POSTCOFFEE下村領(代表取締役)

Vol.034 POST COFFEE株式会社 / 代表取締役 下村 領さん

第34回は、コーヒーのサブスクサービスを提供しているPOST COFFEE 株式会社 代表取締役・下村 領さんにインタビュー。BtoCマーケティング、コーヒーの2050年問題、今後の事業展開など、お話を伺いました。

下村 領 Shimomura Ryo / 代表取締役

2005年、株式会社HERETICを創業。デジタルクリエイティブの制作、システム開発の事業を主軸に、自らもデザイナー兼エンジニアとして第一線で活躍。並行して2012年5月モバイルチケッティングサービスを展開するスタートアップのCTOに就任。その後2015年に事業売却。2013年7月、渋谷区富ケ谷にMAKERS COFFEEをオープン。自身もバリスタとして店頭に立つ中でコーヒー業界の課題を感じ、2018年9月にPOST COFFEE株式会社を設立。(起業サプリジャーナルより引用)

サブスク、eコマース、そして次の戦略は

NovolBa山田(以下、山田):まず、事業内容について教えてください。

POST COFFEE 下村(以下、下村):私たちは、メインの事業としてコーヒーのサブスクサービスを提供しています。そして2022年4月に、”コーヒー版ZOZOTOWN”を目指し、インターネット上でコーヒーのショッピングモールを立ち上げました
このように事業を拡げている背景には、「美味しいコーヒーの新しい流通構造を作りたい」という想いがあります。サブスクとeコマースにとどまらず、これからも様々なコーヒーに関する事業を立ち上げて、POST COFFEEが「美味しいコーヒーのインフラ」になっていきたいと考えています。

山田:コーヒーの新しい流通構造を作りたい、と思ったきっかけは何ですか?

下村:実は、POST COFFEEを立ち上げる前にバリスタとしてコーヒーショップを運営していました。コーヒーが好きで100万円以上するエスプレッソマシンを個人的に買ってしまったことがあり、自分用だけだともったいないのでお店を始めたんです(笑)
お店でコーヒーを提供するようになって、多くのお客様から「こんなに美味しいコーヒーを飲んだことない」と言われました。
この体験がきっかけとなって、コーヒーのマーケットを調べてみると、高品質なスペシャルティコーヒーの消費量は、日本全体のコーヒー消費量の10%に満たない、という事実を知ったんです。

多くの方が、美味しいコーヒーを知らないのはすごくもったいないと感じましたし、消費者と美味しいコーヒーとの距離を近づけたいと思うようになりました。

山田:”距離を近づける”ために、どのような仕掛けを考えていますか?

下村:サブスクサービスもeコマースも、オンラインの領域にとどまっているので、今後はオフラインにも力を入れていきたいと思っています。
日本では、食品購入の96%がオフラインで、オンラインはたったの4%というデータがあります。まだまだオフラインがメインであるため、これからはオフラインもかなり重視した事業展開をしていきたいと考えています。

また、オフラインというと「店舗を出すのですか」と聞かれることがあるのですが、コーヒーショップのスケーラビリティにはかなり難しさがあります。ショップを出せるテナントを探したり、設備や人のリソースが多くとられるので、スピード感を持った事業展開を優先し、小売店向けに商品を提供したいと思っています。
スーパーなどのショップの商品棚に陳列してもらい、オフラインでも購入してもらえる環境を作っていく予定です。

BtoC事業のマーケティング

山田:BtoC事業は消費者に知ってもらうマーケティングが重要だと思いますが、御社はどのように工夫されていますか?

下村: Instagram、Facebookを始めとするSNS媒体を中心として広告を出していまして、こういったSNSを利用する20代~40代の消費者が購買層の中心になります。
やはりInstagramの影響力は強いなと思う一方、そこでリーチできない消費者にも知ってもらいたいので、著名人などインフルエンサーとコラボレーションさせていただき、彼らをフォローしている方々にリーチしようとしています。

山田:なるほど。ターゲットはサブスクやeコマースを気軽に利用する若い世代でしょうか?

下村: いえ、もっと幅広い層に届けたいと思っています。
コーヒーって、老若男女、様々な方が楽しんでいる飲み物ですよね。コーヒーを飲む全ての潜在顧客層に対してPOST COFFEEの認知を取っていきたいですが、Instagramなどを使っていない層にはリーチしきれていないのが現状です。
そこで、先ほどお話ししたオフライン店舗での出品の話に繋がってきます。

スーパーなどの小売店で見かけたり、手に取り易くなることで、これまで知ってもらえていない層にも認知してもらい、買っていただく機会を増やせるのではないかと思っています。

最初はiOSアプリで失敗した

山田:ここまで順調に見えるPOST COFFEEさんですが、これまで何か困難や失敗はあったのでしょうか。

下村: そうですね、何からお話しすればいいか…というくらい、たくさんあります(笑)
一つお話ししますと、当初、POST COFFEEをiOSアプリでスタートしたことです。最高のUXを提供したいという想いがあり、iOSアプリ上でコーヒーを販売していたのですが、なかなか上手くいきませんでした。

アプリ開発のコストが高くて時間もかかる、そうなるとPDCAも遅くなる。
更に提供している私たちも、市場の課題が見えていませんでした
また、消費者がアプリをダウンロードすることは、思った以上に敷居が高く、購入に至るまでにはコンバージョンがものすごく低いのです。
しっかり下調べをしないで始めてしまったのは良くなかったな、と反省しています。 ただ、アプリを立ち上げて1年間くらい経ったところで、ようやくマーケットが抱えている課題が見えてきました。

例えば、「美味しいコーヒーを買いたいけれど、どんなコーヒーが自分の好みなのかが分からない」、「種類がたくさんあって選びきれない」 といった、消費者が抱える課題です。それが今のコーヒー診断を備えたコーヒーのサブスクサービスに繋がっています。
このように失敗から学んで進むことはできましたが、もう少しMVPを意識して小さく早くサービスの検証をするべきだったと思っています。

働く仲間は、コーヒーが嫌いでもいい

山田:下村さんは、やはり「コーヒーが好きな人」と、この事業を一緒にやりたいですか?

下村: そうですね、当初は「コーヒー好きな人は来てください」という感じで人材募集をしていましたが、今は別にコーヒーが嫌いでもいいと思っています(笑) むしろ、コーヒーが好きではない、苦手、そういう人の視点や意見は事業をやる上でとても重要です。
スペシャルティコーヒー好きやカフェを立ち上げたい方は、どうしても生産者寄りの考え方になる傾向がありますが、スタートアップとして、事業拡大をしっかり考えて進んでいく方向性と、うまくかみ合わないことも出てきます。
ですから、「コーヒーが好きなこと」が、必ずしも条件ではありませんね。

POST COFFEEが目指す社会

コーヒーの2050年問題に向けて

山田:最後に、「POST COFFEEが作りたい社会」についてお伺いしたいです。

下村: その前に、コーヒー業界の「2050年問題」についてお話しさせて下さい。これはどういう問題かと言うと、世界で消費されているコーヒーの約7割がアラビカ種というものですが、この栽培に適した土地が、地球温暖化、気候変動の影響で、2050年には半減するという予測が出ているのです。
そうなると、コーヒーの価格は高騰し、低品質なコーヒーが大量消費される時代に突入し、こだわって栽培している小さなコーヒー農園が食べていけなくなってしまいます。

私たちPOST COFFEEは、まじめに栽培された、品質の高いコーヒー豆を、適正な価格で取引される社会にしたい、と思っています。

そのために、まだ「本当に美味しいコーヒー」に出会えていない方々が、POST COFFEEに出会える環境を作り、より多くの方が高品質なコーヒーを飲める文化を作っていきたいと思っています。
それが実現できれば、こだわって栽培する農家がたくさん出てきて、コーヒー全体の品質も上がってくると信じています。個人的にも、美味しいコーヒーが飲めなくなったら悲しいですから、多くの方に良いものを届け続けたいです。
こういった想いを忘れずに、今後もPOST COFFEEは美味しいスペシャリティコーヒーを提供していければと思っています。

POST COFFEE株式会社

「ライフスタイルを進化させる」をビジョンに、2020年2月からコーヒーのサブスクリプションサービスを開始。2022年4月からは国内外の人気ローカルロースターと提携し、国内最大級の美味しいコーヒーのショッピングモール「PostCoffee」をローンチ。美味しいコーヒーのプラットフォームとして複数の事業を展開。テクノロジーを活用し、誰でも手軽に美味しいコーヒーを手に入れられる世界を創っている。(PR TIMESより引用)

https://postcoffee.co/


取材日:2022年6月17日
インタビュアー:山田 直哉

写真:原 康太  

POSTCOFFEE下村領(代表取締役)
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