「スタートアップの働く場」にフォーカスする連載記事。第4回は、今年8月に移転し、新オフィスを構えたばかりの株式会社IVRyさんを訪問しました。スタートアップにとってのオフィスの“場”をどう考えていらっしゃるか、お話を伺いました。
背景
月額3,000円から、自由な電話自動応答システム(IVRシステム)を提供しているIVRy(アイブリー)株式会社。設立は、2019年3月。自宅、一軒家の3階離れ、ビルの一室へとオフィスの移転・拡大を繰り返し、今回で3回目の移転となる。今回の移転には、事業成長と、それに伴う採用効果への期待が込められているという。
・計画から移転までの期間:2022年2月開始・7月末完了の半年
・移転プロジェクトメンバー:社内全員
・移転のキーワード: 「来たくなる」オフィス
取材メンバー紹介:
奥西 亮賀 Okunishi Ryoga
–代表取締役CEO(写真左)–
1991年生まれ。2015年、同志社大学大学院理工学研究科情報工学専攻(博士課程・前期)修了。同年、株式会社リクルートホールディングス(現:株式会社リクルート)に新卒入社。その後、2019年3月に株式会社IVRy(旧Peoplytics)を創業し、2020年11月電話自動応答サービス「IVRy(アイブリー)」を正式リリース
今西 剛士 Imanishi Tsuyoshi
–コーポレート(写真右)–
1991年生まれ。2014年に東証一部(現 東証プライム)上場企業に新卒入社。経理部配属となり、主に連結決算や法定開示、IR等の業務および海外工場の立ち上げや内部統制整備に従事。外資系FMCG企業でのFP&A業務や大手IT企業での経営企画・管理会計を担当の後、2022年6月よりコーポレートの一員として株式会社IVRyに入社
事業拡大と採用を見据えた、攻めの移転
NovolBa 原(以下、原) :3回目のオフィス移転ということで、今回の移転のねらいを教えていただけますか?
IVRy 奥西(以下、奥西):オフィス移転のポイントは、2点です。1つは事業拡大、もう1つは採用効果への期待です。SaaSのスタートアップ企業の成長を測る指標の1つに、T2D3(Triple, Triple, Double, Double, Double)があります。サービス開始後、毎年3倍、3倍、2倍、2倍、2倍、すなわち5年で72倍の売上拡大を目指すことを意味します。このように成長していくためには、人員やオフィス面積も同じように拡大していく必要性を感じていました。
また、オフィスに弊社ならではの特徴を体現することで、採用にも繋がるのではないかと考えました。弊社のSaaSは、toB向けのサービスです。toCのサービスと比べると、あまり表立って出てこない分野であるため、採用面で弊社がどうポジションを取っていくかが重要です。そこで思いついたのが、オフィスに個性を出すことでした。
採用にかかるコストは、意外と高額です。年間の採用コストを予測、比較した上、採用エージェントに支払う金額をオフィスの移転費用とし、魅力的なオフィスを構築する決断をしました。オフィスがきっかけで採用効果が上がるなら、オフィス移転への投資は決して無駄にはならないと思いました。
オフィスはやる気の伝染と切磋琢磨できる環境を生み出す
原:オフィスを持たないスタートアップも増えています。その中で、オフィスを構え続けるのはなぜですか?
奥西:オフラインならではの強みがあるからです。僕は最初、自宅でリモート起業しました。2019年の3月、コロナ前のことで、当時オフィスは持っていませんでした。1年弱リモートをやってみて見えてきたのは、リモートの弱点です。
リモートは、仕事の効率を求めすぎてしまいます。当時、副業メンバーや業務委託メンバーが在籍していました。その多くが、与えられた仕事をいかに効率的にこなすかということを重要視し、100点満点ではなく、80点ぐらいの仕事をこなせば大丈夫だろう、という意識になっていました。気になることもあるけど、議論するのは面倒だし、会議の最後に突っ込んだ話をすると終わらないな、となってしまうことも。でも、そこをこだわってやり抜かないと、スタートアップは勝てないと思いました。
原:なるほど、実際リモート起業を経験したからこそ、オフィスの重要性を感じられたのですね!オフィスを持たれてどんな変化がありましたか?
奥西:最初にオフィスを構えたのは、2019年の12月です。当時、社員は1人もいなかったのですが、副業や業務委託など、関わってくれる仲間が遊びに来てくれました。皆で集まり、わいわい議論できることで、「それ、おもしろいね!」「作ってみようよ?」といったアイデアが沢山出てくるようになりました。更に、「仲間が頑張っているから、自分もあともう一歩やってみよう!」という熱い気持ちがその場にいるメンバーに広がっていきました。オフラインにはやる気の伝染が存在している、と感じました。
クオリティにとことんこだわったり、スピード感を持って取り組めたり。メンバー同士が刺激を与え合い、切磋琢磨できる環境は、オフラインならではだと思います。オフィスは、そういった環境を作り出せる貴重な場所だと捉えています。
思わず「来たくなる」力学のつくり方
原:新オフィスでこだわったところはどんなところですか?
IVRy 今西(以下、今西):重視したのは、「来たくなる」オフィスです。コロナになって、リモートが当たり前になり、リモートで働きたいという人も増えました。オフィスや場は大切ですが、かといってリモートを禁止にするのは、前時代的な印象も受けます。そこで重視したのが、メンバーが「来たくなる」力学をどれだけつくれるか、ということです。つい、能動的にオフィスに来てしまう。そんな場をどう作るかを考えるのが、ベストな選択肢だと思いました。
それを実現するため、初めてチャレンジしたのがオフィスの内装です。世の中には、スタイリッシュなオフィスがたくさんあります。もちろん、スタイリッシュなオフィスでも出社したくなるとは思うのですが、周りと同じことをやっても2番煎じになってしまうような気がしました。社内で話し合い、せっかくなら、IVRyにしかなく、且つ来たくなるデザインにしたい!という方向性が決まりました。
IVRyらしさを追求した結果出来上がったのが、ボルダリングの壁です。ボルダリングが好きなAIエンジニアがおり、その影響で他のメンバーにもボルダリング文化が広まっていきました。この壁は、普通の会社にはない、弊社の特徴を表すシンボル的存在になりました。
奥西や僕が勝手に決めたとして、僕は来たいけどみんなが来たくなかったら本末転倒ですよね。社内の意見を参考にし、何を重視するか話し合って決めたからこそ、メンバー全員にとって、“来たくなるオフィス”になったと感じています。
オフィスづくりは、事業・組織を成長される投資
原:移転を考えているスタートアップに向けて、アドバイスをいただけますか?
奥西:特にスタートアップの場合、スケールさせるためにはオフィスや場を絶対持つべきだと思います。定期的に集まれる場を設定することで、メンバーが直接コミュニケーションを取れ、事業・組織を急成長させます。
また、オフィス内装構築の際、その会社にしかない特徴を出すと会社のイメージを一気に作ることができます。ボルダリングの壁もそうですが、弊社オフィスのスケルトン天井も特徴的です。天井を抜くのには当然お金もかかりますが、やって良かったなと思っています。オンラインミーティングをした際、自分の背景に天井が映るので「映える」んです。とてもかっこいいですよ。社外の方や採用候補者と話す時に「オフィスに行ってみたいです!」という声を頂くこともあります。内装にこだわることは、投資の1つと捉えることが大切だと思います。
世の中の「楽しい」を増やしていきたい
原:IVRyの今後の展開をお聞かせください。
奥西:これからも、どんどん事業を伸ばしていきたいと思っています。上場も見据え、ゆくゆくは10倍、100倍に拡大し、数十万社の方々に使っていただけるような会社を目指していきます。
更に新たなプロダクトもリリースする予定です。今はまだ言えないところもありますが、弊社はプロジェクト開発が得意な会社なので、新しいプロダクトも考えています。良いものをどんどん作って、世の中の「楽しい」を増やしていきたいと思っています。
原:ありがとうございました。今後の展開がますます楽しみになりました!
こだわりの「場」
【IVRyは絶賛メンバー募集中!】
一緒に楽しく働ける人を募集されています。「Work is Fun」という言葉を掲げ、楽しく働くことを大切にされています。クライアントさんや、エンドユーザーさんのため一生懸命になって、楽しく働ける人募集中です。https://www.wantedly.com/projects/1077281
株式会社IVRy
IVRy(IVRy)は1日100円から利用できる電話自動応答サービス(IVRシステム)です。自由な分岐設定と自動応答・SMS返信・電話の転送(リダイレクト)・録音機能を活用し、営業電話・顧客からの問い合わせ・注文・予約等の様々なシーンを自動化します。また、営業時間内と営業時間外でルールを変えることや、電話履歴の確認や顧客登録機能等、多数の便利な機能が存在しています。(WEBより引用)
【編集後記】
スタートアップにとって、オフィスがなぜ必要なのかという問いに対して、経験談を元にお話される奥西さんの言葉は、非常に説得力がありました。オフィスの手間や費用に注視してしまうのでなく、そこで生まれるカルチャーやコミュニケーション、採用への可能性に目を向ける「投資」という考えが重要な印象を受けました。私たちもスタートアップへオフィスを展開しているからこそ、「昇る場」を提供していきたいと改めて強く思った取材でした。(原康太)
取材日:2022年10月3日
インタビュアー・編集・写真:原 康太
校閲:山田 直哉