NovolBaライターの麓(ふもと)です。ライター活動と並行して、複数の非営利団体に立ち上げや参画で関わっています。
スタートアップと非営利団体は、社会課題に挑むという点で似通っていることがいくつもあります。“らしさ”を重要視する、と言うのもその1つです。団体を立ち上げる時は団体の“らしさ”をどう定義し、浸透させるかに悩み、参画する時はどう位置付けられ、表されているか、を見つめます。
強い組織を作るために必要な“らしさ”の価値・定め方・育て方・守り方、そして発揮される効果の分析…最近はこれらのふわっとしかねないものを”具象”に落とし込む必要性を感じています。
組織における“らしさ”を再考し、深め合うトークイベントをレポートします。
イベント概要
-
テーマ:組織は”らしさ”でどう変わるのか?
-
開催日:2023年9月13日(水) 19:00~21:00
-
場所:株式会社YOUTRUSTオフィス(渋谷区東1丁目26番20号 東京建物東渋谷ビル4階)
-
登壇者:田中 喜久 氏(株式会社 YOUTRUT / 経営企画部長)
鄒 潮生 氏(キャディ株式会社 / 人事総務部長)
-
ファシリテーター:鄧 雯 氏(株式会社NovolBa / 代表取締役)
-
主催:NovolBa
ファシリテーター、登壇者
イベント内容
組織の”らしさ”は何か
鄧:伸びるスタートアップにおいて「強いチーム」は必須で、それを作る上で“らしさ”が大切だと考えています。おふたりは“らしさ”とは、なんだと思いますか?
鄒:個人に例えると服装などのファッション、好きな食べ物、価値観とも言えると思います。法人の場合はミッション、バリュー、カルチャーといった企業を形作るものだと思っています。もっというと、道端ですれ違った人への社員の対応、エレベーターに乗る時の対応、会議に遅刻した人に何を言うか/言わないか。そんな日々の小さな積み重ねが“らしさ”の正体ではないでしょうか。
田中:人格と同じように、各社全然違うものだと思っています。アプローチとしては、社歌や社歴の提示など内向きに行うこともあれば、CMや広告など、外向けのイメージで貯まっていくものもありますね。
らしさは差別化のためのアセット
鄧:スタートアップにおいて、なぜ“らしさ”は大切なのでしょう?
田中:スタートアップは変化が激しいので、“らしさ”に固執すると難しくなることもあります。ですが、社員が“らしさ”を体験することには良いことの方が多いです。クリアなアイデンティティとして目的や価値観を共有できるので、仕事のモチベーションに繋がります。
組織に対して、外の方が抱く企業文化のイメージも内側の強みになります。
例えばYOUTRUSTの場合、株主様などに「数字ばかり追うのではなく、考えるべきところを考えて正しく壁に挑んでいる。健全に成長できている」と言っていただくことがあり、勇気づけられます。課題に当たってもモチベーションを失わずに「ユートラらしく、次に行こう!」となれます。
鄒:スタートアップにおいて“らしさ”が大切な理由は2つあります。
1つ目は組織規模が小さく、全社員に占める一人の社員の割合が大きい状態なので、”らしさ”にギャップがある人が数名入ってくると組織が崩壊する恐れがあるということが挙げられます。2つ目は、「ヒト」が企業の差別化になる、ということです。ヒト・モノ・カネという資源の中で唯一真似できないのがヒトであり、そのヒト資源で差別化するために重要なのが採用と内部教育です。この根っこになるのが“らしさ”であり、思想が現れる部分です。そこで”らしさ”が浸透していくと想いが製品に染み出していく。だから表面上だけ真似されても勝てるし、アセットになる部分だと思います。
らしさはどうやって体現・活用する?(キャディの場合)
鄧:社員1人ひとりのインパクトが大きい中で、どういうことに気をつけていますか?
鄒:キャディは、創業者の経歴がキラキラしている。26歳で独立したエリートが製造業を変える、といった触れ込みで黒船感、ディスラプター感が過剰でないように、キラキラしない、泥臭く誠実に事業に向き合うことを大切にしている。オフィスは渋谷や六本木ではなく蔵前にしたり、内装も華美にせず、服装も現場に行って溶け込めること、如何に誠実に振る舞えるか、などを意識しています。
以前、サプライパートナーさんが全社集会に来ていただいたのですが、キャディが訪問した時に誰も見ていない防犯カメラに、キャディの社員がゴミを拾っている姿が写っているのを見て一緒にやっていこうと取引をはじめたという話を聞いて感動したことがあります。“らしさ”は社員一人ひとりの細部に宿るんだなあと思いました。
鄧:そういう行動は、オンボーディングなどで浸透させるのでしょうか?
鄒:オンボーディングや採用も重要ですが、日々社内で「望ましい行動や状態を称賛する」ことも浸透においては重要ですね。例えばゴミを拾ったり洗面台が汚れていたらサッと拭く、当たり前のことを当たり前にすることは徹底しています。
あとはこれも入社してから驚いたことなのですが、全社会での匿名のやりとりがやや攻撃的になった瞬間があって。人事やってるとまぁよくあることなのですが、それに対して社員から「これってキャディらしくないよね」と声が挙がりました。日々、社員一人一人が「キャディらしいとは」ということに共通のイメージがあるからこそ生まれる声であり、偶発的に起きた“らしさ”を問い直す素敵な流れでした。
らしさはどうやって体現・活用する?(YOUTRUSTの場合)
鄧:ユートラさんはいかがでしょうか?
田中:オンボーディングや採用も大切にしていますが、一番は社員からの逆フィードバックですね。“らしさ”の実践がどのくらいできているか、フィットしているか、行動とずれていないか、聞かないと教えてもらえないので、全社で月に1回、聴く場と表彰の機会を設けています。
“らしさ”を全社に伝えていくという点で、情報の透明性の担保も大切です。上の意思決定のプロセスを伝えるのは、規模の違いで難しさが変わります。YOUTRUSTも50名を超えて、退職者が増えたタイミングがあったので、伝道者というか伝えられる人を大切にしています。“らしさ”をちゃんと咀嚼して、違う解釈が生まれないようにできる人。あとは、情報の透明性担保のためのルートや組織づくりに“らしさ”は現れます。組織として透明性を担保することと、伝える人と体制づくりの両輪を回していこうとしています。
採用や人事で”らしさ”をフィットさせる方法
参加者からの質問:“らしさ”のフィット、カルチャーフィットには、採用活動が重要かと思うのですが、フィットする人はどのくらいの割合で応募してきますか?また、スキルフィットする人とカルチャーフィットする人だとどちらが重要ですか?
鄒:キャディは0.5%くらいかもしれないですね。でもユートラさんなどを使うと上がる気がしますね(笑)スキルフィットする人とカルチャーフィットする人の問いは明確で、今のキャディは両方フィットする人しか採用しないです。
田中:エントリー全体の5%くらいでしょうか。社員紹介制度で紹介された社員の友人の方が、カルチャーフィットしやすいので、積極的に使っている採用チャンネルです。あとは1日体験などのイベントも実施しています。
これからの”らしさ”組織の目指し方
鄧:ユートラさん50名、キャディさん600名というそれぞれのフェーズで、今後どういうふうに“らしさ”を追求していきたいですか?
鄒:キャディは人数も事業も一気に拡大してきました。モノカルチャーな強さもありましたし、今後もスピード感を持ってビジネスを成長させたいです。一方で海外拠点も増えてきた今、ダイバーシティとバランスをとりながら、組織運営のやり方も見直して、スピード感は落とさず維持したいと思っています。
田中:YOUTRUSTは“らしさ”のアップデートをし続けなければならないフェーズだと思っています。経営層から事業まで、みんなに継続的なコミットメントと“らしさ”の体現の努力が問われます。組織の体制や情報伝達の仕組みを整えて、“らしさ”を失わずに大きな規模へ拡大していきたいです。
鄧:今日は抽象的な問いに対して具体的な深いお話を聞かせていただきました。ありがとうございました!
参加者の声
「両社とも異なる“らしさ”を持たれていて、それがどうやって体現されているのか興味深かったです。」
「らしさ」は許しでもあるという気づきがあった。
「らしさという抽象度高い内容に関して、解像度が高まる時間で、大変勉強になりました!」
関連情報
株式会社YOUTRUST (https://lp.youtrust.jp/recruiter9)
YOUTRUST(ユートラスト)は友達とつながりプロフィールを埋めるだけで、スタートアップ企業などから転職・副業のスカウトが届く日本のキャリアSNS。コミュニティ・投稿などの機能を通じて、新しいつながり作りや、キャリアに役立つ情報を集めることができます。また、法人企業向けには、独自のつながりから成功報酬ゼロでタレントを採用できるHR Tech SaaSも提供しています。
キャディ株式会社( https://caddi-inc.com/)
キャディは、2017年の創業以来、「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」をミッションに、製造業のバリューチェーンが抱える構造的な課題に対し、サプライチェーン変革のパートナーとして伴走しています。 部品調達プラットフォーム『CADDi MANUFACTURING』、図面データ活用クラウド『CADDi DRAWER』の二つの事業を提供しており、グローバルでは米国、ベトナム、タイにおいても事業展開しています。 2023年7月に総額118億円のシリーズC資金調達も発表しました。
株式会社NovolBa (https://novolba.com/)
「挑戦するスタートアップの成長を支える」をミッションに掲げ、スタートアップ向けに最適なオフィス・家具のサブスクリプションサービスを展開。スタートアップに光を当てるメディア「WITH」では、起業や経営、投資にフォーカスした情報発信をしています。挑戦するスタートアップの”昇る場”を提供します。
取材日:2023年9月13日(水)
文 / 編集:麓 加誉子
写真:原 康太
編集/校正:原 康太