第12回は、ゲームを軸としたIPプロデュースカンパニー「アカツキ」の子会社、Akatsuki Venturesのファンド「Dawn Capital」でディレクターを務める山﨑 大世さんにインタビュー。
VCは起業家のどんなところを見ているのか?起業家として最低限押さえておきたい知識など、誰もが知っておきたい情報満載でお届けします!
山﨑 大世 Yamazaki Taisei / Director ・公認会計士
2014年、慶應義塾大学在学中に公認会計士試験合格。新卒で2016年KPMGあずさ監査法人に入社し、上場企業から非上場企業まで幅広いクライアントを監査。社内採用プロジェクトを通じて人のマインドを動かすことに対する関心が強まり、転職を意識する。Heart Driven Fund(以下、HDF)の世界観に共感し2020年1月にジョイン、多くの投資の意思決定に関与。2022年よりDawn Capitalのディレクターを務める。
どんな起業家に投資するのか
Dawn Capital の投資領域「エンタメ × to C 」
NovolBa神成:Dawn Capitalは、2022年1月に設立された株式会社Akatsuki Venturesが4月に組成したファンド、という理解で合っていますか?
Dawn Capital 山﨑:その通りです。今まではアカツキが事業で稼いだお金を投資する形で、3年で約60社に投資し、良いトラクションがでてきました。この度投資事業を本格的にやっていこうと子会社を作り、HDFをリブランディングして進化したのが「Dawn Capital」というファンドです。
神成:VCとしてしっかり結果にコミットする、本気の姿勢ですね。投資領域とチケットサイズについて教えてください。
山﨑:ソーシャルゲームを事業の中心としてきたアカツキがベースとなっているので、「エンタメ × to C」は相性が良いです。知見もありますし、精度高い投資判断が出来ると思っています。チケットサイズは3千万円~1億円が多いです。4月に組成してから、有難いことに既に10社を超えるスタートアップ(2022年8月時点)に投資させて頂いています。
投資家のココを見る! 右脳と左脳のバランス
山﨑:投資基準は、以下の3つがポイントです。
1.感情などの右脳的要素と、数字やロジックの作りこみといった左脳的要素のバランスが良い
2.物事をやりきるマインドを持ち合わせている
3.起業家自身が、狂気的にプロダクトや構想にワクワクできているか
神成:右脳的・左脳的って、とてもわかりやすい言葉ですね。これは山﨑さんの言葉ですか?
山﨑:これはアカツキの言葉で、僕たちファンドメンバーにも沁みついているキーワードです。人がワクワクするのか、といった「感情」を大事にする会社でもあります。
左脳的な考えがしっかりしていて、理詰めで事業を構築するのも重要な視点です。
ただ、人は感情がついてこないとお金を払わない。感情をゆさぶる、心を惹きつける事業で、しっかり裏の座組や仕組みを構築できている、このバランスが大切だと考えています。
左脳では詰め切れない、どうしても不確定なところは出てくるもの。最後は右脳的な感情部分でハードルを越える必要があると思うのです。
ユーザーペルソナの設定と、ロジックの作りこみは重要
神成:領域は近い、情熱は感じる、だけど「何かが違う」と思うことってありますか?
山﨑:to C向けであること前提のお話になりますが、ワクワクの設計の仕方、ピッチ資料の作りが上手い方は非常に多いので、そこに違和感を感じることはほぼないです。
僕が「もう少し欲しいな!」、と思うケースとしては下記の点です。
● 誰の、どんな課題(ペイン)に向かっているのか、の解像度が粗い
ユーザーペルソナの設定を明確にして、客観的に見た時にも納得できるものになっているか、しっかり考えてみると良いと思います。
● 裏側のロジックの作りこみが弱い
「事業計画を作る」という行為がざっくりしている方は結構いて、私はそこに事業の本質が表れる気がしています。
事業を細部まで分解して検討できていると、「マーケットの確からしさ」が見えてきますし、どんな事業も最終的には「ユーザー数×単価」の積み上げであることがわかります。
売上はもちろん見ますが、分解されたパラメータのKPIがどうなっているのか、の方がはるかに大事ですし、それがわからないと判断が難しくなります。
投資先とはファミリーのような関係に
神成:VCと起業家の関係って様々だと思うのですが、Dawn Capitalさんはどういうスタンスで、どのようなサポートをしていますか?
山﨑:ハンズイフ、「必要であればします、必要ない場合はそっとしておく」というスタンスです。 一方で、アドバイスを求めるハンズオンの企業、ハンズオフを希望していた企業でも、ピンチの時には全力でサポートします。状況に応じて柔軟に対応したいと思っています。
いま、社内で行動指針を策定しているところなのですが、Dawnが大切にしたい価値観として「ファミリー」というキーワードが出てきています。ファミリーって愛で出来ていますよね。家族だからこそ厳しいこと、思ったことがすぐに言える関係性があって、誰かが困っていたらすぐに助けに行く。
社内も投資先との関係も、ファミリーと言えるようになりたいですね。
投資を受けたいスタートアップが取るべき行動
はやい段階でVCにコンタクトをとる
山﨑:シード~シリーズAの人たちが絶対にやった方が良いと思うのは、資金調達のタイミングで話すのではなく、もっと前段階からVCと接触することです。
前もってどんな人で、何をやっている会社なのか、どうユーザーが増えてプロダクトがどう成長しているのか…。資金調達のニーズが出る前から見ていることで、どんどん信頼が溜まっていき、お互いの理解もはやくなります。
数字の作り方、ロジックも相談しながら巻き込む
神成:自分の中でしっかり詰め切れていない段階で相談するのは「相手の時間を奪ってしまうのでは」と、躊躇してしまいそうですね。
山﨑:それが僕たちの仕事なので、全く気にすることはありません! 投資家側の見るポイントやロジックを早めに知り、その点がまだ詰め切れていないことを、起業家自身が理解することが大事だと思います。
その上で、「この部分はどう考えている?」と、都度アドバイスやフィードバックをしながら、投資家側が理解のしやすいスキームや見せ方を、一緒に考えていくことができます。
このプロセスを経て、資金調達までに説得力のある資料を揃えることができる。そうすれば、社内での説明がしやすくなり、資金調達がスムーズに完了できます。
お互いにとって、とても良いことだなと思うのです。
神成:確かに!大学生でいきなり「はじめまして」より、小中高と成長を見ている子の方がかわいいし情もうつりますよね(笑)
山﨑:ここまで一緒に考えてきたのだから頑張りましょう、という双方の絆が大事です。ぜひ、資金調達のタイミングでなくても、お声がけしてもらえたら嬉しいです。
起業家が意識したいこと
簿記2級レベルの財務知識
神成:山﨑さんは公認会計士でもあるので、そういった視点からも、起業家はどんな知識を持つべきだと思いますか?
山﨑:日商簿記2級レベルの知識は持っていた方が良いと思います。数字の流れが掴めるようになりますし、事業計画を作る時にもお金の動き(フロー)がわかるようになります。何がどう動くと、ビジネス的な事象や日常の事象が数字に転換するのか、理解できます。
僕が大学時代に通っていた予備校「CPA会計学院」で、簿記2級まで無料で受けられる講座を紹介しています。教材を見せてもらったんですが、塾で教えるレベルでオススメです!
簿記2級は土台を作るイメージで、そこからどう事業にアウトプットしていくのかは、すぐに結びつかないと思います。基礎知識をもった後に読んで欲しいのが、『コーポレートファイナンス 戦略と実践(著:田中慎一+安田隆明 )』という本です。
神成:この本、ちょっと難しそうですし、読み応えありそうですね。
山﨑:表紙からして強そうだし、基礎知識がなくこの本を読んだら多分挫折します(笑)
会計って、ファイナンスってどういうもの?ということをキャッチアップできる本なので、実務レベルでどうやるのかを、この本が埋めてくれます。
経営者がわかっているのはベストケースですが、COOやCFOなど、社内で誰か一人知っていたらベタ―です。
資料の作りこみは、事業への想いが反映されている
山﨑:あとは、資料をどれだけ準備しているか、魂を込めているのかは結構大事ですね。
読み手がこれを見てどんな感情になるか、考えながらスライドを作っているかどうか。そこの気遣いができる、相手の感情の裏側まで探ろうとする行動が、スライドに表れます。それはサービスやプロダクトを作る時も同じだと思うのです。
一目瞭然でわかりやすい、読みやすい資料を作っていると、それだけでファンになっちゃいます。
神成:相手の時間を頂くという感謝の気持ちで、しっかり準備して想いをこめているかは重要だし、そこは確実に伝わりそうですね。
今後の展望
神成:最後に、今後の展望について。山﨑さん個人のことと、Dawn Capitalさんとしてのこと、どちらもお聞かせください。
山﨑:僕個人としては、Web3は面白いなと注目していますが、VR系やメタバースなど、常に新しいトレンドがくるので、最新情報をしっかりキャッチしたいです。ここ数年ではなく、10年単位でマーケットを俯瞰的に捉えて、しっかり理解している状態でありたい。そうでないと、リスクをとって投資できませんから。
起業家から信頼される、リスクがとれる投資家だと言われる存在になりたいです。
ファンドとしては、VCとしてしっかり生き残っていくのは大前提で、2号3号ファンドを立ち上げたいですね。to Cに強いことが特長ですが、僕たちにしか出来ないことをもっと増やして、色を出していきたいと思っています。 ファンドメンバーは、代表の石倉以外は全員20代という若い組織です。to C向けの最先端のサービスは、若い人が起点となって生まれることが少なくありません。
自分たちがそのサービスを利用するユーザーとなって、最新情報をしっかり掴み、起業家を引き上げられる存在でありたいです
神成:最後に、山崎さんから起業家の皆さんへメッセージをお願いします。
山﨑:色々とキャピタリストの立場でお話してきましたが、僕は起業家へのリスペクトは絶対に忘れたくないと常に思っています。我々もリスクマネーはありますが、起業家が一番リスクを負っていることは間違いありません。起業家の皆さんが仕事を進めやすいようにサポートしていきたいと思っていますので、ぜひお気軽にご連絡ください。
神成:山﨑さん、貴重なお話ありがとうございました!
株式会社Akatsuki Ventures
「Dawn Capital」は株式会社Akatsuki Venturesが運営するファンドです。
時代の先駆けとして世の中を照らす太陽のような存在を目指し、人々の心を動かすサービスやプロダクトを生み出すスタートアップへの投資と支援を展開していきます。ハンズオンチームに加え、アカツキ本体による経営・事業サポート体制も構築し、投資先を支援してまいります。
【編集後記】
WITHで初めてVCの方にインタビューさせて頂いたのですが、終始「ふむふむ、なるほど」と勉強させて頂いた1時間となりました。山﨑さんご自身が、とても右脳左脳のバランスが良い方。起業家をリスペクトして大きな愛で全力支援し、とても視座が高く数字やロジックに強いのです。しかも超ジェントルなナイスガイ!!
こんな素晴らしいVCの方と壁打ちが出来たら、事業計画もスキームもがんがんブラッシュアップできちゃうだろうな、と腹落ちしたのでした。(神成)
取材日:2022年8月2日
インタビュアー・文:神成 美智子
写真:原 康太
校正:山田 直哉