第8回は、半数以上が起業経験をもつチームによる、日本では類を見ない起業家コミュニティ『千葉道場』を運営され、コミュニティを基盤とした投資ファンドを展開される、千葉道場ファンド・取締役パートナー 石井 貴基さんに取材させていただきました!
石井 貴基 Ishii Takaki / 取締役パートナー
北海道札幌市出身。株式会社リクルート、ソニー生命保険株式会社を経て2012年3月に株式会社葵を創業。誰でも無料で学べるオンライン学習塾アオイゼミをリリース。2017年11月、同社をZ会グループに売却。以降も株式会社葵の代表取締役として、グループ各社と複数の共同事業を開発した後、2019年3月末に退職。同年8月に千葉道場ファンドの取締役パートナーに就任。
1.千葉道場ファンドが”他と違う”理由
NovolBa 原(以下、原):千葉道場ファンドさんの特徴についてお聞かせください。
千葉道場ファンド 石井(以下、石井):私達は「千葉道場」という起業家コミュニティに属するコミュニティ・ベンチャーキャピタルです。「千葉道場」にはシード、アーリーからレイタ―ステージまで、様々なフェーズの起業家が80名以上参加しており、お互いに支え合い、切磋琢磨し合う、という日本でも珍しい起業家コミュニティになっています。
私たちファンドの大きな特徴として、運営チームの半数以上が、EXIT*経験のある元起業家であるということです。起業経験があるからこそ、スタートアップ経営者の気持ちがわかりやすいのかなと感じています。
*EXIT(エグジット/イグジット):株式を売却して利益を得ること
投資事業領域としては、唯一ドローン領域に限っては兄弟ファンドであるドローンファンドが担っているのですが、それ以外の投資検討はすべて千葉道場ファンドが担当しています。
投資ステージとしては、シード、アーリーステージまたはレイタ―ステージが主なターゲットになっています。
私達はコミュニティ・ベンチャーキャピタルなので、コミュニティへの「入学」と「進学」を意識した投資活動を行っています。比較的成長ステージの早いシード、アーリーステージで投資することで、『千葉道場コミュニティ』に「入学」いただきます。
その後、数年間コミュニティ内で成長いただき、上場前のレイターステージで投資することでパブリックマーケットへの「進学」をご支援している、そんなイメージです。
2.質の高い起業家コミュニティがスタートアップの成長を加速させる
原:投資に加え、運営される『千葉道場コミュニティ』の魅力についてお聞きしたいです。
石井:実は私も、以前は起業家として初期から千葉道場に参加していたのですが、唯一無二の起業家コミュニティだと感じています。今や上場したスペースマーケットやウェルスナビも、シード期からコミュニティに属し、「どうやって資金調達をするか」、「どうやって経営メンバーを採用するか」ということを、一緒に学びながら成長されてきました。
現在、千葉道場からのM&Aの事例は7社、IPOも3社出ておりますし、今後さらに増えていくと思います。
「秘密厳守」というルールを徹底した完全クローズドなコミュニティだからこそ、参加者同士の心理的安全性が保たれています。一般的な勉強会では話せないような本当に生々しい事例をシェアしたり、孤独を感じがちな起業家が、本音で悩みを相談しあえる場になっているのかなと感じています。
このコミュニティに参加できる条件は「千葉道場ファンドの出資先である」ことです。だからこそ、起業家同士の信頼関係を築くことができ、質の高いコミュニティを形成できているのではないでしょうか。
3.情報共有と起業当初の志を維持できるコミュニティ
原:具体的にコミュニティで取り組まれていることをお聞かせください。
石井:「千葉道場合宿」と呼ばれる半年に1度のイベントを中心に、定期的な勉強会や起業家同士で交流できる機会をご用意しています。
千葉道場合宿ですが、コロナ禍前は温泉旅館や研修施設などで、朝から晩までオフラインで開催していました。コロナ禍ではオンラインでの開催へと形を変えて、実施しています。
今年3月には、午前にオンライン、午後にオフラインで集まり交流を深めるという、ハイブリッド型の合宿を行いましたが、コロナ禍以前と変わらない満足度となっているので、ウィズ・コロナを見据えた運営ができつつあるのかなと感じています。
合宿では大きく三つのテーマを取り扱っています。
一つ目が「過去の共有」です。
外には出せない失敗事例を共有し、「これはやめという方が良い」、「こうした方が良い」といった有益な情報を得られる場になっています。
二つ目は、「現在の共有」です。
例えば、業務委託先のフリーランスの方にどのようにして活躍してもらうか、変化する市場に対する施策の話など、現在を生きるスタートアップのために必要なノウハウを共有しています。
三つ目が「目線上げ」です。
私たちファンドは未来志向を大切にしています。日々目まぐるしく変化し、やることも多いスタートアップにおいては、経営者といえども、目先のことに追われてしまいがちです。だからこそ、半年に一回、起業当初の志に立ち返り、もう一度情熱に火をつけていただけるようなコンテンツもお届けしています。
こう言った取り組みも、コミュニティに属するスタートアップ自身が主体的に行っており、合宿の企画・運営を行う幹事も起業家自らが行うからこそ、充実したコンテンツが揃い、本当に価値ある場を創ることができています。
4.Catch The Starを胸に、時価総額1000億円目指すこと
原:千葉道場ファンドさんが投資される上で大切にされていることをお聞きしたいです。
石井:投資するスタートアップがどこを目指しているかは、重要視しています。
千葉道場はVISONとして、「Catch The Star」という言葉を掲げています。
これは千葉道場というコミュニティが生まれた当初から、代表の千葉が言っていた言葉で、「星を掴もうと手を伸ばし続ければ、富士山の頂上、エベレストの頂上には登れるだろう」という想いが込められており、シリコンバレーでも言われる、「ムーンショット*」と同じ意味を持ちます。
代表の千葉が副社長として経営していた株式会社コロプラは、時価総額4000億円を超えていた時期もあり、その景色を見たことがある人間です。また、千葉道場を支えて下さっている事業家の方々も、時価総額数千億円超えの会社を経営していた経験のある方が複数名いらっしゃいます。
そういった皆さんが口を揃えてお話されるのが、「一つの会社が世の中を変える権利を与えられるのが“時価総額1000億円”のラインだ」ということです。
それを踏まえ、星を掴む=少なくとも時価総額1000億円は目指そう、ということを伝えています。
この想いから、スタートアップに投資検討させていただく際は、経営者の方が目指している世界観と、少なくとも時価総額1000億円を目指そうとする、高い目線・意志があるかは見るようにしています。
この辺りはコミュニティへのカルチャーフィットという観点でも大切にしています。
*前人未踏なことで非常に困難であるが、達成できれば大きなインパクトをもたらし、イノベーションを生む壮大な計画や挑戦を指す
強い起業家を生むエコシステムを創っていきたい!
原:千葉道場ファンドさんの今後の展望をお聞かせください。
石井:起業家人材のエコシステムを作りたいと考えています。
千葉道場ファンドではメルカリに会社を売却したザワット株式会社の原田氏のほか、EXITを経験した起業家の方々がフェローとして、私たちの投資先の支援、起業家支援コミュニティの運営に関わってくださっています。
このような方々に、ファンド運営チームに加わって頂くことで、起業家時代には接点がなかった「投資家視点」を学んでいただけるのではないかと考えています。その結果、事業に再度挑戦する時に、投資家の視点も持って起業できるという“強い起業家”を輩出する仕組みとなって、日本のスタートアップのエコシステムを盛り上げることができると考えています。
起業家コミュニティと投資ファンドの2軸で支援し、2度目の起業家の方がより有利に進められる環境づくりを行うとともに、1度目の起業家の方に対しても、投資家の視点を還元し、一発目から日本を代表する企業が誕生する場を創っていきたいと思います。
現在、千葉道場コミュニティに参加する約80社のうち、時価総額1000億円規模の経験がある会社はまだ4社しかありません。2025年までには、25社まで増やしたいたいという、コミュニティとしての数値目標があります。
また、長期的に2030年、2040年までを見据え、私たちが創るスタートアップのエコシステムが強い起業家を生み、スタートアップ業界全体を一緒に盛り上げていける世界を目指していきます。
千葉道場ファンド
2015年に代表である千葉功太郎氏がエンジェル投資家として出資した起業家のために結成した「起業家コミュニティ」としてスタート。2019年に千葉道場ファンドを設立。起業家コミュニティ発のベンチャーキャピタルとして新規投資の他、千葉道場に参加するレイターステージのスタートアップへの投資を行い、ファンドとコミュニティの2軸でスタートアップのエコシステムを構築している。(会社HPより引用)
【編集後記】
強い起業家コミュニティの存在により、投資して終わりでなく、投資先がより成長しやすい環境が構築されていることがとても伝わってきました。「千葉道場」のコミュニティが、スタートアップ業界全体のエコシステムを創り上げるプラットフォームとして、これからますます大きくなっていくことが楽しみです。起業経験のある石井さんの言葉一つ一つから、起業家に対する熱い想いが伝わり、私たちもWITHとして起業家に更に光があたる世界を創っていきたいと思いました。(原 康太)
取材日:2022年4月19日
インタビュアー:原 康太
写真:提供
編集:山田 直哉