グランストーリー SOTRIUM 越智敬之 凸版印刷 朝田大 内田多 WITH NovolBa

対談 Vol.006 株式会社グランストーリー × 凸版印刷株式会社

左から内田多氏(凸版印刷)、朝田大氏(凸版印刷)、越智敬之氏(グランストーリー)

変化を恐れる企業・人が多いなか、先を見据えて変革を続けてきた企業がある。1900年創業の、いわゆる老舗大企業である凸版印刷株式会社だ。

新産業創造プラットフォーム『STORIUM』を運営する、株式会社グランストーリー代表取締役CEOの越智 敬之氏が、スタートアップ・投資家・事業会社のそれぞれの人柄や思いにフォーカスし魅力を伝える、連載企画第二弾。
今回は、「変化」を恐れないマインド・カルチャーを持つトッパンCVCで活動する朝田 大氏と内田 多氏との対談インタビューを行った。

凸版印刷がなぜCVC事業に乗り出したのか。そしてどのようなマインドでスタートアップを支えようとしているのか。越智氏が明らかにしていく。


越智敬之 Ochi Hiroshi グランストーリー 代表取締役CEO

越智 敬之 
Ochi Hiroshi

株式会社グランストーリー
代表取締役 CEO

【 Profile 】早稲田大学在学中にWEB制作会社を起業したのち、2002年サイバーエージェントに入社。インターネット黎明期より大企業のデジタルシフトを11年にわたり支援。AOI Pro.(現AOI TYOホールディング)にてグループ全体のデジタル戦略と組織再編プロジェクトを担当後、グループ会社の執行役員に就任。ガリバーインターナショナル(現IDOM Inc.)では、事業企画やスタートアップとのアクセラレーター運営に携わったのち、採用人事責任者として採用戦略やリーダーシップ開発インターンプログラムを企画。2019年株式会社グランストーリーを創業。


変革に向けた重点戦略としてのCVC


朝田 大 
Asada Hiroshi

凸版印刷株式会社
事業開発本部 事業開発統括センター 副センター長

【Profile】1993年 凸版印刷入社。生産技術、システム開発部門に従事。1999年 本社ソリューションセンターにて、IT関連のシステム、サービス開発に従事。2002年 本社技術戦略部門にて、電子ペーパー、有機EL、ライフサイエンスなどVB投資を通じた新事業開発に従事。2006年 経営企画部門に異動、一貫して新事業開発、M&Aなどを担当。2012年 電子チラシ・地図、書籍などメディア事業に関する事業戦略を兼務。2016年 経営企画本部内に、戦略投資推進室を設立。成長市場における新ビジネス創出に向けたVB投資やM&Aを推進。ブックリスタ㈱取締役。


越智:凸版印刷さんは「すべてを突破する」という強いブランドメッセージを打ち出し、大企業のなかでも革新的な取り組みをされています。そんな御社がCVC活動を始めた理由はなんでしょうか?

朝田 :多くの日本企業に同じことが言えるかもしれませんが、2008年のリーマンショック以降、当社の成長率が鈍化し営業利益も横ばいになっていました。それに対し、2015年ごろまでは構造改革やM&Aで利益を出そうとしていましたが、その上で新規事業、成長戦略を作ることが当社としての次の課題となっていました。

さらに、2016年は「ペーパーメディアの縮小」「国内市場の成熟」などの外部環境の変化に加え、受託事業モデルからの脱却や、稼ぐ力の強化を迫られていました。新規事業を作って、ポートフォリオを根本的に変革する必要があったのです。そこで、当時常務取締役だった麿 秀晴を中心に検討が始まったのがCVC活動の始まりでした。
麿は2019年には代表取締役に就任しております。会社を成長させるために、経営トップ自らのリーダーシップで始めたプロジェクトということが現在においても重要なポイントだったと思います。

凸版印刷のCVC部門設立の背景について書かれた資料より

朝田:当時、私は経営企画本部に所属していましたが、「ヒト・モノ・カネ」で経営企画がハンドリングできるのは何か?メンバーで検討を重ねた結果、唯一対応可能なのが「カネ」ではないかとの仮説を立て、社内でまだ誰も手をつけていなかったベンチャー投資に取り組むことにしました。

立ち上げまでの準備期間は1年。チーム3人で、最新の取り組み、イノベーティブな取り組みをする会社やベンチャーキャピタルにヒアリングし、「トッパンとして何ができるのか」を徹底的に考えました

また、CVC立ち上げ時、ベンチャー投資専用の決裁ルートと予算枠を社内で確保し、スピーディーな意思決定を実現しました。当時、大企業におけるこのような仕組みは、とても革新的だったと自負しています。

麿秀晴氏とともにCVC立ち上げに貢献した朝田氏(凸版印刷CVC)

朝田:CVC活動、さらにスタートアップファーストでの投資活動を行う上で、金銭的な利益の追求(ファイナンシャルリターン)は絶対です。それがなければ、永続性は担保できません。それに加え、いかに事業シナジー(ストラテジックリターン)を生み出すか?この2点にこだわっています。

越智:スタートアップは、社会課題や次世代イノベーション実現を100%の覚悟で引き受け、まさに人生を賭けた挑戦をしています。彼らの原動力は、意志や意義、ミッション。しかし、理想だけではなく経済合理性と折り合いがつかなければ、持続的ではありません。ときに二律背反する2点を共存させようとしているところに、御社の「本気」を感じます。

「パートナー」として共創する


内田 多  
Uchida Masaru

凸版印刷株式会社
事業開発本部 事業開発統括センター
戦略投資部主任

【Profile】2010年 凸版印刷株式会社入社。法務本部にて、BookLiveやマピオン等のデジタルコンテンツ領域を中心に法務業務に従事。広告企画・開発部門を経て、2016年より、経営企画本部にて、ベンチャー投資およびM&Aを通じた事業開発を担当。サウンドファン、キメラ、combo、ナッジ、Liberawareなどを担当(comboの事業推進担当を兼務)。
早稲田大学大学院 経営管理研究科修了。早稲田大学イノベーション・ファイナンス国際研究所招聘研究員。


越智:御社は6年間で約60社もの投資実績があると伺いました。スタートアップに選ばれるために、意識されていることはありますか?

内田:いくつかあります。まず、スタートアップの成長戦略に貢献ができるよう、営業・企画部門に呼びかけて資本業務提携先スタートアップのプロダクト・サービスの販売連携を行っています。先日は社内オンラインセミナーで3社の起業家に登壇していただき、約250人の営業が参加しました。

事業開発をするのに「協業するならトッパン」といかに第一想起されるか。何年かやってきて、その大事さに気づいたのです。そのために、とにかく最初は売上貢献にこだわる。パートナーのプロダクト・サービスを本気で応援し、売る姿勢を見せています。

スタートアップへの愛が溢れる内田さん(凸版印刷CVC)

内田 :スタートアップとの協業に意味があるのか?社内に理解してもらうのに、かなりの時間がかかりました。最初の2、3年は、正直私たちの活動に対して厳しい意見が多かったと感じています。

また、できるだけ同じ目線でのバリューアップ支援を心がけています。そのための打ち手の1つとして、資本業務提携先スタートアップへの出向も行っています。凸版印刷での動き方が染みついていた部分かもしれないのですが、出向当初は、具体業務を進める際に出向先の経営陣に割と細かい事前確認をしていたんです。しかし、あるとき「確認の時間がもったいないから、どんどん行動して大丈夫」と言われて。スタートアップならではのスピード感やマインドなど、日々学びがあります。
出向先での呼び名が「内田さん」から「うっちー」に変わった瞬間は、嬉しかったですね。1年半ほど在籍していますが、今は仲間の一人として迎えてもらっています。

朝田:大企業の組織文化に染まった人間が、スタートアップの組織文化に触れることは、良くも悪くもエネルギーが必要で、大変なはず。しかしそんな中でも、内田は関係性を築いてきました。さらに、他のメンバーとバリューアップ支援のための勉強会を開き「投資先にとって何が必要なのか」日々考え抜いています

なぜそこまでして投資先に入り込むかというと、我々から一方的に業務提携契約をして、要望を伝えるだけだと、スタートアップと本当の意味でのパートナーにはなれないと思うからです。
何人ものメンバーが出向し、彼らの懐に飛び込んでくれたおかげで、我々がいかに「自分たちの目線からしか物事を見れていなかったか」理解することができました。

「大企業あるある」な契約も、抜本的に見直し

越智:内田さんはどういった経緯でCVCチームにジョインされたのでしょうか?

朝田 :実は、内田は法務部出身なんですが「ベンチャー投資のチームに入りたい」と、自ら手を上げて来てくれました。凸版印刷には、社員の挑戦を後押しする組織文化があります。私も希望して現在のCVC活動に従事しています。

投資活動において、ファイナンスへの理解はもちろん必須ですが、実はリーガルもとても重要なのです。内田が来る前は、大企業優位な契約を提案しがちでしたが、彼は対等な契約の素地を作ってくれました。これは画期的なことであり、当社の貴重なノウハウにもなっております。

内田:初期のころは、契約に限らず悪い意味で従来型の業務と同じような感覚で接していたと反省しています。「パートナーになりたい」と言われても、ファーストドラフトで自社都合な契約案を示されてしまうと、説得力がないですよね。
こういった失敗と反省を繰り返しながら、リーガル面を整備していきました。

越智:たしかに。せっかく前向きにパートナーシップを進めようと決まりかけたタイミングに、リーガルで押さえつけられると、スタートアップは足元を見られたような感覚でしんどいですね。内田さんのそのお考えは、本当にかけがえのないものですね。

応援したくなる、魅力的な起業家とは?

越智:お二人はどんな起業家に魅力を感じて、応援したくなりますか?

朝田:月並みかもしれませんが、その市場における本当の課題やペインを理解している方に投資したいです。
例えば、投資先であるユニファ株式会社の土岐さんのピッチは強烈でした。ユニファは、幼稚園、保育園のDXに取り組む会社です。デジタル化がいかに遅れているか、どう課題を解決すれば社会にインパクトを起こせるか、1時間ほど熱くプレゼンされました。
もう一つは成長ストーリーをいかにイメージできているか。事業のスケールについて、どこまで考え抜いているかもポイントです。

内田:私は「絶対にこれを成し遂げるんだ!」と夢中になっている人が好きですね。そしてそれを成し遂げるために必要な1歩目や2歩目を具体に落とし込むクレバーさもあると素敵だなと思います。
私はスポーツやスポーツに懸けるアスリートが大好きでして、元プロサッカー選手の友人が立ち上げた会社・事業にも凸版印刷で働く傍らで、関わっています。学生を含むアスリートの競技生活やキャリアを支援する事業なのですが、大きなことを成し遂げたいという想いがあって、そのために「今後やるべきことが明確になっているときの力」は強烈だなと感じています。スポーツでもビジネスでも、熱狂できることを見つけ、挑戦し続けている人を応援していきたいですね。

日本企業の底力を呼び起こすために

新産業創造プラットフォーム「STORIUM」を運営する越智さん(グランストーリー)

越智:御社は革新的な取り組みを続け、日本企業の「オープンイノベーションのロールモデル」といっても過言ではないと私は考えています。今後はどのような形でスタートアップエコシステム全体に貢献されたいと考えていますか?

内田:私たちは事業会社でベンチャー投資を担当している立場ですが、ベンチャーキャピタルの業界は、一見すると競合するベンチャーキャピタル同士が「協調関係で起業家やスタートアップを支えていく構造」が素敵だなと思っています。ライバルであり仲間でもある人とのネットワークが非常に重要です。このネットワークに入り、その拡大や深化に貢献していくためには、CVCの取組みを持続することが大前提と考えています。その上での「私たちだからこそ」という点では、120年前にベンチャー企業としてスタートした「印刷」に次ぐイノベーションを起こすことに貢献したいです。「凸版印刷」という企業の名前を超えて、いち投資担当者として業界全体や日本のことを考えられたら、もっと良くなっていくんじゃないかなと。

朝田日本を変えるのは大企業ではなく、間違いなくスタートアップです。それは歴史が証明しています。その中で私たち大企業がどう協力して、新しい産業を作っていくかが重要です。

また、日本に限らず欧米のCVCも含め、自社のR&D(研究開発)投資への比重がまだまだ大きいのではと感じています。我々もメーカーの看板を掲げている限り、R&D投資は絶対に止めません。しかし、自前主義からいかに脱却し、革新を起こしていくべきかについて、業界内の仲間と話し合いながら、あるべき姿を探っていきたいです。それが「日本企業がどう生まれ変われるか」という大きなテーマに繋がっていくのではないでしょうか。

越智:長年、最先端の技術開発に取り組んできた大企業が、スタートアップに心と情報を開くには、大きな勇気と信念が必要かと思います。また、それはスタートアップにとっても変わりはありません。大企業がR&Dの扉を開くことを恐れるように、スタートアップも自分たちの技術がハックされることを恐れているからです。
双方が歩み寄り、情報の非統一性を解消することがオープンイノベーションの最初の関門だと考えます。

朝田:スタートアップと投資家の間にあるのがSTORIUMなので、情報を全て開示することなく、スタートアップに繋いでいただける点は大きな魅力です。「トッパンだったらこういう課題解決ができるかもしれない」と、どんどんマッチングしてもらうことを期待しています。

1社1社丁寧にコミットしていきたいからこそ、御社に最適な出会いをコーディネートしてもらいたいですね。それも、機械的にではなく、いかに粘り強くやれるかどうかが重要だと考えています。もちろん、我々も頑張ります。

越智:日本の投資家は、1人当たり担当するスタートアップ数が多く、支援先へのバリューアップ支援が手薄になりがちなのではと、私は危惧しています。STORIUMとして、より多くの素晴らしい出会いを創出するために、邁進していきます。
イノベーションを牽引するスタートアップがもっと多く成功し、社会をより良くできるよう、私たち世代が連携し、諸先輩方から受け継いできた襷(たすき)を次世代に繋いでいきたいですね。

引き続きSTORIUMを通じて、有力なスタートアップとの連携機会をご一緒させてください。本日は貴重なお話を本当にありがとうございました!


イベントのお知らせ【凸版印刷をTOPPA!】有力スタートアップに選ばれる大企業CVCチームとは 〜事業提携60社の舞台裏に迫る〜

創業から120年間「印刷テクノロジー」を軸に事業を多角化してきたTOPPAN(凸版印刷)。今では新たな事業分野にも果敢に挑む革新的な企業として、スタートアップからも注目を集める存在となっています。
朝田大さん、内田多さんをお招きし、CVCチームとしての挑戦過程で見出された「問い・気づき・成功の秘訣」をカジュアルにお話頂けるイベントが開催されます。ぜひご参加ください。


▼越智氏のインタビューを読む
次起業家・イノベーターの成功確率を高める『STORIUM』とは

▼越智氏の対談インタビューを読む
株式会社グランストーリー × オリックス・キャピタル株式会社

株式会社グランストーリー

「次世代に活力と希望に溢れる豊かな未来をつなぐ」をビジョンに掲げ「意志ある人の可能性を解き放ち、新たな価値を生み出すプラットフォームをつくる」をミッションに活動するスタートアップ。革新的な挑戦に躍動するスタートアップと、国内外の有力投資家、豊富な叡智とアセットを有する事業会社のキーパーソンがつながり出会う新産業創造プラットフォーム「STORIUM」を企画・運営している。

会社サイトhttps://grand-story.jp/
STORIUMhttps://storium.jp/about/

凸版印刷株式会社

1900年創業。印刷テクノロジーをベースにした情報コミュニケーション事業、生活・産業事業、エレクトロニクス事業の3分野にわたる幅広い事業活動を展開している。2016年からはCVC活動を本格化させ、この6年間で約60社へ出資し、事業シナジーを生み出す戦略的リターンを掲げた投資活動に取り組んでいる。印刷テクノロジーをベースに、「社会的価値創造企業」という新たな企業像に向けて挑戦を続けている。

会社サイトhttps://toppan-cvc-journal.jp/


取材日:2023年3月8日
文:佐藤 まり子
編集:原 康太 / 神成 美智子(NovolBa)
写真:Kowaki

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