第6回は、「すべての人に豊かさと機会をもたらす社会を実現する」をVISIONに掲げ、シード・アーリーステージのスタートアップに投資を行う株式会社ジェネシア・ベンチャーズの吉田 愛さんに取材させていただきました!
吉田 愛 Yoshida Ai / Reationship Manager
大学卒業後、アパレル企業勤務を経て、2010年よりIT系スタートアップの立ち上げに参画。自社メディアのライティングやWeb制作などの業務に携わる。2012年、BtoBのITソリューションを提供するアララ株式会社に入社し、総務・広報・経理業務を幅広く経験。その後、同社の新規採用開始に伴い、人事・営業に従事し、現在に至る。2018年8月より株式会社ジェネシア・ベンチャーズに参画。(WEBより引用)
VCに聞く
1. スタートアップとともに挑戦する人たち全員で「チーム」
NovolBa 原(以下、原):吉田さんの “Relationship Manager”という肩書を初めてお聞きしました。お仕事の内容を詳しく教えてください!
ジェネシア・ベンチャーズ 吉田(以下、吉田):私のミッションは「強いチームをつくる」ことで、 主に、投資支援先スタートアップのチームビルディング、採用、広報PR、スタートアップ同士が繋がれるコミュニティの運営、パートナー企業との関係構築などを担当しています。投資支援先スタートアップの“関係構築”にまつわる、あらゆる部分をサポートさせていただくのが“Relationship Manager”の役割です。ベンチャーキャピタルという組織の中でも、投資担当とは少し違うアプローチでスタートアップに関わっています。
また、ジェネシア・ベンチャーズは、スタートアップとベンチャーキャピタルという関係だけに限らず、スタートアップに関わるすべての人たちを新しい産業やサービスを一緒に創り出す一つの「チーム」だと捉えています。
私たち自身が投資支援先スタートアップにとって良き仲間であるために、また、スタートアップを応援してくれる仲間やファンをつくり「チーム」を拡張していくためにも、Relationship Managerとしてさまざまなステークホルダーと密にコミュニケーションをとるように意識しています。
2 .プロダクトとXXがスタートアップのファン・仲間を創る
原:スタートアップのサポートをされる吉田さんが考える、スタートアップに大切にしてほしいこと!をお聞きしたいです。
吉田:スタートアップの活動は、そのほとんどが一から仲間やファンを増やしていく活動だと言っても過言ではないと思います。お客様やユーザーの獲得、採用、アライアンス、私たちのような投資家からの資金調達、すべてが仲間やファンづくりの活動とも言えます。ファンを増やすことでより大きく成長し、より良い未来の実現に向けてさらに進んでいくことができます。
私はそのコアになるものが2つあると考えていて、一つが提供するプロダクトやサービス、そしてもう一つがコーポレートアイデンティティ(以下CI)、つまり思想や哲学です。
特にシード期のスタートアップにとって、自分たちの想いをどれだけCIに込められるかが、仲間・ファンが共感してくれるかに大きく影響すると考えています。だからこそ、PMF*と同じくらいの重要度でCIの明文化という取り組みを捉えてほしいと思っています。
*「Product Market Fit」の頭文字を取った言葉であり、直訳すると「製品(サービスや商品)が特定の市場において適合している状態」のこと
原:PMFを優先したくなるシード期に、CIも大切にしてほしいと思ったきっかけは何かあるのですか?
吉田:大きなきっかけは、私たちジェネシア・ベンチャーズのCI再構築プロジェクトでした。自社のウェブサイトをリニューアルしようとした際、パートナーであるデザイナーさんに協力をお願いしたところ、そもそもデザインに落とし込むコーポレートアイデンティティは明確か?というところから問い直してくれました。ワークショップや対話を通し、最終的に「まさに私たちを表現している言葉だ!」と納得できるCIを創ることができました。
その結果、起業家やLP*投資家の方々にも自分たちの想いをより明確に伝えられるようになり、私たちに関わってくださる方々との出会いもより広く濃くなったように思います。それが原体験となり、今では投資支援先スタートアップの皆さんに「CIめっちゃ大切よ!」と積極的にお伝えするようになりました。
*Limited Partnership(リミテッド・パートナーシップ)の略称。LP投資は、投資家がベンチャー企業への投資する方法のひとつで、対象となるベンチャー企業本体への直接投資ではなく、ベンチャー・キャピタル(以下、VC)を通しての出資する投資家を指してLP投資家をいう。
また、CIを言語化した後に大きく変わることができた投資支援先の事例もあります。そのスタートアップの代表は、事業の成長が横ばいになってきていると感じていました。そのような時に、私たちの語る「CIの大切さ」にとても共感してくださり、ぜひ自分たちも今一度CIについて深掘りしたいというお声をいただきました。
そして、代表がメンバーの皆さんから集めてきてくださった意見をもとに一緒にビジョンを考え、言語化のお手伝いをさせていただきました。結果、人材エージェントさんから素敵なご紹介が増え、リーダークラスのメンバーの採用が立て続けに決まったり、アクセラレーターの採択が決まったり、大手企業との連携が決まったりと多くの効果をもたらしました。すべてがその効果かはわかりませんが、実現したい世界をストーリーとして伝えられるようになったことが、彼らへの共感を呼び、成長の大きな転換期となったのだと思います!
シード期のスタートアップだからこそ、自分たちが何者か?を伝える活動は欠かせません。自分たちの原点や実現したい世界を表現するCIを創るということに思い切って時間を割いていただきたいなと思います。きっとその後の成長にも大きく寄与するはずです!
3. CIを創りたい!そんな起業家が取るべきファーストステップ!
原:CIを創りたい!という起業家の方が、まず最初に取るべき行動を教えていただきたいです!
吉田:CIを創るというのは0→1の作業ではなく、起業家の心・頭の中を引き出す作業。つまり、「創る」というより「言語化する」「可視化する」作業だと私は考えています。
そのため、CIを言語化したいと思う起業家の方がいたら、まず最初に自分の頭の中を全て開放する意識をもつことが大切です。周りの人に話を聞いてもらったり、メンバーと対話の機会を設けたりして、自分の心・頭を整理する時間を作ることをおススメします。
私たち自身も、起業家の方の心・頭の中を引き出すサポートの一つとして、「Players」という自社独自のインタビュー記事を作成・発信しています。なぜ起業したのか、なぜこの事業に挑戦しているのか、幼少期は何に興味があったのか、なぜその進学先・就職先を選んだのか、などを時間をかけて深堀りしていきます。過去の経験や意思決定の中に起業に懸ける想いや実現したい世界のイメージに繋がるキーワードがいくつも隠れていたりするので、その整理も兼ねて記事にしています。
起業家と投資家の対談インタビューを広報支援の一つで終わらせてしまうのでなく、取材された起業家にとって「想いの原動力」を知れる気づきの場の役割も担いたいと思っています。
4. 吉田さんが考えるジェネシア・ベンチャーズの特長と強み
原:ジェネシア・ベンチャーズさんの魅力をお聞きしたいです!
吉田:私たちは、偏りのないチームだと思っています。スタートアップ出身、大企業出身、金融機関出身、新卒入社など、様々なバックグラウンドをもつチームだからこそ、各々に個性ある得意分野や興味関心領域があることが大きな魅力だと感じています。
また、メンバー全員がコーチングを学んでいて、“傾聴力”が強いチームでもあると思います。起業家の方にアドバイスを求められても、まず彼らの想いを引き出すことを大切にし、起業家が投資家に対して本音で語れる関係を目指しています。
スタートアップに関わる方が
「ヘルシー&ハッピーに」働ける環境を!
吉田:スタートアップに関わるすべての人が「ヘルシー&ハッピーに」働ける環境を創りたいです。ジェネシア・ベンチャーズが投資をするシード期のスタートアップは、PMFへのプレッシャーも大きく、仕組みや制度など働く環境も整っていない状態がほとんどです。よく言えば自由度の高い環境ですが、そうした不確実性も高い環境で働く方々は本当に只者ではないと思いますし、尊敬しています。
ただ中には、思うように成果が出なかったり、環境との相性が悪く会社を去ってしまったりする人もいます。創業期のメンバーは皆が会社のコアです。CIの策定に関われたり、仕組みや制度をつくったり、経営チームの姿を間近で見られたりと「会社の成長・成功」に大きく関わり一緒に創っていけることが大きな魅力です。
だからこそ、そこで挑戦する起業家やスタートアップで働く方々、そこに関わるすべての人に、その“カッコよさ”や“うま味”みたいな部分を最大限に享受してほしいなと思っています。そのために、働く方々の「自分らしさ」や「Will」に向かうあり方・働き方をサポートし、スタートアップが長く社会に価値提供していける環境を創っていきたいと思います。
株式会社ジェネシア・ベンチャーズ
田島代表が2016年に創業した、独立系ベンチャーキャピタル。日本および東南アジアにおいて、シード・アーリーステージのTech系スタートアップへの投資を行い、成長スピードの最大化にコミットしている。これまでの投資先には、人事評価クラウドの「HRBrain」、建築現場と職人のマッチングプラットフォーム「助太刀」、東南アジアの医師向けSNSとe-learning「Docquity」などがある。(webサイトより引用)
https://www.genesiaventures.com/
【編集後記】
優しく、温かい雰囲気の溢れる吉田さん。取材を通して、投資先スタートアップにとっても心理的安全性を感じるような存在であることがとても伝わってきました。私たちも取材中、笑顔の絶えない時間となりました(笑)日々変化するスタートアップだからこそ、自分たちが目指す先を示すCIを大切にしてほしいという吉田さんの言葉はとても共感しました。吉田さんがスタートアップと共に創っていかれる今後の世界が楽しみです!(原康太)
取材日:2022年3月16日
インタビュアー:原 康太
写真:西 可菜子
編集:山田 直哉