株式会社Things 代表取締役 鈴木敦也 Suzuki Atsuya

Vol.49 株式会社Things ・代表取締役CEO 鈴木 敦也さん

第49回は「モノのデータを民主化する」をミッションに掲げ、“あうんの呼吸”によるモノづくりをサポートする、製品開発プラットフォーム『PRISM』を提供する株式会社Things・代表取締役CEOの鈴木敦也さんにインタビューしました。大手商社からスタートアップ創業までの原体験と「偏愛」強めの想いにフォーカスしてお届けします!

 


株式会社Things 代表取締役CEO 鈴木敦也 Suzuki Atsuya DJ社長

 

鈴木 敦也  
Suzuki Atsuya

株式会社Things 
/ 代表取締役CEO

 

【Profile】三菱商事にてドバイ向け鉄道案件やトルクメニスタン向け化学プラント案件のPMを担当。その後AlphaTheta(旧Pioneer DJ)にてDX推進リードを務め、FOVE, Inc.では資金調達と事業開発を担当。2021年9月、株式会社Thingsを創業。


「攻め」のIT支出を増やすために

NovolBa神成:プレシリーズAで2.2億円調達、おめでとうございます!
はじめに、製造業向けの製品開発プラットフォーム『PRISM(プリズム)』がどのようなサービスなのかお聞かせください。

Things鈴木:ありがとうございます。平たく言うと「ハードウェア版GitHub*(ギットハブ)」のようなものです。
PRISMは、社内に分散した製品開発情報をクラウドに集約することで、製品開発を効率化するサービスです。加工組立型のハードウェアは数多くの部品の組み合わせで構成されますが、この一つ一つに、図面やCAD、仕様書、試験データ、調達履歴といった様々なデータが付随します。ものによって数百~数千点の部品があり、さらに日々新しいバージョンが別々の部署で生まれるため、最新状態をエクセルで管理するのは至難の業です。
これをクラウドで一元管理できるようにしたものがPRISMです。ご活用いただくと、サプライチェーン間の製品開発情報のやり取りがスムーズになり、図面の取り違えや開発の手戻りを未然に防ぐことができます。

*GitHub:ソースコードの保管やバージョン管理を行うことができる、ソフト開発者向けのプラットフォーム

神成:データ管理は煩雑になりがちですから、これはかなり助けになりますね。製造業全体でこの分野のDXは進んでこなかったのでしょうか?

鈴木:製造業全体のIT支出は年間5.5兆円とも言われていますが、一般的にはそのうちの8割が「既存のシステムの保守と運用」に使われ、残りの2割をバリューアップ、いわゆる「攻めのIT」に充てています。

例えば100億円の企業であれば年間のIT予算は多くて2億円、そのうち2割の4千万円でなんとかDXを実現しようとしている状況です。その金額では抜本的な改革は不可能に近く、パッチワーク的な開発でお茶を濁すことしかできません。
製造業にSaaSがより浸透していくことによって、この8割の保守運用コストを6割まで減らしていけるような効果があると思っています。
5.5兆円の20%なら1.1兆円の余力が生まれるわけですから、大きいですよね。

神成:数%でも「攻め」のための投資が増えたら、とても意義のあるお金に変換されますね。

経験を活かして「技術部門」のバーティカルSaaSを

神成:鈴木さんのこれまでの原体験が、どのように事業に結びついているのでしょうか?

鈴木:幼少期は親の海外転勤に伴い、2~3年おきに海外(欧米)に引っ越す生活が続いていました。また新卒で入社した商社では、インフラ案件の部署でドバイやトルクメニスタンに長期間滞在していました。様々な国に滞在する中、それぞれの土地の文化・慣習を俯瞰的に見ることができるようになり、「異なる文化のコミュニティで良いと思ったものを、別のコミュニティに持ち込む」みたいなアプローチは、今の事業に繋がっているかもしれません。

神成:ユニークなキャリア変遷ですが、なぜ起業しようと思ったのですか?

鈴木:実はキャリア面でも飛び地的な転職が多くて(笑)インフラEPCで契約交渉をやった後はアプリのPdMや事業開発を。その後マーケティングやブランディングを経て資金調達を…と、かなり脈絡の無い転職をしていました。

メーカーでDXを推進していた時は、ECなどマーケティング領域のテーマが多かったのですが、本質的な課題にリーチしている実感が持てませんでした。日本のメーカーの競争力の源泉は「品質」で、その良し悪しを左右する「技術部門のDX」が最も重要だ、と。
しかし、まだバーティカルSaaS*という言葉すらなかった頃で、「技術部門向けのSaaS」は全然ありませんでした。

製造業の分野でSaaSを立ち上げようとすると、製造業の土地勘とWeb業界の経験、どちらも必要になりますが、飛び地的なキャリアを歩んだおかげで「もっとよくできる」という思いに繋がったのだと思います。
*業界・業種に特化したSaaS(Software as a Service)のこと。

神成:ご自身のキャリアを総動員して、バーティカルSaaSに活かせると思ったのですね!

鈴木:純粋にハードウェアが好きというのもあります。ハードウェアって、ある種の美しさがありませんか?
例えば、ロケットエンジンは非常に複雑な構造ですが「宇宙に向かう」という一点のために作られています。そこに機能美を感じますし、そういった意思や目的が具現化された機械が好きなんです。
学生の頃は理工学部で、周りに優秀な人が多く「自分は研究者にはなれない」と悟っていました。一方で、優れた技術でも「技術単体では世の中に浸透しない」例も沢山あると感じていました。代表的なのは「月面旅行」です。人類は50年以上も前に月面着陸を果たしているのに、その後実現していないのは、経済的・政治的なインセンティブがそこに無いからなのではないでしょうか。
私は優れた技術をビジネスの力で社会実装することに情熱があり、それをライフワークにしてきました。今の事業もその延長線上あります。

神成:素敵です!製造業の課題解決への「偏愛」を感じます。

 

鈴木敦也 Suzuki Atsuya Things 代表取締役CEO
 

透明性と多様性はセット

神成:鈴木さんのグローバルなバックグラウンドに「多様性」があるように思いますが、Thingsさんはどのようなカルチャーを体現したいですか?

鈴木:異なる個性をもった人が力を発揮しながら全体では上手く調和する組織にしたいと思っています。個人の力が発揮される上で大切なのが「透明性」だと思っています。いくらスキルがあっても、限られた情報しか与えられなければアウトプットは限定的になりますし、個性が「受容される」心理的安全性がないと、自分の個性を発出していこうとは思えないので。
PRISMというプロダクトの設計思想に通ずる部分ですが、組織の状態をゆるやかに共有しておくことで、チームが同じ方向を向き、思わぬアイデアが出てくる土壌が育まれると思います。

Thingsでは顧客情報と個人情報以外はフルオープンにして、株主定例の様子などもメンバーが閲覧できる状態にしています。こうすることでチームに一体感が生まれているため、今後も「透明性」と「多様性」はセットで大事にしていきたいですね。

好奇心旺盛で青春したい人、大募集

神成:絶賛採用強化中と伺いましたが、どんな方と一緒に働きたいですか?

鈴木:コトに向かえて没頭できる人で、新しいタスクでもどんどん挑戦したいという好奇心を持った、素直に吸収して楽しく仕事できる方が良いですね。
あとは、偏愛をこじらせている人でしょうか(笑)そういう人は好奇心が強いので、スタートアップのように様々なフェーズ、新しいイシューが生まれることに対応できそうな気がしています。

神成:いまThingsにジョインすると、どんな良いことがありますか?!

鈴木:創業期ならではの面白い経験ができます!これからプロダクトもカルチャーも一緒につくっていくフェーズなので、スタートアップでいうと「青春」時代、一番楽しい時期にジョインできます。
スタートアップは短距離走型が向いているように見えますが、個人的にはフルマラソンだと思っています。企業が永続的に発展していくためには、成果に結びつく行動を、高確率、高頻度で起こしていく企業文化が必要ですが、そういうカルチャーのベースをつくるのが今のフェーズだと思います。

神成:青春したい人、集まれ!ですね。鈴木さんのような大人起業家は、酸いも甘いも知っているからこそ、メンタルの強さと余裕を兼ね備えている気がします。

ChatGPTが導くこれからの世界

神成:今後やっていきたいこと、気になっていることはありますか?

鈴木:最近はChatGPTに注目しています。ChatGPTが浸透すると、近い将来多くの「会議」が不要になると思っています。会議は、人が集まって自分しか持っていない情報を、自然言語(音声)を通じてお互いに交換するために開催されますよね。もしもChatGPTと自然言語で会話できるのなら、情報にアクセスするために人間を媒介する必要がなくなります。

SaaSが企業固有のデータを格納するための装置だとすると、ChatGPTはそのデータを取り出すインターフェイスという認識で、今はSaaSの方を作っています。

将来的にはChatGPTに「この販売計画を達成するために必要な調達計画は?」と聞けば、最適化された部品の調達計画を回答してくれたり、過去の故障ログから「ここで生産がストップしている理由は△△の故障による可能性が高い」みたいな過去のレポートを出してくれるとか、そういう未来を想像しています。

神成:会議要らなくなる、間違いなくそういう時代が来るんですよね…。そうなると、エンジニアもどんどん必要なくなるのでしょうか?

鈴木:最近は生成AIに指示文を入力する「プロンプト・エンジニア」が出てきていますが、今の私の感触では、AIに何かを聞くためには、バックグラウンドになる知見・知識・経験が必要で、それがないと正しい質問を投げかけられない。正しい課題設定ができる、ベテランの価値は、今後より高まってくる気がしています。

神成:人間が「クリエイティビティ」以外でAIに勝てるところってあるのかな、と最近考えてしまいます。

鈴木:クリエイティビティの分野も勝てなくなりつつあります。実際に私も製品のタグラインを考えてもらったり、noteの挿絵を描いてもらったり、一部の業務は既に代替されています。ピカソの様な突然変異はさておき、過去の創作物の延長線上にあるものはAIが再現できてしまうのではないでしょうか。
先日、noteで使う「部屋の中の象*」の挿絵を探していたのですが、どこにもフリーの画像が落ちていなくて、それで生成AIに描いてもらったら、十分雰囲気が伝わるものが出来上がってきました。

*The elephant in the room: その場にいる人誰もが認識しているけれど、あえて触れることを避けて知らないふりをしているタブー、重大な問題。

神成:既にここまで出来ちゃうのですね・・・恐ろしい!
ChatGPTのお話も、とても勉強になりました。

鈴木敦也 Suzuki Atsuya Things 代表取締役CEO ChatGPT
AI生成画像「部屋の中の象」を見せてくれる鈴木さん

番外編 ~ドバイのDJ大会で優勝~

神成:過去にPioneer DJで働いていたこともあるそうですね。「好き」を仕事にするなんて最高じゃないですか。ドバイ駐在時にはDJの大会で優勝したとか?!

鈴木:もっと現地のコミュニティに溶け込みたいと思い、大会に参加しました。300人以上の参加者の中、日本人は私だけだったそうです。他の出演者や観客、審査員のバックグラウンドを想像しながら音楽のジャンルや構成を決めて、大会までの半年間、ひたすら毎日同じルーティンを練習しました。
はじめから優勝するつもりで応募しましたが、日本人のオタク的な偏愛や技術力が評価されたのか、運よく優勝出来ました。

神成:ガチじゃないですか(笑)相当な戦略家だし「優勝」という目標から逆算しているところが、さすがですね。

鈴木:好きなことを突き詰めていたらいつの間にかそうなっていました。

神成:鈴木さんの「偏愛こじらせ」、仕事でもプライベートでも、めちゃくちゃ大事な気がします!

鈴木敦也 Suzuki Atsuya 株式会社Things 代表取締役CEO  DJ社長
「暗い所でも計器が見えるようにライトが点くんですよ!」と、古いラジカセへのこだわりポイントを熱く語る鈴木さん

株式会社Things

設立:2021年9月
事業内容:クラウド型製品開発管理『PRISM』の開発・運営


【 編集後記 】
ほんわかした雰囲気ですが仕事はバリバリな鈴木さん。好きなコトを語るときは「偏愛強め」で、取材の後、音楽についてアツく語り合ってしまいました(笑)弊社NovolBaが提供する五反田のオフィスにご入居頂いていますが、夕方からGood Musicをかけてゆるく飲み会も開催されているそうです。採用強化中なので、ぜひ一度オフィスに遊びに行ってみてはいかがでしょう。(神成美智子)

 

取材日:2023年4月5日
インタビュー・文:神成 美智子
写真:鄧 雯

株式会社Things 代表取締役 鈴木敦也 Suzuki Atsuya
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