今回は、株式会社Shinonome、株式会社NovolBaの両代表に、業務提携に至った背景についてお伺いしました。事業が異なる両社がなぜ提携しようと思ったのか、どのような狙いがあるのか等、興味深いお話が聞けました。また、両代表の起業ストーリーや事業への想いもお伺いしています。
種市 隼兵
株式会社Shinonome 代表取締役 CEO
東京理科大学理工学部情報科学科卒。
同大が行ったマサチューセッツ工科大学が提供する起業家推進教育プログラム、MIT REAPの風を受け、ハッカソンやビジコンでの優勝をきっかけに東京理科大学ベンチャーキャピタルファンドから出資を受け学部4年次に株式会社Shinonomeを創業。今に至る。
鄧 雯(とう ぶん)
株式会社NovolBa 代表取締役中国、福建省生まれ。
幼少期から日本文化や経済発展に興味を持ち、大学3年の時に来日。
学習院大学 大学院・経営学研究科卒業。2012年株式会社ミスミに新卒入社。2016年、株式会社岡村製作所(現:株式会社オカムラ)に入社。2021年11月、株式会社NovolBa 代表取締役に就任。オカムラグループ初の女性代表となる。
なぜ両社が提携に至ったのか
– 今回、Shinonome、NovolBaが業務提携をすることが発表されました。このお話を詳しくお伺いする前に、両社の事業内容を簡単にお伺いできますでしょうか?
Shinonome 種市:当社は、東京理科大学VCから唯一出資を受けている、学生発のベンチャー企業です。在学中大学生が無料でプログラミングやデザイン、ビジネスを際限なく学べるコミュニティ「PlayGround」を提供しています。
よく、プログラミングサークルやスクールと何が違うのと聞かれるのですが、私たちが目指しているのは、「心技一体となった学生を育て、縁ある企業の発展に寄与する」ということです。これはつまり、この団体が「無機質に技術を学ぶ殺伐とした場」でもなく、「満足感だけで終わる場」でもないということを意味しています。
私が学生時代、「お金や住んでいる環境のせいで、やりたいのに初めの一歩を踏み出すのが困難だった」という原体験が基になっていて、
・同世代と共に切磋琢磨出来る
・実践で通用するようなしっかりとした技術を学べる
・技術を学ぶだけでなく、学生としての青春も謳歌出来る
・努力したことがきちんと証明される
・無料で学べてその先に、報酬がもらえる仕事や、インターンがある
・学生時代から企業の方とウェットな交流ができる
・卒業した後も、居続けられる
ような環境を提供しています。大学に入学してから、「思っていたものと違った」や、「学校の勉強に加えて実践経験も積みたい」と感じた人が気軽に一歩を踏み出せるような、そんな場所。私たちは、それを目指して「PlayGround」を提供しています。
今では、全国どこでも誰でも大学生なら学べるようになっていて、実際にPlayGround出身の多くの人が、社会に出てから優秀な成績を収めています。中には、国際学会で表彰されたり、普通では配属されない特別な部署に所属している方もいます。起業した当初は理科大だけでしたが、今はオンラインで学べる環境を整え、日本の全国の大学に拡げていこうとしています。
– 鄧さんはいかがでしょうか?
NovolBa 鄧:当社は「スタートアップが昇れる場を提供したい」という想いから始まった会社で、スタートアップが初期コストを抑え柔軟に入退去できる一社占用オフィスや、オカムラ社製のリユース家具を利用した家具のサブスクサービスを提供しています。スタートアップは1〜2年で成長してオフィスを移転していくことが多いので、そこをシームレスにサポートできる新しいサービスとして注目して頂いています。
また、起業家の哲学やスタートアップのカルチャーなどを取り上げたメディア「WITH」の運営や、スタートアップ同士やスタートアップと繋がりたい企業、自治体などが交流できるイベントも各種開催しています。このように、スタートアップが成長できるような支援を多方面で提供しています。
– ありがとうございます。事業が異なる2社が、今回提携しようと思った経緯は何だったのでしょうか?
種市:当社にとっては、学生に色々な刺激を受けて欲しいと思っていたことです。我々はエンジニアのスキルを身に付けられる環境を学生に提供していますが、数が増えてくるにつれ、オフラインでの有機的なイベント提供の機会が足らないと感じるようになってきました。学生同士の交流イベントはあるのですが、社外の人を巻き込んだイベントは、準備のハードルが高く、手が足りていない状況でした。
そんな状況が続いてしまうと、外部のイベントに参加するという流れができるのですが、一方で外部イベントに参加するのは一定量の自信と勇気が必要です。そうすると、「まずは技術を身につけてから他のことをしよう」という文化にコミュニティ自体がなってしまいます。
可能性が限りなくある学生時代を通じて最大限に視野・経験・スキルを拡げて欲しい。それが私たちが教育事業をやっている理由ですし、今後の日本社会を支える彼らに強くなって欲しいと思っています。
NovolBaさんと提携させて頂いたのは、スタートアップ向けの事業やメディアを提供されていて、業界のネットワークがとても強いからです。各種イベントでスタートアップと交流できる場も提供されてます。そこで、学生にとっても新しい刺激が受けられるのではと思いました。NovolBaさんを介して色々なことを経験したり、起業家やビジネスパーソンに会えるのはとても良いことだと思っています。
– ありがとうございます。鄧さんはいかがですか?
鄧:種市さんが仰ったように、私たちはスタートアップ向け支援をしていて、多くのスタートアップとのネットワークがあります。Shinonomeさんの学生さんたちのお役に立ちたいという思いと、スタートアップ側にとっても学生と繋がれるメリットは大きいと思いました。
起業家・スタートアップの方々と話をしていて、いつも課題として話題になるのが「人材」です。事業の成長には人材が絶対に必要になるけれども、優秀な人材がスタートアップになかなか来てくれない現状が続いています。学生さんも大企業志向が未だに強いこともあって、名前が知れている企業に人材が流れている傾向があります。
その中で、学生の時に交流したり、プログラミングのことについて話したり一緒に何かをできる環境があれば、名前を知らなかったスタートアップがとても身近に感じることができます。そうすると、すぐに採用に繋がらなくても、社会人になった後に転職先として候補になることも多いんです。社会人になってビジネスの現場を経験していて、プログラミングスキルも上がっているので、すぐに即戦力として活躍できます。
なので今回の提携は、学生さんだけでなくスタートアップにも良い影響があるので、Shinonomeさんと良い好循環を生んでいければと思いました。
Shinonome、NovolBaの代表の想いとは
– 種市さんは若くして大学時代に起業されました。一方、鄧さんは大企業の新規事業を会社化して代表を務められています。お2人が起業に至った経緯・想いを教えてください。
種市:私は中学校までプロのサッカー選手を目指していたのですが、小さい時は父親が厳しく本当にサッカー以外のことはさせてもらえませんでした。小学生の時は休日の試合は全部見に来て、ハーフタイムには、監督ではなくて自分だけ父親に指導されていました(笑)。
中学になってクラブチームに入っても、厳しさは変わらず、PC含め、娯楽めいたものには全く触らせてもらえませんでした。
先天性の視力低下に伴い、サッカーを諦めたことで高校に入って自由に時間を使えるようになりました。その時に好きなことを全部やろうと生きていて、高校3年生になっても夏休みが3日しかないくらいには、忙しかったことを覚えています。その結果当然浪人をしてしまうのですが、自分で立ち上げたフットサルチームで全国3位になったり、バンドやダンスでも持て囃されていたので、不思議と自信だけはある人間でした。
けれど、ほんと恥ずかしいのですが自信だけで学ぶこともろくにしなかった結果、知らない予備校生からも、「お前と一緒に勉強するのが恥ずかしい」と言われたり、「予備校をやめてくれ」とも言われました。当時の私は誰にも迷惑をかけてないのに、と思いましたが、思い返せばみんなが真剣に取り組んでいる中で一人だけ予備校をサボってサイクリングをしたり、授業中にひたすら授業と関係ない参考書を学んだりしていたら怒るだろうなと振り返ってみて思います。
当然そんな生活をしていて成績が上がるはずもなく、冬季模試の成績も偏差値38という目も当てられない数字を叩き出していました。両親の期待にも答えられず、好き勝手にやった結果この体たらく。その時になってようやく、自分は平凡な人間で、特別な力もない。親不孝な存在だと強く感じました。本当に今までの行い全てを後悔しました。そこから2ヶ月間、死に物狂いで勉強しましたが、受験した大学全てに落ち、焦りと不安がどっと押し寄せ、藁にもすがる思いで最後の最後に受けた試験で何とか理科大に合格することができたんです。本当に九死に一生の思いでした。
それもあって、一度救われた命なのだから、在学中は有意義な時間にしたいと思うようになったんです。そこで、ハリボテな自分を変えようと興味のあったプログラミングを身に付けるために自分含めて4人しかいないようなベンチャー企業に入って、働きながら学んでいました。パソコン1台の支給と、あとはカフェで仕事をするためのコーヒー代だけが給料で、仕事を頑張っていました。当時、大学内でプログラミングは学べなかったので、こういう環境でやるしかなかったんですよね。けれど、初めてのパソコンを手にして、初めて体験する世界は、私にとってキラキラして見えました。意味がわからないままコードを打つのも、わかってきて褒められることも、作ったものをお客さんに喜んでもらうことも、学んだことを誰かに教えるのも全部楽しかった。朝から晩まで無給でプログラミングをしていましたが、得たものは本当にたくさんありました。失ったものも。笑
この経験もあって、この世界をもっと手軽に、かつ学生としての本分も全うできるような環境を世の中に作りたい。そういう想いがShinonomeを起業することに繋がっていきました。環境のせいで選べなかった後悔をなくし、努力することが肯定される世界を作る。これこそが私の原点です。
– なるほど。ご自身の経験から強い課題意識が生まれたのですね。鄧さんはいかがでしょうか?
鄧:自分が中国にいたときは、自分でビジネスを起こしたいという人が周りに多かったです。大きな夢を持ってチャレンジする人もいれば、自分のできることから小さな商売を始める人もいました。私もその環境に影響され、小さい時から自分でビジネスをやりたいという想いが芽生えていました。それがオカムラで仕事していた時に、新規事業を作りたい想いに繋がり、NovolBaを創業することに至りました。
また、日本で学生から社会人へと10数年を過ごしている中で、日本では学生時代にやりたいことがあった人が社会人になると、やりたいことを忘れてしまったり、夢をあきらめてしまう人が多いと感じていました。せっかくいい環境があるのに、もったいないなと思っています。でも一方で、難しいと知っていても挑戦し続けているスタートアップがいます。例えば、種市さんのように、学生で起業して実現したい社会に向かって仲間と一緒に頑張っている人達もたくさんいます。
もっとそのようなスタートアップのことに触れることができたら、一度はやりたいと思った人たちにも刺激を与え、火をともすことができるのではないかと思っています。そんな環境をつくりたくて、メディアを立ち上げたり、イベントを開催したりしてて、色んな企業や人にスタートアップのことを知ってもらうように促しています。
業務提携で目指す今後
– ここまでのお話を通じて、お2人共に学生への想いがあったことが分かりました。今後、業務提携を通じて具体的にどのようなことをやっていきたいですか?
鄧:実は学生エンジニアとスタートアップのCTOやエンジニアとが交流できるイベントをすでに開催していて好評を頂いています。今まで大企業のことしか知らなかったけれど、実際にスタートアップの人と話しして興味を持った学生もいました。今後もこのようなイベントをもっとやっていきたいですし、学生が実際にスタートアップへ出向き、参画する機会も提供していきたいです。
また、エンジニア分野だけではなく、様々な学科や大学の学生が交流し、お互いのやりたいことなどをアウトプットできる場も提供していきます。こういったインプットとアウトプットを繰り返しながら、やりたいことをやっていこうという空気感を作っていきたいですね。
種市: 鄧さんが仰った通り、学生が色々な刺激を得れる場をNovolBaさんと協力してやっていきたいといます。
私たちは今まで、自分たちの力だけでコミュニティを育ててきましたが、より大きく、より学生達にとっていいものを作るためには様々な人と手を組むことが大切だと感じています。一緒に働きたいと思う方達と働き、成果をしっかり作っていくということがどれだけ楽しく、どれだけ心震えることかを体現することが、将来を考える学生達にとってもいい見本になるのではないかと考えています。
NovolBaの皆さんは、大企業の枠を飛び出して、自ら険しい道のりに挑戦することを選んだ方達です。大志を抱く面白い方達と一緒に、熱意をもって仕事をすることができることを光栄に思います。10年、20年後に、巣立つ多くの学生を振り返りながら、あの時こうだったよねと笑顔で話せればと思っています。