第21回は、「冷凍から食と日本の未来を考える」をミッションに掲げ、科学とデザインで「おいしい」をプロデュースする事業を展開する株式会社えだまめ・代表取締役CEO 成田 博之さんにインタビューさせて頂きました。
成田 博之 Narita Hiroyuki / 代表取締役 CEO
一橋大学・商学部卒、博報堂で制作・媒体・商品開発などのマーケティング・プロジェクトを担当。 2012年、MUGENUPの執行役員CMOに就任、SUの経営に参画。2015年、株式会社えだまめを創業、2016年にはデザイン制作を行うSEESAWを共同創業し、後に取締役に就任。
海外 × 技術 × マーケティング = SAKEICE
NovolBa神成(以下、神成):大手広告代理店からスタートアップの役員就任、更に起業、とキャリアを大きくピボットされていますが、なぜスタートアップに惹かれたのですか。
えだまめ成田(以下、成田):私は広告やゲームなど「流行りものをパッと作って瞬間的にヒットさせる」ことを仕事にしていたのですが、「時間をかけて積み上げていくこと」をしたいと思ったのがきっかけです。そして、無くてはならないものを大事にしたい、日本の技術をまた世界で注目させたいという思いがあり、「食/Food」に行き着きました。
「食」で日本の技術を活かせるのは食品冷凍や加工だと考え、冷凍食品技術の権威である鈴木 徹先生にジョインして頂き、共同創業という形で会社を立ち上げました。私は冷凍技術に関する知見はなかったので、かなり勉強しましたよ。
神成:そこからなぜ「SAKEICE(酒アイス)」を作ろうと思ったのですか。
成田:コンサル業をやる中で、自分たちで仮説検証をしながら生きたデータを蓄積するためにも、自社でプロダクトを持ってみたいと思ったからです。
創業当初から、日本の冷凍技術を世界へ、という思いがあったので、海外にマーケットがあり、日本ならではのもの、技術が必要でマネされにくいもの…それがSAKEICEだったのです。
リスクを恐れず真っ先に飛び込む
神成:ゼロから何かにチャレンジする時、「失敗したらどうしよう」と、一歩を踏み出せない人の方が多いと思うのですが、起業や商品の開発などに不安はなかったですか?
成田:もちろん僕もリスクは感じます。大小問わず、様々なリスクがあると思うんですよね。お金が無くなっちゃうリスク、人が死ぬリスク… でも、リスクがあるという事は競合が少ないということですし、先に飛び込めばそれだけメリットがあると思うんです。
まぁ、大抵のことは既に誰かがやっていて、本当に“自分が初めて”のことは、ほぼないと思うのですが。
神成:確かに。真っ先に飛び込んでいけば、そのチャレンジ精神と勇気を称賛されますから、「失敗」ってことはありませんよね!
マルチスキルの掛け合わせで、レア人材を目指す
神成:成田さんはゼロから色々学んで様々な知見があり、“何でもできる”イメージがありますが、どうやってキャリアを拡げていったのですか。
成田:出来ないことを1つでも多く減らしていくことですかね。私は大学でもマーケティングを専攻していて、広告代理店に入りました。普通は自分の強みを伸ばしていく方を選ぶと思うのですが、好奇心が旺盛で何でもやってみたい、何でも出来るようになりたいと思って、出来ないことを減らすことにチャレンジしてきました。あと、マルチなスキルを掛け合わせると、珍しい人になれると思うんですよね。
先ほど、何でも出来そう、と言って頂きましたが、一部の人からは四次元ポケットを持った「なんでもできる、ナリえもん」と呼ばれていたりして(笑)でも、実は昔から1番が取れないタイプで、大学もこの前のICCも…。いつも1番じゃない根性が、出来ることを掛け合わせれば違う価値が生み出せるのではないか、ということに気付かせてくれた気がします。
神成:おっしゃる通り!歌だけ歌える人、歌えて作曲ができる人、歌えて作曲ができて作詞も出来る人・・・どんどんレア人材になりますよね。
今やれていないことで、挑戦したいことはありますか?
成田:スタッフとの繋がりやチームアップといったマネジメントを、高いレベルで出来るようになりたいです。現在は2社合わせて30名くらいなので、これからもっと人が増えた時のために、マネジメント力を鍛えたいですね。
最近はもう、自分の苦手なことを潰していくことは止めて、自分の得意なことを教えることに注力しています。
USPを探すには、沢山の人と話すこと
神成:レア人材になりたい、というところから、一歩間違えると器用貧乏になってしまう気もするのですが、成田さんはUSP*を見つけるにはどうしたら良いと思いますか?
*USP(ユニーク・セリング・プロポジション):独自の強み
成田:とにかく人と話すこと、に尽きると思います。自分が自分をどう評価するか、ではなく、人から何を言われるかで市場価値が決まると思うので。気心知れた社外の人と話して自分の強みを教えてもらうと、自分のUSPを確証できます。
今後の展望
神成:最後に、今後の動きを教えてください。
成田:コロナもそろそろ落ち着くと思うので、海外でのアクションを本格化したいです。北米(ニューヨーク)とアジア(台湾)の2か所でSAKEICEのテスト販売をして、各国の嗜好と規制に合わせてアルコール度数を変更する、といったローカライズを進めます。
我々は、資金調達はしていないブートストラップ型*のスタートアップなので、その良さを生かして、ゆっくりじっくり進んでいきたいと思っています。
*ブートストラップ:外部からの資金提供を受けずに、自分たちだけで100%会社を所有する企業形態。
番外編 ~浅草にお店を出したら、コロナで全てパーに!~
神成:成田さん、今まであまり大きな壁にぶつかったことないんじゃないですか?
成田:ありますよー!結構ヘビーなやつが(笑)
SAKEICEは元々海外向けの商品としてすべて動いていました。パッケージも味も、日本人には一切リサーチをせず、外国人好みのものにするために羽田空港で調査したりして。
2020年3月15日に浅草に店舗をオープンしたのですが、最初の2週間は行列が出来、まずまずの滑り出し。ところが、4月には緊急事態宣言が出て営業が出来なくなり、外国人は来ない、オリンピックは延期…。
神成:思いの外ハードなやつ、きましたね… コロナさえなかったら、投資したお金全部、オリンピック期間中に取り返せるくらい売れそうな立地ですものね。
成田:そうなんですよ。オリンピックが延期になって無観客が決まったあたりで「コロナはまだまだ続くな」と腹を括って、国内向けにリニューアルをかけてマーケティング戦略も変更し、販路を見つけていきました。
浅草店は閉店を余儀なくされ、数千万の負債が残りましたが、命は取られなかったのでOKです。
神成:そんなヘビーな話を笑い話に出来るところがさすがです!
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
会社概要
■株式会社えだまめ
冷凍技術コンサルティング、食品の商品開発、マーケティング支援を行っている。
日本酒を混ぜ込んだアルコール度数約4%のアイスクリーム『SAKEICE』の製造・販売。
■株式会社SEESAW
新規事業開発とブランディングに特化したデザイン・コンサルティング会社
【編集後記】
海外での日本酒人気は絶大で、私が約8年住んでいたインドネシアにも、日本酒が好きすぎて『SAKE+』という高級店を経営する華僑の方が居ました。その方がストックする日本酒の総額、なんと1千万円超え!!
ユニークなアイデアをたくさん持っていらっしゃる成田さんなら、マーケティング、ブランディング、デザイン、冷凍技術と、様々な知識を掛け合わせて、SAKEICEを広めていかれると確信しています。(神成美智子)
取材日:2022年3月8日
インタビュアー:神成 美智子
写真:原 康太