあって、それがおもしろいと思いました。

デザインとビジネスは似ていると思います。空間デザインもビジネス展開も、どうしたら快適な空間になるか、どうしたら発展するか、多くの要素から最適解を導き出して実行するという面で同じ行為です。今はまだない答えを作り出して、相手にわかるように形にする。デザインもビジネスも、どのように最適解へ導くかを考えるという点で、共通のおもしろさを感じます。

メンバー同士の共通言語は必ずしも必要ではない

:会社の組織を強化していく時に、江尻さんが意識されていることを教えてください。

江尻:全員が自分の意志や意見、解を持って仕事に当たれるようにする風土を大切にしています。一人ひとりに意思がなく「教えてください」という待ちの姿勢だったら、ただ答えを教えているだけで成長がありませんよね。全員が意志を持って仕事をすることが大事だと思います。

:組織成長において「共通言語」が重要視される考えもありますが、個々が意志をもつ組織とのバランスはどう実現されているのでしょうか。

江尻:共通言語を無理に作ると、逆効果なこともあります。重要なのは共通言語を決めることではなく、メンバーがバラバラでも、今何が重要か、今何をすべきかが経営的に示されているかどうかです売り上げを作ることなのか、顧客を伸ばすことなのか。それがコンセンサスを得ている状態なら、バラバラの意見であっても目指す方角は同じはずです。バラバラなのはむしろいいことです。高い専門性を持ったメンバーが個性を発揮できますから。その上で、あらゆる視点から新しい発見をしていくんです。

僕の役割は、多種多様な切り口を見つけて、あらゆる角度から考えて「これが一番いいね」と示せることではないかなと思っています。会計士、弁護士、営業、エンジニア、デザイナーなど、それぞれ考え方は違いますよね。それぞれのスペシャリティを整理して、その時の最適解を導き出すのが僕の役割だと思っています。僕の強みは、どうやって伝えるか、言語化するか、という技術論よりも、あらゆる切り口を持っていることだと思います。会計、ファイナンス、営業、プロダクトやテクノロジーなど、誰よりも楽しみながら様々な分野のインプットやアウトプットをしていますし、その量も多い自負があります。

現在のスタートアップを取り巻く環境で必要とされること

:最後に、現在のスタートアップの流れについて考えていることを教えてください。

江尻:日本はスタートアップの数を増やすことを目指していますが、増加を目指すのでなく、より選択と集中をする戦略をとるべきだと思っています。今の日本社会は少子高齢化で、若者は少なく資源も限られています。スタートアップ同士が人材獲得合戦で消耗している状況もあります。だからこそ、少数精鋭といいますか、GAFAM*クラスに成長するようなポテンシャルの高い企業に集中して、日本の成長産業を育てる必要があるのではないかと思います。
*アメリカの大手IT企業5社の頭文字(Google,Apple,Facebook,Amazon,Microsoft)

:量より質を高めるイメージですね。今後、スタートアップがより発展していくためには何が必要だと思いますか?

江尻:日本のスタートアップが抱える問題の1つに、課題設定範囲が狭いことが挙げられると思います。自分たちが見えている範囲のことにしか取り組まない、ということです。そのため、複雑度が高い問題に直面したときに、インパクトが出せません。1個の大きな問いを解決することもいいとは思うのですが、1個の大きな問いの周りには、10個の小さな問いがあります。多方面において結果を出すためには、10個中、少なくとも8個くらいは掘り起しておく必要があるかと思います。引き出しの数は常に最大で持っておきたいところです。そのためには、ものごとを全方位から常に俯瞰して見ていかなければなりません。浅く深く、近く遠くを常に見て、考える。我々も常に意識し続けたいことですし、それが今後も発展していくために必要とされることではないかと思います。

株式会社ビットキー

「テクノロジーの力で、あらゆるものを安全で気持ちよく“つなげる”」をいうミッションを掲げ、下記事業を展開する。
・デジタルコネクトプラットフォームの企画・設計・開発
・Home/Workspace/Experience領域におけるコネクトプラットフォームの開発・販売・運用
・上記プラットフォームと連携するプロダクトおよびサービスの開発・販売・運用


【編集後記】

今回のお話を受け、「ビジョン」捉え方が、大きく変わりました。不確実性が高く、常に変化する時代だからこそ、動的であるべきだという意識は常に持ち続けたいです。また、私は学生時代建築を学んでいましたが、多くの人が興味をもつきっかけは「建物・デザイン」という観点と思っています。江尻さんの「建築は二律背反の真ん中にあるイメージがあるから面白い」との言葉は、多視点を持たれる江尻さん独自の観点で非常に印象的でした。(原)


取材日:2022年12月13日
インタビュー/編集/写真:原 康太
校正:山田 直哉

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