Vol.54 MVVの浸透は、ビジョン達成に有効か?株式会社Asobica・COO 小父内 信也さん

スタートアップにとって永遠のテーマである「組織づくり」。会社ごとに前提条件も、目指す組織のあり方も違うなか、自社に合ったやり方を模索している企業も多いのではないでしょうか。そんなスタートアップに必要なのは、ありふれた方法論より今まさに同じように挑戦を続ける、先駆者たちのリアルな声です。

そこで、『WITH by NovolBa』では、組織づくりに悩みを抱えるすべてのスタートアップに向け、今まさに挑戦を続ける実践者たちにインタビュー。挑戦の裏にある仮説を「問い」と呼び、「組織づくりの問い」をテーマにしたインタビューをお届けします。

今回は「組織づくりの問い」第一段、ロイヤル顧客プラットフォーム「coorum(コーラム)」を運営する株式会社Asobica 取締役CCO小父内信也(おぶないしんや)さんです。小父内さんは、入社後すぐに組織の課題をMVVの形骸化だと捉え、見直し・浸透に力を入れました。そんな小父内さんの組織づくりの問いは「MVVの浸透は、ビジョン達成に有効か?」です。詳しい内容と背景について、お話を伺いました。




小父内 信也
Obunai Shinya
株式会社Asobica CCO

【 Profile 】2005年、大手電子機器メーカーへ入社。その後、中小企業診断士を取得。2010年、創業初期の名刺管理システムを提供するSansan株式会社に入社。全社MVPの受賞、最年少での幹部への昇格(当時)を経験。7年間にわたりデータ部門責任者を経て、名刺アプリ Eightのコミュニティマネージャーへ。2019年に株式会社Asobicaに取締役CCOとして参画。これまで約200社以上のファンコミュニティの立ち上げ、および支援に携わる。

MVVの浸透 により、長期的な目標の達成が可能に

ーー小父内さんの「組織づくりの問い」を教えてください。

Asobica小父内 :あらためて「問い」と言われると難しいですが、私自身がチャレンジしているテーマは「MVVの浸透」かなと思います。
※MVV・・・「Mission(ミッション)」「Vision(ビジョン)」「Value(バリュー)」の頭文字をとった略語

私は、組織にとってMVVは骨格であると考えています。MVVが浸透している組織は、メンバーが建設的に意見を出し合い、一丸となって目標に向かって走ることができます。メンバー全員がミッションを軸にやりきれる。だからこそ、ビジョン達成に向けて全員で成し遂げられるのではないか、と考えているのです。

ーー逆に、MVVがうまく組織に浸透せず、形骸化してしまうとどうなるのでしょうか。

小父内:MVVが浸透していない組織では、あらゆる言葉や行動がミッションと結びついていません。メンバー同士で組織の方向性に関する対話をしても、同じ土台の上で話ができないので、議論が噛み合わなくなります。また、ミッションとの関係が希薄になった言動は目先の利益に流され、長期的な目標達成が困難になるとも思っています。

ーーMVVの浸透を重視するに至った背景を教えてください。

小父内:前職の影響が強いですね。前職は非常にミッションドリブンな会社でした。私自身、育ててもらったという感覚が強くありますし、ミッションが全社へ浸透した時の前進する力やエネルギーは大きかったです。そんな社内の雰囲気をAsobicaでも再現できれば、Asobicaが掲げるビジョンが実現できると考えました。

ーーエネルギーが高いとは、どういう状態のことを指すのでしょうか?

小父内:社員一人ひとりがスピード感を持って仕事に取り組み、たとえ苦しい状況に陥っても、諦めずに踏ん張れる状態のことです。ミッションが浸透していると、最後の逃げそうになる瞬間に踏みとどまってやりきれるエネルギーが生まれます。そうなると、繰り返しにはなりますが、会社のビジョン達成に近づけるわけで、現に前職ではスピード感を持って事業拡大ができていました。

新ビジョン策定のため、社内全体で議論を醸成

ーーMVV浸透のため、実際に取り組まれていることを教えてください

小父内:約3年ほど前から、半年ごとに2ヶ月間かけて、全員でMVVをテーマに議論する時間を設けています。土台には「大切なことは全員で決める」というAsobicaならではの強いボトムアップのカルチャーがあります。この取り組みのなかで生まれた議論をもとに、2023年8月にはビジョン刷新をおこないました。

ーーどのような流れで議論をおこなっているのでしょうか?

小父内:まずはじめに幹部層がテーマを決めます。これまで実際に話し合ったテーマとしては「新しいビジョン」「バリューのアップデート」などがありました。
テーマ決定後は、グループワークの時間に移ります。各チームは「部門横断」「普段関わらないメンバー同士を組み合わせる」といった観点で分けられ、チームはそれぞれ、テーマについて議論を重ねます。議論のペースもやり方も各チームに委ねていて、決まっているのは、2ヶ月後に全社員の前でプレゼンをすることだけです。
メンバーそれぞれがオーナーシップを持って参加することが重要で、議論の内容に関わらず、その経験自体がAsobicaに対する意識の底上げにつながります。あえてMVVに関する議論の時間を設けたのは、タスクベースになりがちな普段の思考とは切り離した方がいいと考えたからです。
なお、今掲げている「遊びのような熱狂で、世界を彩る」というミッションは、3年前に当時のインターン生を中心としたチームがプレゼンしてくれたものを採用しています。それまでは「遊びのような熱狂を世界中に」でしたが、「彩る」という表現が加わったことで、我々が目指すワクワクするような世界観をより明確に表現できると考え、採用しました。

ーーどういうタイミングでMVVの見直しを行うのでしょうか?

小父内:明確な指標はありませんが、日々のちょっとしたずれを感じることが増えると見直すべきタイミングだと思います。メンバー同士のコミュニケーションに違和感を感じたり、部署間で情報の連携や共有に課題が生じてきたりした場合は注意が必要です。

最高の仲間とAsobicaのビジョン達成を目指す

ーー最後に、Asobicaの組織づくりについて、今後の展望をお聞かせください。

小父内:引き続き、MVVを核とした組織づくりを続け、2026年7月に向けてビジョン達成を目指します。ビジョン達成後は、見える景色が大きく変わると思っており、やりきってその景色を見たいですね。
その上で、会社の歴史がきちんと継承され続ける仕組みづくりにも取り組みたいと思っています。MVVのアップデートを含め、これまで積み重ねられてきた議論や挑戦のすべてが、今のAsobicaにつながっています。そんな強さの源泉を失うことなく継承し続けながら、我々が掲げるビジョン「顧客中心の経営をスタンダードにする」を実現させたいです。

ーー小父内さん個人の展望を聞かせてください。

小父内:私は自分のキャリアを10年スパンで考えています。20代は自分自身にベクトルが向いていましたが、30代は前職での目標達成に捧げました。40代はAsobicaのビジョン達成に捧げると決めています。Asobicaを通じて世の中を良くすることと、メンバーの幸せな未来の両方を実現させたいです。
そのための私の役割は、メンバー一人ひとりが成長できる環境をつくることだと捉えています。これからもAsobicaに関わるすべての人にとって、やりがいの感じられる場所を提供し続けたいです。限られた時間しかない人生ですが「Asobicaで過ごしたい」と思ってもらえる組織であり続けられればと思っています。

株式会社Asobica

顧客との繋がる場を提供し、顧客を徹底的に見える化・分析するカスタマーサクセスプラットホーム「coorum(コーラム)」を運営。
遊びとは”熱狂”。一方通行ではなく顧客と向き合う企業をもっと世界に増やす。そして世界を”熱狂”で面白くするために挑戦し続けています。
ウェブサイト:https://asobica.co.jp/

 


取材日:2023年10月13日
インタビュー・編集:鄧

文:麓 加誉子
写真:原 康太

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