TBMユニコーン LIMEX 石灰石 藤﨑育子

Vol.050 株式会社TBM/ピープル&カルチャー本部・本部長 藤﨑 育子さん

「スタートアップと共に歩んでいきたい」という想いから立ち上がった、スタートアップの挑戦に”光”を当てるWebメディア『WITH by NovolBa』
第50回は、資源問題と気候変動の世界的課題に取り組む日本の研究開発型スタートアップ、株式会社TBMでカルチャー、組織作りを推進するピープル&カルチャー本部の藤﨑育子さんに、スタートアップの組織とカルチャーについてお話を伺いました。

石灰石を主原料とした、プラスチックや紙に代わる日本発の新素材『LIMEX』の開発・製造をするTBMは、2011年の創業からわずか8年でユニコーン企業*に成長した注目の企業です。
短期間で成長する企業はどのような組織なのか。シリーズA以降の経営メンバー必読の内容です。
*⽇本経済新聞「NEXTユニコーン調査」で、2017年から6年連続、推計企業価値ランキングトップ10にランクイン。2022年に推計企業価値1,339億円でユニコーン企業として掲載。


TBM ユニコーン 藤﨑育子 LIMEX  

  藤﨑 育子  
  Fujisaki Ikuko
  株式会社TBM / ピープル & カルチャー本部 本部長

【 Profile 】京都府出身。東北大学大学院修了後、組織開発に関わる研究、商品企画等に携わる。2022年TBMに入社し、Circular People Managementのコンセプト作成、人づくり・組織作りに従事。2023年、ピープル&カルチャー本部・本部長に就任。

 

自分と相手との関係を変えていくことで組織が変わっていく

NovolBa神成:藤﨑さんのキャリアを拝見すると、学生時代から労働市場や組織といったところに興味を持たれていたようですね。

TBM藤﨑大学ではヨーロッパ経済を、2000年前後の労働市場の流動化や失業率の問題を研究していました。大学院ではダッチモデルが注目されていた時期で、オランダに少し留学をしていた時に受けたHR分野の授業がとても面白くて、組織開発に関われる道に進みました。

コンサル会社の時は、行動科学や組織論、心理学の理論に沿って、組織を分析し組織開発を行っていました。シンプルに言うと「あるモデル」があって、そのモデルの正解に向けて組織を開発していく取り組みです。前職では「人と組織」の研究・開発をしていましたが、その時に組織開発に対する考え方が大きく変わりました。
「現実も正解も複数あり、それらは社会的に構成されている」という前提に立って、人々のマインドセットや関係性を変えていくことで組織の生成を促す、というアプローチです。
自分が持つ自己や相手、モノへの解釈・前提を変えていくことで、自分を取り巻く人々との関係性や、そのプロセスを変えていく。そうすることで、その場で生成されていくものも変わり、それが複雑に絡み合って自ずと組織も変わっていく、という考え方です。

神成:それぞれが当事者になれる、素敵な考え方ですね。とはいえ、新しい人が入ってきた時、最初は色々頑張ってみるものの「自分一人では変わらない」と諦める状態を、よく目にします。

藤﨑:一人ひとり心から「自分も組織を変えることができる」と思える土壌を誰が作るのか、も重要かもしれません。一般的には、リーダーや管理職の役割なのかもしれませんが、スタートアップは組織の規範やルーティンが大手より弱いので、メンバー誰しもが組織づくりの当事者である、と感じやすいのではないでしょうか。ただ、みんなそれを意識していないだけな気がしています。
例えば「私」と「ある人」の関係性が変われば、そこから派生して他の人との関係も変わっていきます。バタフライ効果*ではないですが、その小さな変化が大きな変化に繋がっていく感じです。
*非常に小さな出来事が最終的に予想もしなかったような大きな出来事につながること


神成:すべては目の前の人との関係性なのですね。

 

「現在(いま)」ここに、すべての未来がある

TBM藤﨑育子 ユニコーン LIMEX

関係がないことは、一つとして存在しない

藤﨑:TBMの事業は「人とモノ」との関係性を変えていく取り組み、と捉える事ができると思いますが、それには人と人、人とモノ、モノとモノ、色々な関係性の「変化の相互作用」が複雑に絡み合っています。理想とする状態にはないからといって、ある「人やモノ」を存在しないものとして扱うことはできませんので、メンバー一人ひとりが、自分と周囲の関係性を変え続けていく力を身につけてことは、とても重要だと思います。

フランスの社会学者・哲学者ブルーノが提唱する「アクターネットワークセオリー」は、人間だけではなく、人工物や自然物も、人と同列のアクターとみなし、現実はそれが絶えず変化するネットワークを生み出す、という考え方です。ブルーノは「第三者が大上段から批判しても何も変わらない。当事者としてここにいる私たちが当事者として何かを変えていくこと」が重要だと説いています。私がいま遠く離れたアフリカの問題を解決することは難しいですからね。

神成:なるほど。一人ひとりが身の回りことを自分ごと化して、何かアクションすることで関係性が変わっていくわけですね。

藤﨑:自分ごと化の考え方も色々ありますが、が「自分は周囲の人々に影響され、また影響を与えている」ことを意識して仕事に取り組むのか、ただ「目の前のやれることをやる」と思って取り組むのかでは、組織文化は大きく違ってきます。自分と全く接点のなかった社員が退職した時、「私には関係ない」と思うかもしれませんが、それでも自分が影響を与えていることは絶対にあります。私と誰かの会話、関係が変わっていれば、それが回りまわって退職者に繋がった可能性があるので、「関係のないモノ」は、実は一つもないのです。

神成:すべてが複雑に関係していて、すべてが繋がっている。このお話だけであと2時間くらいお話し伺いたいです(笑)

思い描く「未来」を変えれば「現在」の見方も変わる

藤﨑:養老孟子さんのお話の中で「時間は横に流れているのではなく、今ここに過去も未来も全てがある」という部分があって、本当にその通りだな、と思いました。現在(いま)を変えなければ、未来は決して変わらない。逆もしかりで、思い描く未来を変えれば、現在の見方も変わってくる。未来へのビジョンを変えれば、現在の捉え方が変わるので、時の理論って面白いですよね。

神成:私も「現在過去未来」という時の概念はないと思っているタイプなので、とても興味深いです。

藤﨑:「未来を描き挑戦する人を育てる」というビジョンを掲げる組織が、実際には売上達成に焦点を当て、戦略に従い成果を早く上げた人を評価し、高い目標を掲げて失敗した人には再挑戦の機会を与えず「失敗者」と見なすような組織だとしたら…。その組織では、メンバーは上司に指示を求め、制度や仕組みは部下の行動を管理するための道具となり「挑戦=悪いもの」という意味が組織につくられていくと思います。そして、おそらくつくりたい組織はいつになっても実現されないでしょう。今存在しないものは、未来にも存在しないからです。

「今」を変えることでしか、未来を変えることはできません。思い描いた未来の組織で大事にされている「挑戦する人をつくる」状態が、今の組織にあると考える。自分はその組織をつくっているメンバーだと自覚する。そうすると、例えば、上司なら挑戦する部下に対する関わりは、部下の行動の徹底的管理から「支援する」ものに変わってくるでしょうし、コミュニケーションの方法も変わってくると思います。
現実の認識を少しだけ変える人が増えていけば、制度や仕組み、役職や部門など、人との関係だけではなく、モノとの関係もかわり、様々な現実が変わっていくと思っています。

「現在(いま)」に全てがある。現在が変われば過去の捉え方も、未来も変わる。これは組織開発の根本的な考え方だと思っています。一人ひとりが現在を大切にして、いまを変えていこうと行動できると良いですよね。

年齢・世代・性差すべてを超えて、同じ理念で繋がる

TBM LIMEX 石灰石
石灰石を主原料にした環境配慮素材『LIMEX』の素材や製品がオフィスに並ぶ

神成:藤﨑さんは2022年にジョインされていますが、TBMのどんなところに惹かれて入社を決めたのですか?

 

藤﨑:良い会社、良い経営者を調べていて、素晴らしい理念をもった会社は他にもありましたが、『LIMEX』に「人×モノ」の関係性を変えていく可能性があると感じました。また、TBM社員の判断の拠り所である「TBM Compass*」に書かれている内容に物凄く共感しました。

何より素晴らしいと思ったのは、TBMの最年長、会長の角の存在です。元大手製紙メーカーで役員まで昇り詰め、現役引退した方が、若き経営者だった代表の山﨑から「力を貸して欲しい」と口説かれて、一緒にやるうちに相手の想い・志が自分のものに変わっていったそうです。山﨑と角とは40歳以上の年齢差がありながら、時代を超えて、志を同じにして歩んでいるのです。
*TBM Compass: 企業理念体系をMission (私たちの使命であり、宿命)、 Vision(私たちが目指す姿)、 Values (私たちの価値観であり、人格を形づくるもの)として定めたもの。一人ひとりが自然に取り出せる”羅針盤”としての役割を果たす。

神成:最高すぎます。自分の想いが会社の想いとリンクしてブーストするのは、スタートアップらしいですね!

藤﨑:山﨑社長はことあるごとに「みんなから期待されていることが、自分のエネルギーになる」と話しています。個々の想いが双方に影響し合うんですよね。

また、私は多くの企業で「ある一定の年齢に達すると、一律に人が切られていく」ことに違和感がありました。年齢を理由に一律に定年を勧められたり、閑職に異動を余儀なくされたり、そういうことを繰り返してきて、日本はおかしくなっている気がするのです。年齢に関わらず、いつまでも成長し続ける、変わり続けられる、活躍できる。そんなモデルがTBMにはあるんじゃないかと思いましたし、人材組織開発の可能性も感じました。

「人が成長して変容し続ける」というロールモデルを共有しながら、そういう社会をつくることに貢献できる、と感じたのもTBMに惹かれた理由です。

 

オフラインでのコミュニケーションしかないものを大切に

TBM藤﨑育子 ユニコーン LIMEX

神成:コロナによって在宅ワークが進む中、TBMさんはオフラインで集まることを大切にされている、という記事を拝見しました。リアルな場で集まることの意義はなんだと思われますか?

藤﨑:人のコミュニケーションって、視聴覚だけでなく、匂いや空気感など五感を使っていると思うので、言語だけに頼るコミュニケーションは少し危険だと思っています。そして、これは大事な部分ですが、我々はスタートアップなので、圧倒的なエネルギーやパワーみたいなものが必要で、それをいかに短時間でつくっていくのかといった時に、言語だけでは足りないんですよね。
一人ひとりが高いエネルギーを持って、一緒に体験することで出来上がる感覚みたいなものが、すごく大切だと思っています。

神成:ということは、基本出社が前提なんですね。採用活動でネックになることはないですか?

藤﨑:影響がゼロと言えば嘘になりますが、TBMのミッションに共感してもらえたら、出勤して同じ空間で密度の濃い時間を共有することの意味は理解していただけます。
リモートワークによって失われたコミュニケーションってたくさんあると思っていたので、TBMが原則出勤なのは、個人的にはすごくいいなーと思っています。

神成:メンバーの皆さんは、ミッションに共感しているからこそ、何が目標達成の最短ルートなのか、全員が同じ認識を持っているのだと感じます。オンライン(在宅)を選ぶことは、自分の環境を優先した結果なので…それなりの覚悟がないとできないですね(笑)

TBMが大切にしている組織、カルチャーはどんなものですか?

藤﨑:「高い目標に挑戦し、その過程を感情も含めて素直に共有し、その感動を熱く語ること」でしょうか。これは、代表の山﨑の存在がとても大きいと感じます。トップがとても感動する方で、自らの発言・行動と、TBM Compassとの齟齬が全くないので。
社内のコミュニケーションツールはLINE WORKSを使っているのですが、入社して驚いたのが、テキストの長さと熱さ!(笑)話す時もテキストベースの時も、みんなすごく熱く語るのでつい長くなるのです。世の中では時間をかけない短文コミュニケーションが多いと思うのですが、TBMではプロセスやメンバーへの思い、周囲への感謝などを伝えるメンバーが多いです。
これはTBMのカルチャーですね。

ステークホルダーを増やして、応援される組織を目指す

神成:最後に、ピープル&カルチャー本部として今後力を入れていきたいことをお聞かせください。

藤﨑:私たちの部署は採用、育成、人事制度設計、組織開発といった、会社の組織づくりと文化醸成を担っています。目の前の課題で言いますとまず採用は強めていきたいです。組織は人がつくるので、新しいステージにいくために、TBM Compassに共感し、今の自分のすべてを賭けて、挑戦したいと思ってくださる方々にジョインして頂くことが必要です。
また、オンボーディングにも力を入れていきます。新しい人がどんどん入ってくると、はやく馴染んでいただくために、どうしても会社側から伝えるメッセージばかりが多くなっていきます。しかし、本当は彼らが発信するメッセージをもっと受け取って企業は大きくなるので、双方向のコミュニケーションを高める仕掛けはつくっていきたいです。
人的資本管理(HCM)の部分にまだ本気で取り組めていないので、社会との対話をしっかりできる状態をつくって、より応援してもらえる組織になっていきたいですね。

TBM 藤﨑育子 井上理実 LIMEX ユニコーン
TBM”初”で2021年に新卒入社した井上理実さん(左)と藤﨑さん(右)。TBM愛に溢れていて笑顔が素敵なお二人

ティップス編  ~TBMならではの施策をご紹介~

神成:ピープル&カルチャー本部主導の具体的な施策を教えていただきたいです!

藤﨑:色々ありますが、3つご紹介させてください。

1つ目は、 入社1年以上の社員は「架橋塾」に全員入塾。
TBM経営陣のDNAを引き継いで、社員一人ひとりの視座をアップデートする、という目的で始まったもので、今年は勤続年数が長い社員から入社1年目の社員まで、167名が対象です。毎年テーマが変わりますが、2023年のテーマは「TBMを語る。営業マインドの醸成」です。

TBMでのこれまでの挑戦を棚卸して、社外の方に「TBMで働く魅力やTBM自体の挑戦」を伝える。そのことによって、社員とTBMへの信頼やファンが増え、TBMの価値を高めてくことが狙いです。プログラムは3ヶ月間ですが、早い段階で塾長(経営陣)を社外の人に見立てて、ロールプレイングする機会を設けています。
塾長に対して、一人ひとりが自分の想いや挑戦を伝えられますし、百戦錬磨のプレゼンのプロである塾長からのフィードバックは、社員の目標や視点を広げる機会になっています。

神成:会社の良さを人に語れるようになるって、すごく大事なことですね。入社2年目なのか、役員クラスなのか…、話す相手が誰かによって、話す内容も話し方も変わりますし。

藤﨑:内側にいるとどうしても「わかっている前提」で会社のことを伝えてしまいますし、みんな会社や事業への想いが強いので”良いよね”と押し付けがちになります。第三者目線でしっかり言語化する良い機会です。

2つ目は、月1回の全社集会 SBM(Same Boat Meeting)です。
2023年のスローガン「スピード・背負う・世界へ + 攻める」の頭文字3Sから、「自分自身の3S+を語る」と題して、月に1度、推薦された社員2名が皆の前で語ります。インプットだけだとなかなか定着しないので、アウトプットする場をしっかりつくっています。
年末にSBMのスペシャル版を開催するのですが、事業の振り返りと来期の目標と共に、各部門長が想いを語ります。みんな1つの場所に集まって同じ空気で、挑戦と感動を共有する場です。

神成:とても盛り上がりそうですね。感極まって涙するアツイ人が続出しそうな…!

藤﨑:3つ目は、毎週末に発信する「今週のトピックスという社内通信です。

社内で起こった1週間の出来事を凝縮して、ここにいる井上が社内に向けてメールで発信してくれています。「どことコラボしました」「こういう製品がお客様に採用されました」「こういう開発が行われました」といった内容で、自分たちがどこに向かっているのか、お客様はどう捉えられているのか。いま我々がどういう人から応援されて、期待されているのか、ということを改めてシェアしています。

神成:ただの業務連絡ではなく、しっかり「感情」に訴えかける内容で、会社に対するエンゲージメントが高まりそうですね。どれもTBMさんらしい施策で、一体感が生まれていく様子が想像できます。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

株式会社TBM

TBM 石灰石 LIMEX ユニコーン

「進みたい未来へ、橋を架ける」をミッションに掲げ、何百年も挑戦し続ける時代の架け橋となる会社として「サステナビリティ革命」の実現を目指し、環境配慮型の素材開発および製品販売、資源循環を促進する事業などを国内外で展開。石灰石を主原料とする新素材「LIMEX(ライメックス)」は、プラスチックや紙の代替となり、石油、水、森林資源といった資源の保全や温室効果ガスの抑制に寄与できる。LIMEX製品の普及を進める一方で、LIMEX製品のリサイクル、再生素材「CirculeX(サーキュレックス)」の販売・製品開発、従業員参加型の資源循環コーディネートサービス「MaaR for business(マール・フォー・ビジネス)」、LIMEXとプラスチックを自動選別・再生する国内最大級のリサイクルプラント「横須賀工場」の運営などを通じて、LIMEXのみならず廃プラスチックを含む資源循環の推進に取り組んでいる。

ウェブサイト:https://tb-m.com/

採用情報:https://tb-m.com/recruit/


【編集後記】世界に比べてユニコーン企業が少ない日本のスタートアップ業界。個人的に数年前から大注目していたTBMさんにお話を伺うことができました!MVVから逆算して日々の活動の軌道修正をするスタートアップは多いと思いますが、「現在(いま)を変えなければ未来は決して変わらない。一人ひとりが変えられるんだ」という考え方に衝撃を受けました。笹木さん、藤﨑さん、井上さん、ありがとうございました!イベントも企画したいです。(神成)


取材日:2023年8月9日
インタビュー・文:神成 美智子

写真:原 康太

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