neuet家本賢太郎(代表取締役)

Vol.007 neuet株式会社 /代表取締役・家本 賢太郎 さん

第7回は、15歳で起業し、現在は9社を経営するシリアルアントレプレナー(連続起業家)であるneuet株式会社(以下、neuet)の家本賢太郎さん。
事業を一つ成功させるだけでも難しい中、どのようにして複数の企業を経営されているのか。家本さんの生き方に根付いた経営哲学、そして人柄の魅力に迫りました!

家本 賢太郎 Iemoto Kentaro / 代表取締役

中学生の時に脳腫瘍を患い車椅子生活になり、みんなと同じように移動できない不自由さを感じる。そんな時インターネットに出会い、世界中の情報にアクセスすることで見える世界が広がり、15歳で事業を開始。中学を卒業して3カ月後に、 クララオンラインを創業。2006年、日本企業がアジアで活躍する架け橋になりたいと、中国でサービスを展開。
2019年、neuet株式会社を設立 し、シェアサイクル「Charichari(以下、チャリチャリ)」を提供している。


「好きなこと」を事業に

NovolBa西(以下、西):チャリチャリのシェアサイクルサービスは、家本さんの移動に対する課題と、乗り物が好きなことが想いの源泉となって、サービスをメルカリから事業継承されたのかなと思いました。
家本さんが好きな「乗り物」という分野で、どのようにして事業を興すことができたのでしょうか?

neuet 家本(以下、家本):ありがとうございます。西さんから「好き」というキーワードが出てきたので、まずは好きなことが事業になった経緯についてお話します。
私は起業してもうすぐ丸25年になります。これまでに、上手くいかず畳んだ事業はたくさんあります。上手くいく事業、いかない事業の差は何かと考えると、自分の熱量やエネルギーをどのくらい注げていたかだと思います。経営は基本的に辛いことの方が多いですから、一日中考え続けても飽きないほど好きなことを、”誰かの役に立つかもしれない”とワクワク思えることが大切だと感じます。

西:当社の事業も、代表の鄧(とう)が「熱い想いを持ったスタートアップの成長を支えたい」という想いから始まったので、とても共感します!

家本:ありがとうございます。チャリチャリを始める前、経営者としてスランプだった時期もありました。自分よりも若くて優秀な人が次々と出てきている中、「自分の役割はなにか」を考え続けていました
当時、中国と日本を頻繁に行き来しており、一年の半分は中国にいるという生活をしていました。中国でmobikeという会社がシェアサイクルを始めて1週間くらいの時で、偶然にも中国でのシェアサイクル黎明期を目の当たりにしました。
それを仕掛けていたのは自分よりも若い人たちでした。彼らが社会を変えていく姿を見て、とても刺激を受けました。元々私は乗り物が大好きでしたが、もしかしたらそれ以上に、自転車には社会的役割があるのかもしれないと思い始めました。

一冊の本『「好き嫌い」と経営』との出会い

家本:そこから私を支えてくれたのが、『「好き嫌い」と経営』(著:楠木健)という本です。その本の中で、創業者が大きくスケールさせた事業は、その人が事業のことを非常に好きだったということが書かれていました。「これだ!」と思いましたね。

私は当時、マーケットサイズや事業の成長率で頭がいっぱいになり、面白くないなと感じて始めていて。この本をきっかけに、“好きなこと”“自分の価値が出せそうな領域”を交差させたら面白いのではと思うことができました。決してはじめから見えていたわけではなく、何度も試行錯誤する中で、「好き」を事業に転換できるパワーを持てたら面白い、と考えるようになっていきました。

西:とはいえ、好きなことがあってもマーケットがないと一歩踏み出すのが難しい事もありますよね?

家本:たしかにマーケットがないと出来ることは限られてしまいます。投資を受けている以上、当然成長を期待されます。しかし、世の中のすべての事業が年率30%の成長を見込むマーケットであるか、加えてそれをスタートアップやベンチャーが牽引するべきかと言うと、必ずしもそうではないと思っています。

例えば、シェアサイクル事業は、広告を出せばユーザーが集まるものではありません。むしろ、もっと泥臭い仕事が多いです。業界の特性があり、自転車というハードがあり、そこにソフトが乗ってきます。成長率というのは、その事業相応の角度があってしかるべきと自分は整理しています。
また、サービスが社会インフラになっていくにつれ、スタートアップの成長は加速しますが、社会ではひずみが起きることも実感しています。

業界の構造変革を支えることも、私たちの役割

西:なるほど。私は、スタートアップの存在意義の一つは、日本の経済を支えていくことだと思っていましたが、他にも大切な事がありそうですね。

家本:そうですね。これだから正解、不正解がないと思っています。私自身は、自分たちのブランドやサービスでお客様を集めるかということだけが仕事だとは思っていません。業界の構造変革をお支えすることも私たちの役割だと思っています。
例えば、自転車のマーケットは、自転車販売も含め年間約2,700億円の市場がありますが、縮小し続けています。大手販売店チェーンは黒字、それ以外の多く赤字という苦しい状況です。一方で、日本の交通分担率で自転車は約13%もありますから、自転車産業が無くなると人々の生活は本当に困ってしまいますね。この状況を本当に変えるためには、新しいテクノロジーやサービスで業界の構造を変えていく必要があると私は考えています。

西:転換期を迎える業界を裏側から支えることも、スタートアップやベンチャー企業の役割の一つということですね。なるほど!

「好きなこと」を見つけるには

西:ここからは、家本さんが”なぜ好きを見つけられたのか”についてお伺いします。幼少期から好奇心が旺盛だったとか・・・!

家本:なぜなのかをよく問われますが、子供の頃からの習性で・・・自分でもまだ答えは出せてないというのが本音ですね。一つのことに関心を持つとそこを深掘りして、飽きるまで追求します。結局飽きないので、好きなものが子供の頃から一つも変わりません。(笑)

あえて人と何が違ったのかを考えると、家庭環境だと思います。「あれをやってはいけない」というような制約を受けたことがありませんでした。学校の勉強を優先するよりも、興味や関心があることを掘り下げることに時間を割かせてもらってきました。

西:子供のころに自主的に何かを続けるためには、周りのサポートが大切ですよね。加えて、継続的に成功体験をどう積めたかも必要になるのではと思っています。例えば、昨日できなかったことが、今日できるようになり、そのことで興味がより深まったというような経験はありますか。

家本:たしかに、頑張って褒められる、成功する、というような小さな体験の積み重ねもあったと思います。一方で、上手くいかなかったことの方が多かったので、その経験も原動力になっているのかもしれません。
小学生の時、ある私立の中学校で野球を続けたいと勉強を頑張っていましたが、病気になったことで勉強が思うように進まなくなりました。というのも、言い訳ですが(笑)

出来事や経験は変えられない、どう解釈するかは自分次第

私は第一志望の中学校には行けず、第二志望の学校に進学しました。中学校には50日しか行っていませんし、高校はそもそも入学もしていません。人とは違ったステップですが、振り返ってみて、その選択で良かったと思えています。
もちろん、最初は不安でレールに乗るべきと思うことは誰しもあると思います。けれども、自分のやりたいことをやれていれば、これはこれで楽しかったなと思えます。車椅子になったときも同様で、最初は少し戸惑いましたが、車椅子の世界がものすごく面白くなり、すぐに車椅子であることを何とも思わなくなりました。

『人間万事塞翁が馬」という言葉があるように、置かれた環境を丸ごと面白がって、自分が常に最良の選択をしたと思えると良いですね。

西:たとえ自らの意思に反することでも、それをご自分の決断に変換し、それ自体を愉しんでいるところがとても素敵だなと思いました。本日はありがとうございました!

家本:こちらこそ、機会を頂きありがとうございました!

 

neuet株式会社

「まちの移動の、つぎの習慣をつくる」を理念に掲げ、スマホアプリで簡単に自転車を使えるシェアサイクル「Charichari(チャリチャリ)」を展開。福岡を中心に、2020年には名古屋、東京へと提供エリアを拡大中。

 neuet株式会社https://neuet.com/
チャリチャリサービスサイトhttps://charichari.bike/
株式会社クララオンラインhttps://www.clara.co.jp/

取材日:2022年1月13日
インタビュアー: 西 可菜子  写真:提供  編集:山田 直哉

neuet家本賢太郎(代表取締役)
最新情報をチェックしよう!