Vol.044 株式会社おてつたび / 代表取締役・永岡 里菜さん

第44回は「日本各地にある本当にいい人、いいもの、いい地域がしっかり評価される世界を創る」ビジョンとする株式会社おてつたびの代表取締役・永岡 里菜さんにインタビュー。「おてつたび」は、お手伝い(仕事)と旅を掛け合わせた造語で、地域が抱える困りごとを旅行者がお手伝いできる仕組みを提供しています。永岡さんの起業に至るまでの経緯や今後の展望について、お話を伺いました。

永岡 里菜 
Nagaoka Rina
株式会社おてつたび /
代表取締役CEO

【 Profile 】三重県尾鷲市出身。千葉大学卒業後、イベント企画・制作会社にディレクターとして入社。官公庁・日本最大手のEC企業をはじめ数多くの企業のプロモーションやイベントの企画提案・プランニング・運営を担当。退職後は、農水省と共に和食推進事業をゼロから作り上げる。その後フリーランスを経て、地域にほれ込み2018年7月、株式会社おてつたび創業。

「自分の人生、何に使う?」問いの先に見えたもの

NovolBa 原 :最近、地方に関心を持つ方も増えている気がします!ぜひ起業の経緯を教えてください。

おてつたび 永岡 :地域にスポットライトが当たる世界を作りたいと思い、起業しました。
私は三重県尾鷲市(おわせし)の出身です。地元に戻るたびに小学校や商店がなくなっていくのを目の当たりにして、地方が抱える少子高齢化や過疎化などの課題を感じていました。著名な観光名所もないため、旅行者があまり来てくれないけれど、「来てもらったらわかる魅力」ってたくさんあるのにな、と思っていました。

ただ、始めからそのような課題を起業で解決したいと思っていた訳ではありません。もともとは、小学校の先生になりたかったんです。教師になる前に、社会経験を積んでから教壇に立ちたいと思い、最初にプロモーション制作会社に就職しました。そこで民間企業で働くことのおもしろさを知ったのと同時に、人生の大半の時間を仕事に使うのだから、自分がやりたいことにフィットする仕事がしたいと思うようになりました。

その後、2回目に転職した会社では、いろいろな地域を訪れる機会を頂きました。著名な観光名所がある地域は本当に一握りで、日本には尾鷲市と同じような、名もない地域がたくさん存在しました。ただ、一見「そこはどこ?」と思われがちな地域でも、訪れるとその地域にしかない風景、温かい地元の方々やそこに根付いた暮らしなど、魅力がたくさんあるんですよ。

そこから、改めて地方への想いが強くなりました。地方が本当に置かれている課題や、なぜ地域にスポットライトが当たらないのかを理解するためにも、まずは自分の目で見に行こうと思い、2016年に会社を辞めて半年くらい各地域を巡りました。結果的に見えてきたのは、地域に行きにくい構造が生まれているだけ、ということです。地域に魅力があれば「そこに旅行者が行きやすい構造を作るようなサービスがあればいい」と考え、おてつたびを立ち上げました。

:起業することにハードルは感じませんでしたか?

永岡:どちらかというと、2社目を辞めたときのハードルの方が高かったです。周りがどんどん活躍していくのに対して、自分だけ道から逸れるような恐怖心はありました。定期的な収入がなくなる不安も重なり、仕事を辞める時のハードルは高かったです。でも、勇気を出してそこを飛び越えると、環境が変わり、独立している人や起業している人が身近な存在になりました。だから、起業に対するハードルはあまり感じませんでした。

「自分の人生を何に使いたいか?」を自問自答した時に、自分が感じた課題に対してアクションを起こしたいと思いました。起業することが目的ではなくて、あくまでも課題を解決するための手段として起業した、という感じです。

なぜこの選択なのか、大切なのは背景まで伝えること

:おてつたびさんの特徴の1つに、チーム力の高さがあるように思います。家族感があって、阿吽の呼吸で動ける組織作りのポイントについて教えてください。

永岡:家族であってもメンバーであっても、最初から息が合うことはないと思っています。その認識の上で大事にしているのは、自分が何かを言うときに背景を含めて伝えること。たとえばAとBのプランがあって、Bがいいならその理由を背景も踏まえて伝える。すると、他メンバーはBの選択を論理的に理解し、共感することができます。受け取る側からすると、なぜ私がその意思決定をしたのか、が知りたいと思うんです。そこのロジックが崩壊していると、疑問が湧いてしまいます。

:そういった個々の選択を、会社としての1つの選択としてまとめていく際、判断軸はどこに置かれてますか。

永岡:弊社として目指す世界が明確にある、といいましょうか… 明確なビジョンの元にスタートした会社なので、悩んだときには10年後や20年後を見据えて、ユーザーの方やおてつたび先の方がどうなったら嬉しいのか、何を求められているのか、必ず立ち返るようにしています。

その判断軸を作る上で重要なのは「全員が同じ解像度を持っていること」です。たとえば、エンジニアとフロントでは、どうしても関わる情報量が変わってきますよね。そこで、アンケートの振り返りを毎週全員で行ったり、月に1度ユーザーの方たちとのオンラインイベント(現在はコロナでお休み中)を開いたり、といった形で、なるべくユーザーと直接触れ合える環境を作っています。

全否定しない「Yes, and」のコミュニケーション

:組織作りにおいて、大切にされているコミュニケーションはありますか?

永岡:いいサービスを作るためには、様々な意見を言い合える環境が大切です。自分の意見を否定されてしまうと、誰しも次から言いにくくなってしまいますよね。メンバーに伝えているのが、「No, bad」ではなく「Yes, and」のコミュニケーション。否定から入るのではなく、意見を言ってくれたことに対して肯定して、そういう意見もあっていいね、確かにそういう見方もあるね、と受け入れる。その上で、より良くするためのアイディアを出していく。肯定から入るコミュニケーションを大切にしています。

バリューを意識することで芽生える当事者意識

:これからさらに組織が大きくなっていくのではないかと思いますが、その時に大切にされていることや日々の取り組みについて教えてください。

永岡社内全体のミーティングの際に、弊社のバリューを司会者が毎回読み上げています。定期的に目に入れたり耳で聞いたりすることによって、バリューを意識しやすい環境づくりを心掛けています。バリューを再確認することで、自分の行動に自信が持てたり、共通認識を高めたりすることもできるのではないかと思っています。

外部の方からは、仲がいい、一人一人が自分ごと化して自分の意見を言えている、とよく言っていただけます。全員が当事者意識を持ちながら、プロ意識を持って取り組むことができています。今後、組織が大きくなっても、今の雰囲気のまま大きくなっていきたいですね。

縁を大切に、関わるすべての人が仲間

:おてつたびさんのミッションは、ユーザーや地域の方にも浸透していますよね。どのようにして事業開拓をされていかれたのでしょうか?

永岡:最初は厳しい面もありました。起業に興味がなかったので、最初は任意団体や個人として活動していました。地域の方からすると、法人格もなければ実績もなくて、不安だらけだったと思います。

「お手伝い」という言葉も、軽めに聞こえてしまう側面もありました。「お手伝い」は、親戚や友達、家族など身近な人に使う言葉です。それと同じように、地域との距離感も近くしてほしい、という思いでつけたのですが、当時は魅力を伝えきれず理解を得るのが難しいこともありました。

:なかなか開拓が進まない中、どこがターニングポイントになったのですか?

永岡:近道があったわけではありません。地域の方に思いを伝え続けて「ファーストペンギン」になってくださる方々と、少しずつ実績を積み重ねていきました。その実績をもとに、他の地域の方にも広がっていった、という感じです。

繋がっていくためには「タイミング」も重要だと捉えています。「いいね」と言ってくださったとしても、そこからすぐにチャレンジできるわけではありません。初期に出会った農家さんが3年越しにご一緒してくださることもあります。それぞれに適したタイミングがあるのだと思います。

:タイミングが来たときにチャレンジできるのは、すべての人とフラットな関係を築いているからこそ、ですね。おてつたびさんに関わるすべての方が、ビジョンを実現するための仲間のような印象を受けました。

永岡:確かに、仲間意識は強いですね。弊社の起業の原点は、地域にスポットライトを当てることです。それを実現するために、ビジネスとしてのスケールは見据えながらも、ソーシャルインパクトの最大化も意識していきたいと思っています。

「おてつたび」or「旅行」になる世界を創る

広報担当の園田稚彩さんと。

:永岡さんのお話をお聞きすると、新しい地方との関わりの概念が生まれる未来が想像できます!組織や事業の今後についてお聞かせください。

永岡:組織としては、ビジョンやミッションを忘れることなく大きくなっていきたいと思います。今は、地域に人が訪れてファンができる世界を作りたい、という想いに共感して、自分ごと化できている組織です。そこは絶対に忘れずに、事業としても組織としても大きくなっていきたいですし、弊社がやるべきことを明確にして、いつでもビジョンに立ち戻れる形を目指していきたいなと思っています。

サービスとしては、将来的に「おてつたび」が旅行の当たり前の選択肢になってほしいですね。「旅行」と言えば、著名な観光名所を訪れるのが定石ですが、それに加えて「おてつたび」という選択肢も当たり前にしたいと思っています。たとえば、「夏休みは旅行に行く?それとも、おてつたびに行く?」というやりとりが友達同士でされる世界。著名な観光名所でなくても「地域に行くのもおもしろいよね」というカルチャーが生まれる世界を作っていきたいと思っています。

株式会社おてつたび

「地域の短期的・季節的な人手不足で困る事業者(宿泊施設や農家等)」と「知らない地域へ行きたい!」「仕事をしながら暮らすように旅したい!」と思う地域外の若者をマッチングするプラットフォームの運営を行う。
以下のビジョン・ミッションを掲げる。
◆ビジョン:日本各地にある本当にいい人、いいもの、いい地域がしっかり評価される世界を創る
◆ミッション
・誰かにとっての”特別な地域”をつくる
・”知らないだけ”という機会損失を無くす
・お互いの”ありのまま”の良さを認識し、温かい関係が広がる世界を作る


【編集後記】

「自分の人生を何に使いたいか」という問いはとても難しいこと。でもそれにしっかりと向き合うことで、自分の内側にある信念・志に気づくことができ、圧倒的な熱量と行動力に変わるのだと感じました。「問い」をもつということは、自分の人生を自分らしく生きるために非常に大切なことかもしれません。有名な場所ではなく、地方の、観光客がいないようなところに行き、地元の人たちと対話することが好きな私にとって、おてつたびさんのサービスは「待ってました!」という感じです。ぜひ、今度使ってみようと思います。(原康太)


取材日:2022年11月17日
インタビュー/編集/撮影:原 康太
校閲:山田 直哉

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