【対談】Vol.002 「脳の健康状態を可視化する」株式会社エム・創業者 森 進さん

【対談インタビュー】今回は、全脳の画像解析・脳健康測定プログラム「MVision health」を提供される株式会社エムの創業者 森進さんに取材させて頂きました!創業経緯や今後目指される世界、また、共同研究を行う東京ミッドタウンクリニックの田口院長との対談に同席させて頂きました。

森 進 Mori Susumu
/ 株式会社エム 創業者

Johns Hopkins大学 (JHU) 医学部放射線科教授。医療工学の専門家として、MRI・脳画像解析の分野で多数の研究業績を有する。1991年にJHUに留学して以来、米国研究生活30年。JHU脳画像科学センター所長、JHU高解像度MRIセンター所長を歴任。2021年6月に株式会社エムを創業。脳のMRI医療現場の課題を解決し、世界初の認知症マネジメントのシステムを社会に実装することを目指す。

1.なぜ創業した?

医学発展のために研究されているものが、臨床・社会実装に繋がらず、医療現場に活かされていないことが大きな課題だと感じていました。AIによる画像診断技術が研究では当たり前に使われる現代においても、臨床現場ではいまだに医師がMRI画像を目視する方法が主流です。この方法はMRIが医療に導入されて以来30年間変わっていません。この課題を深く探求し、さらに持続可能な解決策を模索するにはビジネスの力が必要だと決意し、JHUのラボを解散して創業に至りました。

2.プロダクト開発で大変だったこと、どう乗り越えた?

研究の世界に留まっていたら知り得なかったような幾多の「壁」を乗り越えることの連続です。例えば、「エビデンスの壁」がありました。「MVision health」を医療業界に導入していく上で、それが患者のためになっているのかを評価することが大切な一方で、未病の段階での介入効果を実証することは難しいタスクです。だからこそ、小さな実績の積み上げが非常に大切です。医師やユーザーはもちろん、サービスを提供する現場の声にしっかり傾聴し、さまざまなエビデンスを3年以上の時間をかけて取り、科学的な解析を積み上げていくことでプロダクトへの評価・信頼を築いていきました。

3.今後目指す世界は?

「認知症になる人を1人でも減らす、発症を1年でも遅くする」ことに貢献していきたいと思います。認知症医療は、画像以外も含む多くの情報を統合して良くしていくべきものです。この中で、エムは「画像データ分析」の分野を担い、ここでしっかり実績を作っていきたいと思います。医療は小さい一つ一つの分析の積み上げが大切です。この取り組みの先に、他分野とも連携しながら、認知症医療のあり方に革新をもたらすようなプラットフォームを実装できたらと思います。

田口 淳一 Taguchi JunichiSusumu
/ 東京ミッドタウンクリニック 院長

1984年 東京大学医学部卒業。三井記念病院循環器内科勤務。東京大学医学部附属病院助手、宮内庁侍従職侍医、東海大学医学部付属八王子病院循環器内科准教授を経て、2007年 東京ミッドタウンクリニック院長に就任。2010年 東京ミッドタウン先端医療研究所所長に就任(兼任)。2020年5月、日本橋室町三井タワー ミッドタウンクリニック総院長に就任。

1. 森氏と田口院長の出会いと開発過程について

1.田口院長との最初の出会い

:ジョンズホプキンス大にて、臨床画像データを解析する技術開発と病院内での実装を始めるにあたり、解析するための「大量の臨床画像データ」が必要でした。更に、データに関しては、どのように病気に至るのかという経過情報を把握するために「健康な方」の脳画像データが必要でした。しかし、病気の方の脳画像データは米国にも沢山あるのですが、病気前のデータはありません。データを探し求めていたところ、日本には「健診文化」により蓄積された世界的にも希少なビッグデータがあると知りました。その中で、田口院長とお会いする機会を頂き、東京ミッドタウンクリニックさんにて蓄積されていた脳画像データを提供頂けることになりました。

2.MVision の研究開発に協力した最大の決め手

東京ミッドタウンクリニック 田口:森さんと出会い、研究開発に協力することになった最大の決め手は、「予防医療の進展に寄与する」と考えたことにあります。高齢化が進む現代において、認知症の早期発見・早期治療は進んでいます。一方で、治療法が確立していない認知症や老化そのものに関係する病気は予防が最も重要ですが、まだその医療は不十分です。また、日本に蓄積されてきた大量の脳画像データは、脳動脈瘤や脳腫瘍などの一部を見ることにしか使用されておらず、脳全体のデータは十分に活用されていないことが課題でした。MVisionの研究開発が進むことで、画像データを活用し、脳の健康状態を判別する指標が創り出せると期待が膨らみ、協力しようと思いました。

3.MVision が提供できる新たな価値とは

田口:認知症、老化の予防医療における「ツール」という新たな価値をMVisionは提供しています。認知症予防への注目が高まる中で、加齢による脳の変化を分析するというのは重要なポイントです。医療用AI開発のトレンドの下、脳の一部分の分析サービスを提供する企業・機関はいくつかありますが、脳全体から健康状態を測ることができるMVisionがその中でも一番進んでいると判断しました。論文も出ていますが、加齢とともに鋭敏な変化をする構造物(脳室)から脳全体の変化を正確に測定できることにはものすごく価値があります。

2. 製品ユーザーから見たMVision health について

1. MVision health が革新的な点

田口MVision healthが画期的なのは「脳の健康状態の平均値」を出してくれたことです。これは医学検査の進歩にも貢献しています。例えば、日本人間ドック学会 遺伝子検査に関わる検討委員会においてアルツハイマーの予防医学は大きなテーマです。しかし、脳の健康状態に関する「平均値」がなかったため、遺伝子検査受診者がアルツハイマーの将来リスクを受け取ったとしても、現在の脳の健康状態が分からなく、不安だけが残っていました。MVsion healthは「脳の健康状態の平均値」、具体的には脳の萎縮度の年代別平均を出せるので、受診者は、同年代の平均との比較により自分の脳の状態を正しく知り、適切な対策手段を取ることができます。

2. 受診者からの反響

田口:自分の「脳の健康状態」を知る機会として、受診者からも非常にポジティブな意見を頂いています。当院としても、生活習慣の見直しなどの対策に活用できると考えています。

3.MVision health のサポート体制

田口:受診者に対するサポートで最重要なのは、「経年変化についてのレポートを出すこと」です。加齢による脳の変化を継続してレポートしていくことは、脳の健康状態の平均値を持つエムさんだからこそ実現できることです。受診者にとっても、MVision healthを受けるなら1回だけではもったいない。継続して受診することが、自分の脳の加齢変化が同年代の平均よりも速いのか遅いのか、という情報を把握でき、適切な対策へ繋がってくると思います。

3. 予防医学者から見た MVision について

1.一次予防をはじめとした認知症医療で大切なこと

田口:予防医学者の視点から見ても「定量的に測れる指標」があることは大切だと思います。判断軸となる指標をもつことで現状との比較ができ、予防への行動に繋がります。認知症においても、今の脳の健康状態がどこに位置するのかを把握できる指標をもつことが第一歩だと思います。

2.MVision の果たす役割

田口:MVsionは認知症医療を可視化するツールになると思います。脳の各構造物の体積を出すことができ、それを一つの指標として脳の健康状態を把握することができます。認知症の原因は40%ぐらいが生活習慣によるものだと発表されています。ユーザーが継続して脳データを計測することで、経年変化、同年齢の平均と比較したときの脳の加齢変化の速度が把握でき、ユーザーの行動変化にも繋がると考えています。

3.「脳の健康」について、社会の関心を高めるために

田口「脳の健康」という概念を広める啓蒙活動が大切です。体の健康を守ることは当たり前な一方で、脳の健康への意識はまだまだ低いです。脳の健康は睡眠や運動など日々の生活習慣に関わりが深いからこそ、そこに興味・関心をもつ層を増やしていくことは重要です。また、脳の萎縮が分かるだけでは認知症の全体像は分からないからこそ、遺伝子情報や血液情報など多分野と組み合わせて分析していくことが予防医学の発展には重要と考えます。難しい課題ではありますが、これからも森さんのご活動を応援していきたいと思っています。

・東京ミッドタウンクリニック
人間ドック・健康診断のほか、内科や整形外科など患者様のニーズに応じた診療科を展開。クリニックとしては日本で初めて国際的な医療機能評価機関であるJCI (Joint Commission International) の認証(外来診療プログラム)を取得。※外来、人間ドック、健診、特別診察室。2017年12月、2020年12月に認証を更新。

全脳の画像解析・脳健康測定プログラムを展開する

米国ジョンズホプキンス大学医学部放射線科教授の森進が、共同創業者であり代表取締役の関野勝弘と共に、2021年6月に創業。世界の脳画像研究をリードする一人である森が、ジョンズホプキンス大学で開発したAI技術と、健康診断、脳ドックを通じて数十年にわたって蓄積された日本にしかない「未病段階」の脳画像データを活用することにより、MVision healthを開発した。これらを脳ドック等の頭部MRIに組み込むことで、MRI機器を保有する医療機関は、これまで医師の目視だけでは成し得なかった未病段階での全脳の健康状態の定量化、同年代比較という受診者の行動改善を促す価値ある情報提供を目指すことができる。

エムは、「医療画像解析の力で認知症医療をアップデートする」ことを目標に、医療機関に対して、MRI機器という高額資産の有効活用という経営課題解決、脳ドック等の健診プログラムの「市民の脳疾患一次予防拠点」への転換といった経済的意義、社会的意義をもたらすことを目指す。エムは、「数値に基づき脳の健康状態を評価して対策する」手段を広く普及させることにより、認知症に客観的に向き合い、理性的な対策を講じることができる社会を創っていく。(プレスリリースより引用)

「エム」コーポレートサイト: https://www.corporate-m.com/

サービス:「MVision health」

MVision healthは、加齢に伴う変化の特徴である脳の萎縮と血管性変化を総合的に評価する、脳の全ての構造部位、すなわち全脳を対象とした脳健康測定プログラム。米国ジョンズホプキンス大学のAI技術と日本に存在する数万件のビッグデータを基盤にエムが開発。

脳ドック等の頭部MRI健診に追加することで、加齢に伴う変化を早期から評価し、受診者がとるべき脳の健康維持・改善方法を提示することを目指す。受診者は従来どおりの頭部MRI撮影をするだけでよく、追加の負荷やクリニック側での過剰な作業もなく、エムが作成する解析結果レポートを受け取ることが可能。

MVision healthは医療機器ではなく、いかなる疾病の予防、診断、治療目的に用いられるものではない。医師の診断の元、特定の疾病が認められなかった健常な受診者のためのサービス。

「MVision health」TOPページ:www.corporate-m.com/m-vision2

株式会社エム

創業者  :森 進(モリ ススム)
設立   :2021年 6月
所在地  :東京都港区三田2-10-6 三田レオマビル10階
概要   :脳画像のAI分析によるデータ解析ソフトの開発医療機関向けの導入・運用サービス提供う


取材日:2022年8月26日
インタビュアー:鄧 雯・原 康太
編集・写真:原 康太

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