NovolBaライターの麓(ふもと)です。ライター活動と並行して、非営利分野で複数団体に立ち上げや参画で関わっています。スタートアップほどのスピード感ではないとはいえ、大きくなっていく組織をどう作っていくのか、あるいは今ある組織をいかにより良く維持していくのかは、大きな課題です。
「強いチームには一体感があるが、一体感を目標に作られたチームは弱い」といったのは、サッカー日本代表の元監督・岡田武史さんだったでしょうか。チームづくり、組織づくりは難しい…伸びる事業に不可欠な強いチーム、強い組織はどうやってつくるのでしょうか。願わくば、関わる人が生き生きと伸びていけるような、そんな強く楽しいチーム。
急成長するスタートアップの「組織づくり」をテーマにしたイベントを取材しました。
イベント概要
- テーマ:Jカーブスタートアップ、組織成長の裏側とは
- 開催日:2023年6月22日 (木)19:00 – 21:00
- 場所:株式会社助太刀 オフィス
新宿区西新宿6丁目18−1 住友不動産新宿セントラルパークタワ 14F
- 登壇者:荒井 俊亮(株式会社ACROVE/代表取締役)
奥西 亮賀(株式会社IVRy/代表取締役CEO) - ファシリテーター:林 昌毅(株式会社NovolBa)
- 主催:NovolBa
ファシリテーター、登壇者
イベント内容
伸びる組織の共通点は?
NovolBa 林:2社共通するのは、伸びている企業の背景には「組織づくり」がある、と考えています。それぞれどんなふうに伸びているのかお聞かせください。
奥西:2020年7月にβ版リリース、正式版を12月に出して、その頃は僕1人でやっていました。最初の調達の時は株主に心配されたりしましたが、現在は33名です。すごく優秀な人たちが続々とジョインしてくれて、僕の想像を超えることをどんどんしてくるので、自分の想像力や常識で制限をかけないように気をつけています。
事業の方は、結構ホリゾンタルでうまくいっているなと思っています。まだまだ電話を使うので、様々な業界で使っていただいていて伸びています。
僕らが本当にやりたいのは、中小企業やスモールビジネスをされている方に、便利さや快適さを提供するということです。狙っているのは時価総額1兆円。あと300倍くらい成長しなくてはです!
荒井:僕は学生起業で、3年で10名を超え、そこから半年ごとに2倍になる感じで組織が大きくなってきました。出身企業はバラバラですが、未経験でも成長できる仕組みがあるのが強みかなと思っています。
「社会の果樹園を創造する。」をミッションに事業を展開するACROVEは、事業を「果樹園」に例えています。1つの事業やブランドを1本の果樹となぞらえて、木を育てる人がい続ければ、果樹園はどんどん拡大していくでしょう。僕がいなくなっても育っていく組織を社会に提供したい、と考えています
僕はマルチ事業の世界観を「果樹園」に例えています。1つの事業やブランドを1本の果樹だと思っていて、賞味期限が切れて枯れたとしても、木を育てられる人がいれば、果樹園はどんどん拡大していくでしょう。僕がいなくなっても育っていく組織を社会に提供したい、と考えています。
林:2社に共通して、うまくいっている中でも現状に満足せずに、とても大きな理想を描いていらっしゃるのが印象的です。理想をいかに大きく描くかは重要ですね。
「組織づくり」は個々のWILLの拾い上げから
林:事業を中心に据えた「組織づくり」でどのような取り組みをしていますか?
荒井:事業あっての組織なので、自分たちの事業が「どんな人や組織で最も充実するのか」を考えて、採用やチーム編成などをしています。ECはすごく変化が早い業界なので、つくったマニュアルが1年後には通用しないということもあります。ですから、自身で考えて実行するなどPDCAを高速で回せる、自身で意思決定が出来るような環境を整えるようにしています。
意思決定に重要なものは2つあって、1つ目は正しい情報、2つ目は自主性。この2つを活かして戦える組織を目指しています。特に、自主性を醸成するためには「個人のWILL」が重要になってくるので、個人と組織の共通目標を構成できるか、というのはすごく意識して設計しています。
奥西:僕も、採用面談や1on1で基本的には「何をやりたいんですか?」しか、聞いていないですね。
僕らはソフトウェアづくり、ものづくりなので、自分たちでどうやって良い状態に身を置いて、良いものを作ろうと思えるかに挑んでいます。
楽しくなかったら、1、2年で息切れしちゃいますしね。
個人のキャリアややりたいことのベクトルをできるだけ尊重して、個々のパズルを全部組み合わせた時に、いかに会社のベクトルと合った状態をつくるか、常に考えています。
「30人の壁」の乗り越え方、IVRyの場合
林:NovolBaも色々なスタートアップとお会いしていますが、「30人の壁」の話はよく出てきます。IVRyさんは現在40人、ACROVEさんは100人で、セクショナリズムや様々な課題が見えてくる時期があったと思います。振り返っていただくとどんな感じだったのでしょうか?
奥西:リクルートでの経験から、30〜50人がマンパワーの限界だなと思っていて、ここ1年くらい、30人規模が視野に入ってから、できるだけ権限委譲の機会を作っています。OJT的に渡して、クオリティチェックはしっかりする。あとは、マネジメントスキルのある人にジョインしてもらう。それから、自分のマインドのシェアをどんどんして、乗り越えてきました。
セクショナリズムについては本当に嫌いなので、自分の組織では極限まで消したいと考えています。そのために組織化せず、プロジェクトとして立てて3ヶ月で壊す、を繰り返しています。モデルとなっているのは「外資系のコンサル」で、大体1年プロジェクトで更新していくみたいですね。やり方を色々とアップデート中です。
「30人の壁」の乗り越え方、ACROVEの場合
荒井:僕も30〜50人が一番つらかったですね。その頃まだ平均年齢24歳とかで、1on1やると「何やりたいかわからない、疲れちゃった」みたいな話が多くて、自分だけでやるマネジメントの限界をすごく感じていました。解決策として、マネジメントできる人材の採用をしました。
セクショナリズムの回避については、とにかく「かき混ぜろ」と人事に言っています。組織は生き物なので、大きくなっていくと、どうしてもセクショナリズムっぽくなってきます。そこを、採用と配置転換でかき混ぜます。新しい人を入れるのが一番です。
そして、祭り。これは表彰とかですね。表彰される人も、されなかった人もモチベーションが上がりますし、成果を認める環境があることで、雰囲気がとても良くなります。おかげで組織が急成長しているにもかかわらず、みんな前向きに日々取り組んでいます。
僕は「めだかの水槽」をモデルにしていて、水槽の中にメダカが増えていくと、必ずいじめや孤立が起こる。
原因は、ストレスがある中でちゃんとかき混ぜられていないから、そして水槽が狭いからなんです。言い方を変えると、椅子取りゲームを外でやれ、ということにもなります。
採用や配置転換で新しいポジションがどんどん増えると、内向きに喧嘩する理由がなくなります。エネルギーを外に向けるのが大事だと考えています。
スタートアップの成長に「場=オフィス」は不可欠
林:良いチーム感や良い組織感を作るにあたって、リアルの「場=オフィス」の役割ってどんな感じでしょうか。どちらのオフィスも、笑顔のメンバーが多くて賑やかですよね。
荒井:創業時から一貫しているんですが、情報の非対称性の課題を考えるのと、いかに意思決定を自分たちで楽しく行えるかを追求したときに、リアルのほうが圧倒的に情報量が多くて共有しやすいんですよね。場の役割って、広い意味での情報交換なんじゃないかと。
奥西:やっぱりオフラインの方が楽しいと思っています。働き方の多様性を制限するのはイケてないですが、オフラインの発想が広がる感じや、協業の中で出てくる満点以上のアイデアって、リアルでしか起きないな、って。スタートアップの飛び抜けた成長には、リアルの場が必要です。
オフラインは心理的安全性の確保とか、コミュニケーションコストを抑えられるメリットと、うちは毎月オープンデーをやっているんですが、そこからほぼ毎月1人以上採用しています。
採用面談ではいいことしか言わないから、みんなの素が出るオープンデーは、ミスマッチを防げておすすめです。
「理想の組織」の目指し方
荒井:先日、社内で「Employee NPS(従業員満足度を図る指標の一つで職場の推奨度を視覚化するもの)」をしたところ、「自社で働くことを推奨しない」と評価した社員がたったの5人で、びっくりしながら嬉しかったんです。
*NPSⓇ – Net Promoter Scoreの略。商品やサービス、企業を友人や家族などに推奨したい度合いを11段階で評価して数値化するもの。
ACROVEでは「働く」ことに「個人のWILL」を重ねられる環境を整えて、尊重しているので、今後も、個人のwillと組織の目標がシンクロする、いい組織作りをしていきたいと思っています。それを実現するためには、性善説の組織と、性悪説の仕組みを作ることだと考えています。
奥西:僕は「次に何をするんだろう?」ってメンバーがワクワクする組織が理想です。そのためには組織デザインにとらわれず、どんどん変化していきたいです。組織の規模によっても最適解は変わるでしょうし、不可逆なものをできるだけ減らしつつ、コアコンセプトは崩れないようにしたいなと思っています。
林:おふたりとも描くものが大きいという共通点はありつつ、表現の違いが面白いです。
今日は貴重なお話、ありがとうございました!
参加者の声
「両社とも異なる成り立ちでありながら、目指すコンセプトに共通項があるのが非常に興味深かったです。素敵なお話をありがとうございました!」
「組織づくりについて経営者であるお二人より、熱い考えを聞くことができ大変勉強になりました!」
「2社に共通していることは、常に上を目指しているということでした。本当に素敵な会社だと思います。」
「プロジェクト単位にして変えていく組織、というのが印象的」
関連情報
株式会社ACROVE (https://acrove.co.jp/about/outline/)
自社開発のBIツールACROVE FORCEを用いたECブランドの販売支援と育成事業を展開。「ECサービス事業」では、Amazonや楽天など複数のECマーケットプレイスでの売り上げ最大化に向けた販売支援を実施しています。コンサルティングから集客、運用代行、物流のアレンジまで一気通貫で販売支援を実施し、売上成長率平均約300%を実現。「ECロールアップ事業」は、海外ではECアグリゲーターとも呼ばれ、インテリアからアパレルまで幅広いブランドのバリューアップを目的に受け継ぐ事業です。ACROVEのECロールアップ事業はサービス開始1年で7例を実現。今後も「社会の果樹園を創造する。」をミッションに、素敵なモノと思いを繋いでいく事業を展開していきます。
株式会社IVRy (https://ivry.jp/)
IVRyは1日100円から利用できる電話自動応答サービス(IVRシステム)です。自由な分岐設定と自動応答・SMS返信・電話の転送(リダイレクト)・録音機能を活用し、営業電話・顧客からの問い合わせ・注文・予約等の様々なシーンを自動化します。また、営業時間内と営業時間外でルールを変えることや、電話履歴の確認や顧客登録機能等、多数の便利な機能が存在しています。
株式会社助太刀 (https://suke-dachi.jp/)
「建設現場を魅力ある職場に。」というミッションを掲げ、職人と工事会社の新しい出会いが見つかるアプリ「助太刀」を運営している。登録事業者数は18万を超え、建設業界におけるマッチング領域では圧倒的なシェアを誇る。「助太刀」は発注側の工事会社と受注側の職人・工務店をマッチングし、長期的な取引先と出会えるサービスとなっている。また、「助太刀社員」においては、求人意欲のある工事会社がアプリ内で求人広告の掲載および職人へのダイレクトスカウトが送付できるサービスとなっている。このように、助太刀は取引先探し・採用どちらからも人手不足解決をサポートしており、今後は、建設業界のあらゆる課題を解決するべく提供サービスを更に拡大していく。
株式会社NovolBa (https://novolba.com/)
「挑戦するスタートアップの成長を支える」をミッションに掲げ、スタートアップ向けに最適なオフィス・家具のサブスクリプションサービスを展開。スタートアップに光を当てるメディア「WITH」では、起業や経営、投資にフォーカスした情報発信をしています。挑戦するスタートアップの”昇る場”を提供します。
取材日:2023年6月22日(木)
文 / 編集:麓 加誉子
写真:原 康太
編集/校正:神成 美智子
【イベント終了】Jカーブスタートアップ、組織成長の裏側とは / 株式会社IVRy×株式会社ACROVE