潜入レポート「インキュベイトファンド推薦!サステナビリティに貢献するスタートアップ」

2022年3月23日、オンラインで開催されたインキュベイトファンド株式会社主催のメディア向け招待制イベント「インキュベイトファンド推薦!サステナビリティに貢献するスタートアップ」に潜入。スタートア     ップ業界でも注目されるサステナブル投資・ESG投資。そのトレンドやサステナビリティ分野で急成長するスタートアップの取り組みについてのレポートをする。

当イベントでは、インキュベイトファンド 村田祐介によるサステナブル投資・ESG投資の最新トレンドや具体的な事例の講演と、サステナブルに挑戦するスタートアップ6社の代表のピッチ形式にて行われた。

インキュベイトファンド 代表パートナー:村田 裕介

注目されるサステナブル領域、新しい産業創出のチャンス

導入は、インキュベイトファンドの代表パートナーを務められる村田氏が今のサステナブル領域について説明。

村田 裕介 Murata Yusuke / 代表パートナー

脱酸素というテーマは、世界中の大企業、企業経営者に限らず、スタートアップ投資家、スタートアップ企業などあらゆるステークホルダーが注目している。

サステナブル領域における世界的な動きを見てみると、TCFD*という機関が2015年に設立され、企業等に対し気候変動関連リスク、及び機会に関する項目について開示することを推奨する公表を行った。加えて、2050年までのカーボンニュートラル(二酸化炭素ネット排出量ゼロ)にコミットする金融機関イニシアチブの連合体「ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)」の発足により、総資産130兆ドルという金額が集まり、サステナブル領域への投資意欲が活発化すると予測される。日本国内においても、2020年に菅総理がGHG*排出量を2050年までにゼロにするという発言がなされ、国を挙げて脱炭素にコミットする動きがある。

今までの日本は、脱炭素社会に向けた取り組みは、企業にとって新たなコストが発生するものだという感覚が強かったが、新しい産業創出の領域としての意識が強くなっており、ベンチャーキャピタルにとっても注目している市場。

今回登壇する6社は、プロダクトそのものが脱炭素に直接的に繋がるものや、プロダクトが広まることで脱炭素社会に貢献するサービスを提供している企業など様々である。イベントを通して、このマーケットへの理解や、スタートアップが取り組むべきテーマとして、“脱炭素・サステナブル”というキーワードを認知してほしい。

*TCFDとは、G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)*により、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するため、マイケル・ブルームバーグ氏を委員長として設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」を指します。TCFDは2017年6月に最終報告書を公表し、企業等に対し、気候変動関連リスク、及び機会に関する下記の項目について開示することを推奨している。

*温室効果ガスのこと

1社目:

CO2削減を一気通貫サービスで実現させる

トップバッターは、総合商社三井物産を経て、2019年にアスエネ株式会社を創業した西和田氏。「次世代によりよい世界を」というミッションを掲げ、現在二つの事業を提供している。一つ目がCO2排出量     見える化・削減クラウド     サービス「アスゼロ」、もう一つがCO2排出量ゼロ、かつ地産地消のクリーン電力サービスの     「アスエネ」だ。

日本は2050年までのカーボンニュートラル実現を     目標として掲げており、そのために必要不可欠なCO2排出の削減という課題に対して、サービスを提供する。

CO2 排出量の見える化やSXコンサル支援に加えて、TCFD、CDP、SBTi、ICPなどイニシアチブ支援の追加サービス、CO2クレジットによるオフセットなど、「脱炭素のワンストップソリューション」を提供できることが大きな特徴である。

アスエネ株式会社

https://earthene.com/

2社目:

誰もが気候変動に配慮して商品購入できる世界を

続いてSustineri株式会社の針生氏が登壇。気候変動分野に関わる仕事をしてきた中で、“カーボンニュートラル”に関する問い合わせが非常に多かったことから、カーボンオフセット*対策に着目して起業。具体的には、CO2排出量をクラウド上で自動で算定・相殺できるサービスを提供する。企業単位でなく、商品やサービス単位でのカーボンオフセットをターゲットとしている。eコマースの例を挙げると、ショッピングカートにて購入した商品が配送される際に、発送から運搬、到着にまでにかかるCO2の排出量の見える化とオフセットを実現する。このサービスにより、同社は「商品やサービスを購入する際、気候変動に配慮して消費者が購入選択できる世界を実現したい」と考えている。

*人間の 経済活動 や生活などを通して「ある場所」で排出された 二酸化炭素 などの 温室効果ガス を、 植林 ・ 森林 保護 ・ クリーンエネルギー 事業による削減活動によって「他の場所」で直接的、間接的に吸収しようとする考え方や活動の総称である。

Sustineri株式会社

https://sustineri.co.jp/

3社目:

使い捨て0が、CO2・プラスチック処理量削減の実現に

3社目は、株式会社Nature Innovation Groupの丸川氏が登壇。「雨の日を快適にハッピーに」というミッションを掲げ、アイカサの名称で知られる傘のシェアリングサービスを提供している。     日本は年間の     使い捨て傘消費本数が約8,000万本と世界一だという。その購入理由のほとんどが突発的なものであり、使い捨て文化の広まりと共に、大量の傘の廃棄問題が起きている。この課題を解決すべく、傘のシェアリングサービスを提供し、使い捨て傘ゼロの社会を実現することでCO2・プラスチック処理量の削減を大幅に抑えることを実現する。今年の目標として、カーボンニュートラルをもとに、環境配慮した設計をサービスに落とし込み、より多くの方に届けられるようにしていくという。

株式会社Nature Innovation Group

https://www.i-kasa.com/

4社目:

航空業界の運行の効率化が脱炭素を実現する

続いて、2021年に創業した株式会社NABLA Mobilityの田中氏だ。モビリティの分野、特に航空業界の脱炭素に関する課題解決を行うサービス提供をする。自動車などの他のモビリティの脱炭素が進むと、世界中のCO2排出量の4分の1が航空業界になる可能性があると言及されている。ただ、航空業界の脱炭素の課題解決は難しい。運行管理においては、パイロットや地上でのサポートを行うディスパッチャー*など多様な職種が絡んでいる複雑さが原因となり、航空機の7割以上が実際の飛行計画と異なる飛行経路で運行される、非効率な状態となっている。これを受け、同社はリアルタイムに最適な運行管理を提案する“空のスマートナビゲーション”を提供する

今まで課題解決されていなかった空の複雑さに果敢に挑戦することで、この航空業界の発展に挑戦している。

*日本語で「運航管理者」ともいい、航空機の「フライトプラン」という飛行計画を立てる人のこと

株式会社NABLA Mobilit

https://www.nabla-mobility.com/

5社目:

中古市場の発展がCO2削減に繋がる

不動産売買仲介のDXを行う株式会社TERASSの江口氏が登壇。不動産領域で中古マンションのリノベーション、販売なども行った経験から、不動産仲介業、中古マーケットに興味をもったことが起業の発端。物件を壊して新築するより、中古物件をリノベーションする方がCO2が削減できる一方で、日本は長年、新築文化が根付いている。ここに目をつけ、中古市場を盛り上げることで、日本のCO2削減を実現をしようというのだ

新築と中古で大きく違うのは販売方式で、不動産仲介から消費者へのBtoCの仕組みに対して、個人住宅を個人に売るというCtoCの方式が中古業界である。だからこそ、物件を正当に判断できる仲介エージェントが必要になる。同社は中古物件の仲介業を個人のエージェントが仲介を行える独自の不動産流通のプラットフォームを提供している。

株式会社TERASS

https://terass.com/

6社目:

ダイナミック・プライシングとサステナブルの両立を実現

最後は、ハルモニア株式会社の松村氏が登壇。「ビジネスのすべてをダイナミックにし、世界のサステナビリティを高める」をミッションに掲げ、プライステック*領域に取り組んでいる。既存のプライシングについて課題を感じる交通・レジャー、小売り、物流といった様々業態に向けてサポートサービスを提供している。サービスの大きな特徴としては、サステナビリティへの取り組みと企業課題の解決を両立できるということだという。例えば、バスの運行に適切なダイナミック・プライシングを導入して、ピーク時の乗車人数を平準化。それにより、ピーク時のためにバスの運行数を増加させなくて良くなることで、バス会社の運航負荷の軽減とCO2の削減を両立できる。企業にとってサステナビリティな取り組みというのは、コストに見られるものが多い。同社がリサーチ・分析に基づく価格体系の見直しや、新しいテクノロジーを用いた価格の導入など、価格戦略の立案からダイナミックプライシングシステムの導入までを一気通貫して支援することで企業にとっても大きなメリットのあるサービスが提供できる。

*「Price」(価格)と「Technology」(技術)を組み合わせて作った造語で、ダイナミックプライシングをはじめとした、テクノロジーを使って価格を決める手法やサービス全般を指す

ハルモニア株式会社

https://www.harmoniainc.jp/

編集後記】

最近では、SDGsやESGなどサステナブル領域のキーワードを多く耳にするようになった。世界的にも注目される領域であり、大企業に限らず、スタートアップ業界も動きが活発であることを知り、今回のイベントを通して、“サステナブル領域投資の市場が新しい産業創出     の機会として大きく注目されていること”を強く印象を受けた。今回、聞いた6社もすべてが違うアプローチでありながら、CO2削減や脱炭素実現に向けたサービス提供を行っており、スタートアップの成長により世の中のサステナブル領域の課題がどう変化していくかがとても楽しみになった。プレスリリースや資金調達を控えているスタートアップもいるとのことなので、WITHでも注目して追っていきたいと思う。


イベント開催日:2022年3月23日
記事作成:原 康太

校閲:山田 直哉

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