ビビッドガーデン_食べチョク_広報_下村 彩紀子

連載⑤食べチョク広報・下村彩紀子さんと考える 記憶に残るプレスリリースの打ち出し方

こんにちは。営利と非営利、両分野で頼られるPRパーソンになりたい麓(ふもと)です。全6回でスタートアップの広報PRについて連載しています。今回はプレスリリースの打ち出し方について、食べチョク広報の下村彩紀子さんにお話を伺いました。

下村 彩紀子
Shimomura Sakiko

株式会社ビビッドガーデン
食べチョク・広報

【Profile】新潟県魚沼市のユリ農家に生まれる。人材系メガベンチャーに入社し、法人営業や採用人事に従事。2019年10月にビビッドガーデン入社。 ひとり広報として2年従事したのち、現在はPRチームのマネージャー。ブランド戦略やコミュ ニティー運営も担う。2020年度ベストPRパーソン賞を受賞。
Twitter: https://twitter.com/sakiikos2

地域で頑張る人に経済的持続可能性を

―はじめに下村さんのご経歴をお聞かせください。

新潟のユリ農家の孫として生まれて、18歳まで新潟で育ちました。大学入学時に上京して人材系のメガベンチャーに就職しました。法人営業を2年ほど、その後新卒採用を2年半ほどやる中で、採用広報を通してコミュニケーションに面白さを感じるようになりました。

また、自分のアイデンティティを活かした仕事がしたいなと思った時に、地域に想いとこだわりを持って頑張る人たちが、経済的により持続可能になるための接続点になれたら幸せだなと考えるようになりました。

コミュニケーションと地域に関わる仕事がしたいと思っていたところ、まさに私が希望している仕事ができる「食べチョク」に出会いました。2019年10月に、初めての広報として10人目の社員で入社しましたが、広報は未経験でした。2年ほどひとり広報でしたが、現在は正社員3人のチームでマネージャーを担っています。

ひとり広報1年目のミッション

―ビビッドガーデンに入社されて、広報をおひとりでゼロから作り上げてきたと思うのですが、最初何から始めましたか?

メインミッションが「1人でも多くの方に食べチョクを知っていただく」ことだけは、はっきりしていました。わたしが入社前はまだ従業員数も一桁で、代表の秋元がPRを担当していたため、最初の半年は、代表の想いや思考をインストールすることに力を入れていました。それこそ毎日一緒にいて、どこにでもついて行っていましたね。

一方で広報未経験だったので、各所で開かれているオフラインの広報勉強会やランチ会に積極的に参加して、1カ月半で広報さん50名ほどと繋がることが出来ました。

―当時意識していたKPIの数字というのはありますか?

沢山の広報の方とお話しして、まずはアクションを増やそうというところにたどり着いたので、記者さんとのリレーション数を増やすこと、プレスリリースを月に4本出すことを目標に企画作りなどをしていました。アクションを数値で置くのは本質的ではないと思いますが、全く情報が表に出ていないスタートアップにとっては、まずは良い指標だったと思います。

―プレスリリース月4本となると、切り口が色々必要になると思うのですが、何パターンも手持ちがあったのでしょうか?それとも動きながら考えていましたか?

動きながらですね。イベントなどで知り合いになった記者さんに「こういうサービスやっています、ここから直近半年はこんな動きをする予定ですが、どれが気になりますか?どういう切り口だったら面白いと思いますか?」とダイレクトに聞いていました。その時期はまだ、私がゼロから考える切り口も、王道と思える切り口も全くなく、トライアンドエラーの連続で…。プレスリリースやSNSなどそれぞれ色々な特徴や特性があるなあと、日々勉強していったのが入社してからの半年でした。

「食べチョク」の転機はコロナ禍に

―最初の1年くらいは暗中模索しながらだったのですね。その時期に予想以上に反響があった、という出来事はありましたか?

2020年2月末、当時首相の安倍さんが「休校宣言」をした直後のプレスリリースです。休校になるということは給食が止まる。給食が止まれば自宅で朝昼晩と 食べるので、栄養バランスも気になる。一方で飲食店や百貨店の休業も決まり、生産者さんは販路に困っている。これまでにない全国規模での作物余剰が起きることがわかりました。

「消費者さん、生産者さん、両方の困りごとをマッチングしよう。力を入れて販路拡大に努めよう」と代表の秋元が言ったのが、休校宣言直後でした。そこからはもう急ピッチで開発が進みました。2営業日ほどでプレスリリースを出して、送料500円を食べチョクが負担するプログラムを発表しました。

―さすがスタートアップというスピード感ですね!食べチョクさんの想いを届ける点で大きなターニングポイントになったと思います。

そうですね、困っている生産者さんがいたのでスピードを一番大切にしました。そのプレスリリースを見てくださったメディアの方が多くて、そこから取り上げていただけるようになりました。3月から6月くらいまでの約4ヶ月に、SNSでも1万リツイート超えのツイートもありました。

でも、個人的にはメディアに取り上げられることだけを目標にするのは本質的ではないと思っています。
届けたい人は誰か、何のために発信するのか、が大切で、そこから逆算した時に、メディアに取り上げていただくほうが「届けたい人へ届けられる」可能性が高いなら注力するべきだ、と思います。ユーザーさんに届けられるメディアはどこか、バリューは何か、メディアを通してユーザーさんが見た時に面白いと思うポイントは、とすべて設計してプレスリリースを出していきます。

―ポイントは「目的思考」と「逆算」ですね。プレスリリースの準備って出すところまでで何割くらいなんでしょうか?

準備10割、でしょうか。そもそもなぜ出すのか、誰に届けたいのか、どう届けるのかが重要です。メディアさんに掲載いただきたいのか、もしくはSNSで拡散したいのか、ホームページに掲載すればいいのか、社内の誰を巻き込むべきなのか、事前に社外の関係者に頭出ししておくべき内容はあるのか、どのタイミングでリリースするべきなのか、社員にはどんなワードで発信してもらいたいのか、この切り口の取材が来たら誰が受けるべきなのか、その人のスケジュールの確保まで…、挙げればきりがないほど細かく想定して準備します。コミュニケーション設計というのでしょうか。細かく設計して、社内外を巻き込んで最大化していくのが PRパーソンのミッションだと思っています。

「メディア露出の1回を最大化」するために

―以前、PIVOTの動画の中で「メディアへの露出の1回を最大化する」とおっしゃっていましたが、具体的な施策を教えていただけますか?

すごく細かい話になりますが、例えば新聞記事が出るなら、出た瞬間に社員みんなで拡散する。テレビやラジオなら、告知日から当日まで社員みんなのSNSなどで盛り上げて、当日はハッシュタグをつけて実況する。メディアに取り上げていただく時は、メディアを見て食べチョクを知ってくれた方が訪問した時に、迷わず目的のところに辿り着ける導線設計を心がけています。

―素晴らしい気遣い…それこそが食べチョクさんの魅力かもしれません。下村さんに全く穴が見当たらないのですが、広報未経験だったんですよね?

未経験だったからこそ固定概念がなく「こうありたい」の方が強くって、失敗は気にせずガシガシできたのかもしれません。でも、メディア露出を狙って出したプレスリリースが、メディアに1件も取り上げてもらえなかった、なんてことも沢山あります。そんな時は、何が面白くなかったのか、メディアの方に聞きに行っていました。「届けたい人がどう思ったのか」が全てなので、広報知識がなかった私にとって、自分だけで振り返りを完結することはあまり意味がないのです。

―ダメだった時に理由を聞くのも、信頼関係がないと時間を作ってもらえなかったりするものですが、そのベースがきちんとできているんですね。

お忙しい時はもちろん難しいですけれど、一度接点があれば親身になってフィードバックをくださることもあります。何かしら食べチョクのことを覚えてくださっているのかもしれません。まだひとり広報だった時、1人で手が回っていなくて記者さんにこまめに連絡できていなかったので、一緒にお仕事させていただいたその1回で食べチョクのことをどう覚えてもらえるか、いつも考えていました。

ー記憶に爪痕を残すって感じですね。コツはありますか?!

失礼のない範囲であまり堅苦しくしすぎないことでしょうか。一次産業や食べチョク内の最近のトレンドや生産者さんのエピソードをはじめ、ユリ農家生まれという自分のエピソードを話すこともあります。

食べチョクの今 ~KPIの変化から思うこと~

ー食べチョクさんの動画やプレスリリースって、いつもエモいんですよね。そこは「らしさ」として意識されていますか?

ストーリーを載せることは大切にしています。食べチョクは一次産業への想いが原点にあるサービスです。登録していただいている生産者さんも非常に想いとこだわりがあるのが特徴なので、そこは他のサービスとの違いとして分かりやすく伝えていきたいです。

ー今現在のプレスリリースを出すペースはどんな感じですか?

出すべきネタがある時に出せば良いと思っていますが、現在も結果として月に4〜5本出していますね。アクション指標としても感覚的にも、頻繁に出したいという思いはもうなくて、価値がある情報がなければ、月に0本でも良いと思っています。広報活動はプレスリリースだけではないので。

ー今はそういうフェーズなんですね!例えばひとり目広報の半年から1年目だとどうでしょうか。

表に情報が出ていない企業には「出すべき情報しかない」と思うので、その時期は出した方が良いことの方が多いと思います。プレスリリースを沢山世に出して、検索した時に一定のワードでちゃんとヒットする状態を目指すと良いのではないでしょうか。

ーなるほど!ところで、プレスリリースを結構頻繁に出すけれど、気をてらったプレスリリースらしからぬものも散見するなと思っています。それについてはどう思われますか?

もちろん何でも出せばいいわけではありません。価値のあるプレスリリースを載せ続けるというのは大切なことだと考えています。特に、メディアさんに対して「価値ある情報を出す企業」と記憶していただくことが重要だと思っています。

必要なのは自分ごと化と解像度の高さ

ー先ほどもPRパーソンのミッションというお話が出ましたが、改めて、スタートアップのPRパーソンに必要な心構えって何だと思われますか?

PRだけすればいい、という価値観は持たないようにしています。PRパーソンって、経営者や事業責任者(会社)の代弁者です。事業フェーズや事業が抱えている課題やビジョン、強みをただ伝えるのではなく、自身も体感したかのような解像度の高さで語っていくことが必要です。そのためには、他部署主催のイベントに顔を出してユーザーさんの様子や熱量を肌で感じたり、関連するステークホルダーが関わる業務はできる限りキャッチアップするようにしています。実態とのギャップをチューニングしながら、すべてを自分ごと化して、解像度を高くしていくことが、より良いPRができることにつながると思っています。

ビビッドガーデンPRチームは全方位に挑む

ー先最後に、食べチョク広報PRチームが今後注力していくことは何でしょうか?

もちろん全てのステークホルダーに向き合っていく前提ではありますが、一番はユーザー(消費者)さんとのコミュニケーションでしょうか。ユーザーさんの食べチョクの利用の仕方は本当に様々で、日常使いで毎週野菜を注文してくださる方、月に一度のごちそう便でちょっといいお肉や魚を頼む方、フルーツの定期便、ギフトとして使われる方もいらっしゃいます。

ユーザーさんに対して様々な切り口から接点を作り、魅力を伝えていくコミュニケーションをしていきたいですね。

ーなるほど、下村さんならできると思います。本日は貴重なお話、ありがとうございました!

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【企業情報】
「生産者の“こだわり”が、正当に評価される世界へ」をミッションに掲げ、全国の生産者から食材や花などを直接購入できるオンライン直売所『食べチョク』の開発・運営を行っている。

企業サイト:https://vivid-garden.co.jp/
食べチョク:https://www.tabechoku.com/

【編集後記】
穏やかに語られる口調とは裏腹の、内容の迫力に圧倒されたインタビューでした。とても具体的に丁寧に話してくださったので、実務の浅い私もPRの仕事の解像度が上がりました。読んでくださった皆さんにも学びがあったら嬉しいです。最後まで読んでくださりありがとうございました。(ふもと)


取材日:2022年12月12日  
文:麓 加誉子  
インタビュー/編集:神成 美智子  

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