第37回は、映像エッジAIプラットフォーム『EDGEMATRIX(エッジマトリクス)サービス』を提供しているEDGEMATRIX株式会社、システム開発責任者・常務執行役員の佐藤 剛宣さんにインタビュー。エンジニア視点、組織視点のお話を【前・後編】でお届けします。
前編ではエンジニアとしての佐藤さんの想い、ライフスタイルについてお話を伺いました。後編は、完全リモートワークのコミュニケーション、組織の在り方や、サービス開発の秘話をお届けします。
佐藤 剛宣 Sato Takenori
/ 常務執行役員 プロダクト&サービス本部 プラットフォーム開発ユニット リーダー
東京理科大学理工学部・機械工学部2年修了、航空大学校飛行機操縦科卒業。就職氷河期でパイロットを諦め、営業職に就く。入社数か月で圧倒的な結果を出し、数社を渡り歩く中、システム開発を担当したのがきっかけでエンジニアに転身。2003年より米db4objects日本代表を務め、2012年日本発シリコンバレー本社のクラウディアンでPrincipal Support Engineerとなる。2019年クラウディアンからのスピンオフでEDGEMATRIX株式会社が創業、開発責任者 兼 常務執行役員に就任。
【前編】はこちら
リモートワークを円滑に行うための仕組み
NovolBa 神成:佐藤さんは10年以上前からWFH(Work From Home)をされているそうですが、円滑に仕事を進めるために気を付けていることはありますか?
EDGEMATRIX 佐藤:前提として、個々の能力が高いメンバーで構成されている必要があります。その上で主体的に考え行動できること、時間をかけることよりもアウトプットをしっかり出すことを意識できることが重要だと思います。
例えば、コスタリカのエンジニア達は世界レベルの優秀なメンバーですが、彼らには世界でまだ誰もやっていないようなチャレンジングな開発を提供し、時間で縛らずアウトプットで評価しています。
日本側では、毎週月曜日に全員がオンライン会議で顔を合わせます。Slackも使いながら、1週間の業務について1分程度で発表します。また、火曜日は自由参加になりますが、自分の仕事や気になるトピックについて、自由に話す会議を開催しています。同僚がいま何に取組んでいるのか、何を課題に感じているか知ることができ、お互いの状況に無関心になることなく協力できています。
神成:リモートワークをしていると、どうしても自分一人での仕事や動きになりがちですが、密なコミュニケーションをしっかりとることが大切ですね。
何か会社の制度でユニークなものはありますか?
佐藤:「Thank You ポイント」という制度があります。
全員リモートで働いていても、周りの状況を知る努力をして欲しいので、毎月「頑張っていると思う社員」、「仕事を助けてくれた社員」に対し、Thank Youポイントを送ることができます。
毎月各人が2名にポイントを送り、それを半期で集計し、1ポイント2千円に換算して支給します。毎日顔を合わせなくても、頑張っていることをわかってもらえることは嬉しいですし、協力しあうことにお互い前向きになれます。
神成:各個人の主体性に任されつつしっかりと仕組み化されていて素晴らしい!やはりグローバルな会社からのスピンオフですね。
課題を最速で解決して前進する
神成:全員がリモートワークで個々が自律的に動けるのは理想の形ですが、行動指針や考えの核となるMVVを定めていないと難しい気がするのですが…。
佐藤:MVVについては実は何度か策定するためにトライしていますが、どれが受け入れられるのか、絶賛マーケットフィット中の状況です。今は組織がさほど大きくないため、日々議論しながら直面する課題を最速で解決し、前に進んでおり、「言葉よりも行動」という状況です。「朝礼暮改が当たり前」と代表取締役副社長の本橋が社員に伝えているようなカルチャーですので、経営の教科書のようなMVVを作ってそれに縛られるのではなく、あえて時期を決めず「自然に湧き上がるのを待とう」と話しています。
ただ、これから社員が増えてくれば、いまのように全員と議論し理解することが難しくなりますので、MVVが重要になります。それこそコンサルが入れば真っ先に導入提案されそうですね(笑)
エンジニアとビジネスサイドのバランス
神成:エンジニアの立場と経営側の立場、どちらも考えて連携することは容易ではないと感じますが、実際いかがでしょうか。
佐藤:エンジニアの立場と経営幹部の立場を両立させることは簡単ではありません。自分のなかの比重は「新しいモノをつくる」ことが大きいのですが、経営幹部の立場としては、担当するR&D部門のことだけではなく“開発機能と業界動向の両軸”から開発フェーズの優先度とリソース配分を決め、事業性を常に意識しています。
また、営業を最大限支援するという姿勢も崩さないようにしています。エンジニアの立場としては、当社のエンジニアは非常に優秀かつ大人なので、無理を言ってくることもありません。課題があれば一緒に解決できるように努めています。
プロダクトの原型となるもの
神成:どういった経緯で今のプロダクトが生まれたのですか?
佐藤:当時Deep Learning(深層学習)が注目され始めていました。このDLを簡単に説明しますと、機械がデータから自動的に特徴を抽出してくれる、というものです。
まずクラウディアンのオフィス入口にカメラを設置してデータを取って、「何を目印にして判断したのか」みたいなことを分析してみたのです。いつもスーツを着ている営業社員だと“ネクタイ”を見ている、ある社員は“特徴ある髪型”で本人を特定している…など。
そこから電通さんと車種を見分ける実験をやってみることになりました。車の画像をクローリング*させて、300車種近く年式まで学習させて、そのAIを使って高速道路を走っている車の車種と年式がわかるという実証実験です。高速道路の巨大サイネージに、車種に応じて広告を切り替えるということをやってみました。
*Web領域でプログラムを使ってページの情報収集する手法のこと。
神成:高級車にはゴルフ場の広告とか、そういった感じですか?確かに高級車と軽自動車では興味関心が全然違ってきますものね。
佐藤:こういったところから、『EDGEMATRIXサービス』の原型が出来上がった感じです。
後に、新宿にある日本最大のバスターミナルの乗降客数計測の仕組みを作らせて頂きました。カメラが乗降客の情報を捉え、混雑状況を分析して速報を出しています。また、周辺道路の車線別混雑状況をはじめ、都内の道路工事で、刻々と規制が変わるような現場の交通量計測を累計2年分ぐらいはやりましたね。
今後の展開
神成:EDGEMATRIXの今後の展開をお聞かせください。
佐藤:当社の製品サービスは、堅牢性、信頼性、性能を重視していることから、採用いただいているお客様は、道路、鉄道、駅、大規模駐車場、大型店舗、河川、海洋等の社会インフラが多いと言えます。一般の人々の生活を豊かにする基盤となることで、安全・安心で効率性の高いスマートシティの実現に貢献したいと考えています。
また、海外展開も準備しています。「映像+エッジ+AI」という当社の事業は、欧米アジア諸国からも革新的(イノベーション)であると評価いただいているようで、海外メディアからの取材も増えています。当社製品はLTE、5Gといった無線機能が搭載されていますので、各国での技術適合認定を取得しているところで、これからパートナーを経由して本格的に販売提供していくことになります。
神成:革新的な技術で社会にインパクトを与える。THEスタートアップですね。
様々なお話を伺えてとても勉強になりました。ありがとうございました!
EDGEMATRIX株式会社
5G時代のIoTの主流となる高精細映像等を現場(エッジ)でAI処理し伝送できる小型装置「Edge AI Box」、国内外多数拠点に設置した「Edge AI Box」の統合管理基盤となる「EDGEMATRIXサービス」、その上で稼働するAIアプリ開発パートナーが提供するAIアプリを流通販売し、収益化する「EDGEMATRIXストア」を構築し商用サービス提供しています。
私たちは、映像エッジAIを活用するインフラ製品とプラットフォームサービスで、安全安心な社会づくり、生活の高度化に貢献したいと考えています。
【編集後記】
世界TOPクラスの技術開発をグローバルなメンバーで行っているエッジマトリクスさん。インタビューさせて頂く前は、様々な記事を拝見し「お堅い会社」を勝手にイメージしていました。ところが、佐藤さんも副社長の本橋さんも、ユーモアたっぷりで人間的な魅力に溢れる素敵なお人柄。若手エンジニアや起業家の方の刺激になれば幸いです!(神成美智子)
取材日:2022年9月7日
インタビュアー・文:神成 美智子
写真:原 康太