企業にとって「広報」は世の中に知ってもらうための大事な活動ですが、スタートアップではまず事業成長のためにリソースを割いていきたい、「広報」はまだやらなくていいのでは?と思う方も多くいます。しかし、実はその考え方ややり方次第では広報が事業成長に寄与する例も少なくありません。
今回は、ベンチャー・スタートアップの広報を数多く支援してきた三上毅一氏が広報活動おける考え方や具体例などを交えて広報術を紐解いていいただきます。
情報過多時代により求められる企業の広報力
皆さんメディアと言うと何を思い浮かべますか?ひと昔は四マス媒体といって、テレビ・新聞・雑誌・ラジオが主流でした。(※マスは、マスコミュニケーションの略) 最近は、SNSやスマホの普及によって、情報の入手・発信方法がここ数年で激変しています。いまや個人レベルでも手軽に、スマホ一つで情報発信・拡散が可能になりました。情報には2種類があります。メディアを通じ記者が正確な情報を担保した客観情報。かたや個人レベルでの主観、感情を単に発信した、偏った情報やフェイク情報も多く存在します。
SNSは報道とは違う世界となります。もちろん、企業のマーケティング活動としても、活用されています。最近は、広報分野でもSNSの効果的な活用方法も関心を集めています。事業に関する積極的な情報発信により、製品やサービスの認知・理解促進・売上にも直結していきます。大企業から中堅・中小企業をはじめ、多くのベンチャー・スタートアップ企業も広報セクションを設立し、広報活動に取り組んでいます。
弊社でも多くの企業の広報業務を支援しています。例えば、皆さんもご存知の㈱タイミー。学生起業家の小川嶺代表が2018年8月にローンチさせました。弊社がローンチから設立当初の広報業務をさせて頂きました。設立当初は広告展開をされず、弊社の広報活動により多くのメディア報道の獲得ができ、会社の礎に寄与しました。
そもそも広報は広告とどこが違うの?
広報とは、企業にとってどのような機能を持つものなのでしょうか。また、広告とは、どこが違うのでしょうか。まず、ここから説明しましょう。というのは、広報と広告を混同している企業が少なくないからです。
広告とは、企業の事業活動で製品やサービスを世の中に訴求する活動を指します。テレビや新聞、雑誌などの媒体を使って行われ、相応の効果が期待できます。ただ、多額の費用を要しますから、コスト・パフォーマンスについては、一概に良し悪しを言い切れないところがあります。また、長期のトレンドを見ても、一昔前のような広告効果が得られない、ということが多くの企業にとって悩みにもなっています。
一方、広報は、製品やサービスの認知を高めると同時に、会社そのものの社会における価値を知ってもらうという機能があります。ですから広報においては「会社の何を訴求するのか」「そのために何を取材してもらうのか」を徹底的に考えることが勘所になります。これこそが広報の「知」が問われるところです。
具体的には、テレビや新聞、雑誌などの記者が取材をして、記事を書いてもらうというのが広報のアクションになります。広告とは違い、中立的な立場である記者が書くため、その記事は客観性があり、それだけに受け手である消費者の信頼を得られる、という利点があります。
ただし、広告との決定的な違いは、企業の意図通りの発信ができるとは限らないことです。製品やサービス、あるいは経営に対する良し悪しの判断は記者に委ねられますから、ネガティブなトーンになる可能性がリスクとしてあり得ます。
<広告と広報・PR>
この ような特性を踏まえて、情報発信の手法を検討することになりますが、広告オンリーでは企業は中・長期的な成長が成し遂げられない、というのが私の考えです。
製品やサービスの内容を伝えることに加えて、会社がどのような考えに立って事業を進めているか、また製品やサービスを開発しているか。言い換えると、理念やビジョンを踏まえて、その時々の会社の動きを伝えることによって、生活者に共感が生まれます。その共感があってこそ、サービスへの関心も高まります。その意味で、広報は企業価値を高めることにつながるのです。
ただ、企業にとっては「広告か広報か」という選択ではなく、時々のニーズと予算に応じて両者を組み合わせ、シナジー効果を生み出すことが最良の手法でしょう。
広報の世界には“一発逆転”はありません。
メディアが求めている情報をいち早く把握し、的確に情報提供していく、この繰り返しです。あまり目先にとらわれずに先ずは自社の情報発信で何が有益なのか、検討してみて下さい。情報発信後の反応・反響、また記者に情報に対するヒアリングをするのも効果的です。広報は、積極的に発信し、修正からまた発信していく恒常的な取組が大切です。
広報によってもたらされるメリットは多様
みなさんの会社では、次のようなことが起きていないでしょうか。
・競合社のようにテレビ東京の「WBS」に出演したい。
・毎日、がんばってプレスリリースを作り、メディアに配信しても反応がまったくない。
・社内で広報の役割をイマイチ理解してもらえず、プレッシャーだけは強い。
これらの大半は、突き詰めると「経営者が広報マインドを持っていない」ことに原因があるでしょう。広報は組織の一部です。その頂点に立つのが経営トップです。
前に述べた通り、広報活動の成果の一つはメディアで記事になることですが、報道された企業情報は、読者・視聴者に絶大な信頼感をもたらします。それは、企業が発信する情報そのものではなく、プロの記者が書くことによって客観性が生まれるからです。
その他に、以下の経営インパクトが生まれる、というのが私の経験から実感するところです。
・ 見込客(リード)が増える
・ コンバージョン率・契約率が上がる
・ ネット上で指名検索が増える
・ 潜在顧客を増やしマーケットを拡大できる
・ 優秀な社員が採用できる
・ 社員のロイヤリティー、モチベーションが上がる
・ 社員の離職率が下がる
・ 資⾦調達がしやすくなる
・ 業務提携の話が増える
・ 協力会社との取引条件が良くなる
広報によってもたらされるメリットは多様で、企業が社会的に認知され、信頼度が高まり、そこから製品・サービスの販売促進にもつながっていきます。
最近とくに、人材不足を背景に採用広報に力を入れているベンチャー・スタートアップ企業が多い印象です。大手企業は多額の採用活動費を投下できますが、ベンチャー・スタートアップ企業は難しいのが現状です。せっかく事業が順調でも、有能な人材が集まらないと事業にも影響していきます。
広報 から経営トップには、これらのメリットについて伝えていくのもマインド醸成の一つにもなります。また、ライバル企業や理想とするベンチマーク企業の取組事例の共有も広報に関心を持ってもらえる手段になります。
広報・PR導入の5つのステップ
ではどのような広報・PR活動を導入すればよいのでしょうか。私が書いた『広報のプロが教えるメディアのトリセツ―取材獲得への5ステップ』(中央経済社)でも、広報・PRの5つのステップを提唱しています。
▼ステップ1:広報・PR活動を正しく理解する
上記でも説明しましたが、広報・PRと広告の違い。広報・PRのお客様は、メディアであること。情報提供するネタはメディアに刺さるかを理解する。
▼ステップ2:メディアについて知る
新聞、雑誌、TV、ネット各メディア&媒体特性を理解して、的確な情報を提供することが重要です。
▼ステップ3:広報活動を進めるための土台をつくる
広報・PRの成功は情報取集で決まる。自社を一言でいうとどんな会社なのか、キーワードを考える。お客様であるメディア人脈を多くつくりましょう。
▼ステップ4:自社の情報をプレスリリースなどに落とし込む
ステップ4:プレスリリースはA4一枚 でもOK!。
重要なのはタイトル情報で取材が決まる。真似すべきは新聞記事です。リリースのタイトルの付け方から構成・文章表現などの全てが理解できます。
▼ステップ5:準備した情報を売り込む
先ずは、勇気をだして電話でコンタクトを!。新聞、雑誌、TV、ネットメディアの記者特性を知ることが重要となります。
詳細に知りたい方は、ぜひ本を読んで頂ければと思います 。
Amazon: https://amzn.asia/d/bx5fFa3
三上毅一(みかみきいち)
㈱ベンチャー広報 CKO (Chief Knowledge Officer)最高知識責任者
ゼロイチ広報 代表コンサル
学校法人事業構想大学院大学ゲスト講師(青山忠靖特任教授ゼミ)
大学時代から広報PR業界に入り、キャリアは40年。
これまで上場企業から中堅・ベンチャー企業までの広報コンサルティングを手掛け、これまでに500社以上の経験を持つ。
また民間企業のほかにも自治体、大学、政党、宗教法人、博覧会事務局と、あらゆる組織広報の経験を持つ。加えて“攻めの広報”
“守りの広報”の経験も豊富で戦略策定から広報担当者の教育・育成まで多岐にわたり経験。
現在は、BtoBからBtoC企業を幅広く担当した経験とキャリアで培った豊富なマスコミ人脈を活かした、広報PRの指南役としてマネジメントも担当。
また生涯現役を掲げ、自身でもクライアントを持ち広報業務も行っている。
ゼロイチ広報では、年間のべ200名の広報パーソンに向けた個別コンサルや「広報いろは勉強会」の講師を担当。“広報の現場を熟知した”ベテラン広報パーソン。
著書に『広報のプロが教えるメディアのトリセツ―取材獲得への5ステップ』(中央経済社)
9月より『MIKAMI広報アカデミー』の代表コンサルに就任。これまでの経験を活かし、個別指導により、広報知識から広報実践に関するスキルを身につけ、内製化を目指します。
ベンチャー広報 https://www.v-pr.net/
MIKAMI広報アカデミー https://lp.k3r.jp/venturepr/mikamipracademy