昇る場case.08「“らしさ”を体現するアートディレクターの存在/freee株式会社」

スタートアップの働く場にフォーカスする連載記事。

第8回。コロナ禍の影響もあり、企業によってはオフィス=場をそこまで重視しない傾向も出てきている。その一方で、楽しさと働きやすさを追求し、これでもか!とこだわり抜いたオフィスを構築したスタートアップがいる。

それは、freee株式会社だ。遊び心溢れる空間は、社員同士のコミュニケーションも促進し、出社率はなんと80%を超える日もあるという。出社かリモートを選択できるのに、この数字はかなり高い。オフィスの中に駄菓子屋さん、ビーチ、会議室兼ゲーミングルーム、会議室兼キッチン!?など、これまでのオフィスの当たり前を覆す空間が広がる。

なぜ、ここまでこだわり抜いたオフィスを作ったのか、どうしてこのような場を構築できたのか、そこには移転プロジェクトコアメンバーの存在があった。

今回はその一人である“アートディレクター水口氏”に直撃した。

水口氏の視点からオフィス=場の重要性に迫るとともに、どのようにして新オフィスを実現したのかについて話を伺った。

【背景】東京都品川区大崎にある「アートヴィレッジ大崎セントラルタワー」へ移転。移転前の面積は1,459坪だったが、3,462坪の約2倍の広さに。 約1年半に渡るリモートワークをベースとした働き方を経て、リモートワークには多くの利点があると感じたが、創造性のあるコミュニケーションやフラットな議論、従業員同士の一体感といった“freeeらしさ”を感じにくくなることも分かった。今回の本社移転を契機に、従業員同士の対面コミュニケーション機会を創出し、組織の結束力を強め、”freeeらしさ”を更に発揮していくために移転を決めた。

水口 めぐみ 
Minakuchi Megumi / 
PR&Brand Team Art Director

【 Profile 】美術大学卒業後、デザイン制作会社・スタートアップ企業を経てfreeeに入社。

“アートディレクター”としてオフィス移転に携わる

NovolBa 原:今回のオフィス移転の背景を教えてください。

freee 水口 :きっかけは、組織の拡大でした。以前のオフィスではメンバーが入りきれないほど人員が増加していました。その頃はリモートワークだったのですが、その期間にどんどん人が増えたので、全員が集まれる場を持つために移転に踏み切りました。

:水口さんは今回の移転にアートディレクターとして関わっていらっしゃいますが、改めてアートディレクターの業務内容について教えてください。

水口:新ブランド浸透のための社内オンボーディング、ブランドを伝えるためのイベントや企画、グッズ作りに関わったりしています。freee「らしさ」を届けるためのサポートをする役割ですね。Web広告のバナーでも、どうすればよりfreeeらしい表現になるか、などを考えています。

水口さんがデザインに関わったfreeeの指針が記載されたオリジナルウォーター缶

今回の移転プロジェクトも、オフィスにfreeeらしさを取り入れるタイミングでプロジェクトに参加しました。移転の経験はありませんでしたが、「らしさ」をどうリアルな体験の場に落とし込むかを考えることが、とても楽しみな挑戦でした。

広がる関心、デザイナーからブランディング領域へ

:デザイナーの水口さんは、どのような経緯でfreeeに入社されたのですか?

水口:私は絵を描くことが好きで、グラフィックデザインやUIデザイン、ブランドデザインなど、いろいろなデザインに関わってきました。freeeに入社したのは、今まで仕事を通じて出会った職人さんたちのサポートができると思ったからです。

たとえばグラフィックデザインをやっていると、印刷所の紙やインクの専門家とお会いすることがあります。あと、カフェの責任者をやっていた時期がありまして、その時にパン屋さんや和菓子屋さんなどの職人さんとお会いする機会がありました。そこで、職人さんのとことん追及する姿勢に感激するとともに、強いリスペクトを持ちました。

:職人さんとの出会いを経て、サポートする側に回りたいと思ったのはなぜですか?

水口私もデザイナーなので、職人、という意味では同じ立場にいると思っています。その中で、“作ることに集中できる環境”の大切さを痛感しました。私自身、お金や在庫を数えたり登録したりすることが得意な方ではなく、そこに時間を取られて、本来やるべき「作る」ということに時間が割けないでいることに課題意識をもっていました。
そこをサポートできれば、デザイナーはもちろん、パン屋さんでも、職人さんが本当にやりたいことに注力できると思いました。freeeはそれを実現できる会社だと思いましたし、その組織のブランディングに関われる“アートディレクター”として参画できることは、非常に魅力的でした。

:ブランディングをやってみたい、と思ったきっかけは何だったんですか?

水口ブランディングは、「らしさ」を作ることだと思っていて。見た目の美しさなどのデザインだけではなくて、広告やコミュニケーション、場も含めて、いろんな顧客接点で「らしさ」を体現することだと思います。
私自身一人の作り手として今まで培ったデザインという武器を活かし、更に大きな領域へ挑戦できると思い、ブランディングに携わりたいと思いました。

ポジティブな気持ちを届けるために「こだわり抜くこと」

:アートディレクターとして大切にされていることを教えてください。

水口:相手に「ポジティブな気持ちを届けたい」と思っています。ひとつのアウトプットを受けて、前向きな感情になったり、次への行動のきっかけとなるような効果を届けたい。そのために「こだわり抜くこと」を大切にしています。今回のオフィス移転に関しても同様です。freeeには、自分の夢やこだわりを貫く、本当におもしろい人が集まっています。そういう人たちが働く場所だからこそ、最後までこだわり抜いたオフィス作りを目指しました。

200以上のアイデアから生まれた夢のオフィス

:新オフィスのコンセプトをお聞きしたいです。

水口コンセプトは「たのしさダイバーシティ」です。いろんな「たのしさ」を従業員のみんなと考えて、オフィスのいたるところに散りばめました。楽しい仕掛けを作ったり、植栽の横にベンチを置いてたまたま起こるコミュニケーションを大事にしたり。ダイバーシティという観点では、英語や点字表記を取り入れたり、誰でも使えるトイレを設置したりしました。

:オフィスを拝見して、「ここまでやるのか!」という良い意味で衝撃を受けました。何人用の会議室執務デスクは何席、などのオフィスの固定概念に囚われず、こだわりの空間を実現されていると思います。どうしてこのような場を実現できたのでしょうか?

水口:主役は、やはり使う人です。従業員の夢や欲しいもの、やりたいことを反映して全社で作ることにこだわりました。そこで活用したのが、社内のSNSです。アイデアを募集したところ、200個以上のアイデアが集まりました。それをヒントに、どうしたらよりコミュニケーションが活発になるか、freeeらしいオフィスになるかを考えていきました。

実際、プロジェクトを進めていく際は、興味のありそうな人やその領域が得意そうな人に声をかけ、社内メンバーを巻き込んでいきました。料理が好きな人に「キッチン作るんだけど、やってみない?」って声をかけたり、DIYの部屋だったら「椅子やテーブルも自分たちで作ります?」とか。領域を超えて、やりたい人が集まってオフィスを作っていきました。

:ブランディング目線で見たときに、今回のオフィス移転の効果をどう捉えていらっしゃいますか?

水口:ブランドの社内浸透に一役買っていると思います。このオフィスで働いていると、説明しなくても「これがfreeeらしさです」っていう雰囲気が感覚的に伝わります。社外向けにも、オフィスツアーをすることで、freeeらしさを体感していただけると思います。「freeeらしさ」に直接触れられる場=オフィスになっていると思います。

子どもからも「いいな」の声が挙がる、自慢のオフィス

:移転後、メンバーの意識や雰囲気が変わった実感はありますか?

水口:引っ越した後に「すてきだね、住みたくなっちゃうね」って感想があったんです。そういう声が出るオフィスを作れたのは嬉しいことですね。あと、大前提、やはり対面でしかできないコミュニケーションがあるなとも感じています。

リモートの場合は、ちょっとしたことでも30分の会議をセッティングしていました。でも、オフィスにいるとちょっと後ろを振り向けば「そういえばあれってどうすればいいかな」と聞けますよね。会議後も、リモートだと終了ボタンを押して終わりですが、対面だと会議室から戻るまでに「さっき話した内容、どうする?」と話せます。あとは普通に「最近どう?」みたいに気軽に会話できるのは、リアルな場としてのオフィスがあるからこそだと思います。

メンバーの子供さんが学校新聞で作成した4コマ漫画

:コミュニケーションに余韻がありますよね。

水口:そうですね。あと、自慢したくなるオフィス、っていうのもメリットだなと思っていて。特に印象的だったことは、メンバーの中学生のお子さんが、学校新聞の4コマ漫画でfreeeのオフィスのことを取り上げてくれたことです。お子さんがお母さんを会社へ送り出す場面で、「お母さん、また遊びに行くの?駄菓子食べられるんでしょう?ゲームしながら会議できるんでしょう?いいなぁ」と描いてくれているんです。メンバーが家族にオフィスのことを自慢していなかったら、この漫画は描けませんよね。「お母さんの会社にゲーミングルームができたよ。カフェもできたしアイスもあるんだよね」って。

:メンバー自身がすてきなオフィスだと思っていないと、こういったことにはつながらないですよね。素敵なお話ですね。

freee「らしさ」を伝え続けていきたい

:最後に、今後の展開をお聞きしたいです。

水口:社内外にfreeeらしさを届けることが私の役割です。新入社員を始め、社内外にfreeeブランドを伝え続けること。1回で終わりではなくて、継続していくことが大事だと思います。それでいて、ブランドを感じる新しい企画も考えて、広めていきたいとも思っています。

:本日はありがとうございました!

こだわりの「場」

ガラス貼りの明るいエントランススペース。freeeの青く光るロゴマークが印象的

フリダシは「みんなが店主になれる名所」をコンセプトに、freeeのアソビゴコロを発表する場所として作られた場所

スケルトン天井に、打ち合わせスペースやフリダシが配置された広々としたエントランス空間

キッチンスペース兼会議室空間。ここに集い、ご飯を食べながらカジュアルにミーティングをすることも

はろはろビーチ、やほやほキャンプ場は、ちょっと自分の席ではないところで、仕事したいな。
少しリラックスしたいな。という時に活用できるスペース

駄菓子屋会議室「ゲンブツシキュウ」。新品なのに古いのがたのしい会議室

グリーン会議室「ザイコカンリ」。癒されるいい匂いがする。

縁側会議室「タイシャクタイショウヒョウ」。真ん中でロゴが割れたのれんがポイント

ゲーム会議室「ボーナス」。ゲーミングチェアやソファで会議できる

ネンマツチョウセイは通常のミーティングのみならず、チームのオールハンズでの利用。また、夜間はパーティルームとして、チームビルディングや歓送迎会、DJ部の部活などなど、開催されている。

性自認トイレ。女性トイレ・男性トイレに虹色が入ることで自分のその時点で感じている性別を自由に選択できるようなデザイン

執務エリアに設置された、たのしいMAP

会社概要:freee株式会社

52012年設立。「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、クラウド型会計ソフトを皮切りに、人事労務や会社設立支援と、スモールビジネスのバックオフィス業務を効率化するクラウドサービスを開発・提供している。

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【編集後記】

水口さんの一言一言から、 “freeeらしさ”を体現することに、強いこだわりを持ってやられていることが伝わってきました。ブランディングへの興味と職人をサポートしたいという想いの掛け合わせが唯一無二のアートディレクター水口さんを生み出していることが分かった取材でした。オフィスはただ働く場だけでなく、その会社の“らしさ”に直接触れられる場。だからこそ、社員のみならずその社員の家族までも幸せにする大きな存在になりうるのかもしれません(原康太)


取材日:2022年12月31日
インタビュー/編集/撮影:原 康太

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