第36回は、パナリット株式会社・CEO 小川高子さん、COO トラン・チーさんのお2人にインタビュー。共同創業者がいるメリットや、大企業との取引で大切にしていることなどについて、お話を伺いました。
小川 高子 Ogawa Takako / Co-Founder, CEO(写真左)
新卒でワークスアプリケーションズに入社。Google Japanに転職後は採用·人材開発業務に従事し、2015年よりGoogle 米国本社にてStrategy & Ops部における Sr.プロジェクトマネジャーとして、Googleの全社的な人事制度改革、人事戦略業務に従事。2014年のAPAC People Operationsサミットで MOST INNOVATIVE & CREATIVE AWARDを受賞。2019年、パナリット株式会社を共同創業。
トラン・チー Tran Chi/ Co-Founder, COO(写真右)
BCG、リクルート、Googleを通して、データを軸とした意思決定プロセス構築・インサイト発掘・ソリューション開発に強みを持つ。リクルートでは草創期の海外事業のビジネスパートナーとして、11拠点の事業計画・KPI・オペレーション設計などの事業推進を支援し、当時最年少の幹部候補に選任。GoogleではマーケティングROIの効果検証プロセス設計・実行支援の他、感性(クリエイティブ)とデータを融合した新規ソリューション開発をリード。APAC地域のベスト5コーチにも選出。2019年、パナリット株式会社を共同創業。
共同創業に至った経緯
NovolBa山田(以下、山田):最初に、パナリットを共同創業されるまでの経緯について教えてください。
パナリット 小川(以下、小川):パナリットは、2017年にダニエル J ウェストがシンガポールで立ち上げた会社*なのですが、私は創業メンバーとして日本から参画していました。当時は他のスタートアップでも働いていたため、兼業でパナリットの仕事をしていました。
しかし、日本のクライアント5社を成約することができた時にフルタイムでコミットすることを決め、ドタバタの中でパナリットの日本法人を立ち上げることになりました。
*Panalyt Pte. Ltd. ・・・データを活用した人事・組織の意思決定をサポートするHRTechを展開していたが、日本のマーケットを中心に事業を拡大することを決定。2019年に日本法人であるパナリット株式会社が立ち上がる。2021年には、本社を日本に完全移管。
日本法人の立ち上げや、クライアントの対応などやる事が山積みだったので、その時にGoogle時代から仲が良かったトランに声をかけたんです。彼に共同創業者になって欲しいと考えた理由は、前職のGoogleで新規事業プロジェクトを一緒にやっていたことから信頼関係があったことや、事業立ち上げの大変さも理解していること、またお互いが違うスキルを持っていることが共同創業に向いていると思ったからです。
ちょうど当時、彼も転職を考えていたということでタイミングも良かったです。
山田:トランさんは、その時にすぐに参画することを決めたのでしょうか?
パナリット トラン(以下、トラン):いえ、すぐには決められませんでした(笑)。
パナリットは、データを活用した人事の意思決定をサポートするHRTechを提供していますが、当時のMVPを見せてもらった時の印象が「nice to have」。つまり、あったら良いけれども、世の中にどうしても必要とされるようなプロダクトになるのか、に確信が持てませんでした。
その後、自分自身でしっかりと市場リサ―チをして事業の可能性を考えた時に、プロダクトを改善していけば日本のマーケットで必要とされていくだろうと確信し、参画することを小川に伝えました。
「共同創業」のメリットと注意すべきこと
山田:共同創業者がいて良かったと思う点を教えてください。
小川:フラットな関係で、お互いが自立してそれぞれの得意分野を活かしながら事業を進められることですね。
例えば、トランはロジカルに物を考えることや、感覚的で説明するのが難しいことを言語化するのが得意です。そういう仕事をしなければいけない場合は、何も言わなくても率先して彼がイニシアチブを取ってくれます。私は、どちらかと言うと人を巻き込んだり、パッションで訴えかけたりというのが得意だと思います。
トラン:そうですね。小川は人に情熱を伝えるのが上手く、周りの人を仲間にするのがすごく得意です。当社とあまり関係が良くないと思っていた人が、小川と話すといつの間にか仲間意識を持ってくれていたりします。
またスキル面では、Googleで人事の仕事をしていたため、人事・組織に関する知見が深く、パナリットのサービスを拡げていくために欠かせない専門性を持っています。
このように、お互い得意分野が違うので、どちらが何の仕事をするかを言わなくても自然と役割分担ができています。
山田:その他に、良かったと思うことはありますか?
小川:共同創業者がいるという「心理的安全性」もありますね。
事業を立ち上げて行くときに不安は付き物ですが、それを共有できる相手がいるのは大きいです。
例えば、事業が上手くいかない時や、資金がショートしそうで不安な時など、精神的に支え合えるのはとても大事だと思います。逆に、心理的安全性を感じることができない人を共同創業者にするのは良くないと思います。 自分1人の意思決定では心もとないという場合に、共同創業者として同じ立場で一緒に考えてくれたりするのは、一つのアドバンテージなのではないでしょうか。
山田:ありがとうございます。逆に、共同創業者を持つ場合に気を付けることはありますか?
小川:「エコーチャンバー現象*」が生まれやすいことだと思います。つまり、お互いがお互いのイエスマンになったり、クライアントや社内メンバーの意見に対して「彼らが間違っているんだよ」とか、「私たちが正しい」と自分たちを肯定し始める状況ですね。
クライアントからのクレームや、投資家からマイナスの意見を言われて苦しくなった時に、共同創業者同士が他者を受け付けないような形で閉鎖的な共感をするのは注意すべきだと考えます。
トラン:共同創業者同士がそうならないように気を付けることも大事ですし、共同創業者になって欲しい人が自分と違う考え方を持っていること、簡単に迎合しない人であることを知った上で選ぶのが重要かもしれませんね。
*エコーチャンバー現象・・・ネット上の掲示板やSNSなど自分と似たような考えや価値観、趣味嗜好を持った人たちが集まる閉鎖的な空間でコミュニケーションが繰り返され、自分の意見や思想が肯定されることで、自身の主張する意見や思想が、あたかも世の中一般的にそうである、世の中における正解であるかのごとく勘違いしてしまう現象のこと
初期から大企業に使ってもらうことの大切さ
山田:大企業数十社が、すでにパナリットのサービスを利用しています。 シード期でありながら、大手企業が求めるクオリティ要求にどう対応されたのでしょうか?
小川:とにかくお客様からの品質要求やクレームは真摯に受け止め、課題を紐解きながら解決策を見つけ出すことですね。
日本での立ち上げ一年目のパナリットは、お客様から毎月バグの修正依頼リストが送られてくる有様でした。それもそのはず、市場に出てまだ間も無いプロダクトでしたから。バグや機能改善要望もひとつひとつ、そのリクエストの裏にある本意を探り、パズルを紐解くように解読して、コードを修正して、というのを逃げずに繰り返しました。時には、バグではなくお客様が入力したデータが間違っていたこともありましたが、その間違いを誘発したUI・UXになっていたことがバグだと思って、そこも含めて対応しました。
トラン:本当に大変な作業でしたが、プロダクト初期から日本の大企業の要求に耐えるものを作ってきたのはとても良かったと思います。
例えにするのは恐縮ですが、マイクロソフトがサービスを世界展開するときに、最初に日本を選んだという話があります。それは、日本の大企業が一番クオリティに厳しいからだったそうです。それに耐えるプロダクトを作ることで、世界に対して通用する汎用性が高いものができた。
一般的に、起業したてのスタートアップはプロダクトの完成度に少し甘えがあったりします。私たちは早い段階から日本の大企業に使ってもらい、プロダクトをブラッシュアップできたのは良かったですし、海外展開していく上でも有利になると思っています。
今後の展望
-パナリットを通じて、日本企業の人財マネジメントを世界に発信-
山田:パナリットの今後の展望について教えてください!
トラン:日本企業は非財務データ、つまり、勤怠や採用活動、給与、エンゲージメントサーベイの結果などをうまく意思決定に利用できていませんでした。
例えば、来年何人を採用するのか、採用する人に給与をいくら支払うのか、社員の評価の付け方や、この社員への適正なボーナスはいくらなのかなど、人事に関しても様々な意思決定が必要です。
これまで、こうした意思決定はかなり定性的に、「KKD(経験、勘、度胸)」と呼ばれるもので判断されてきた傾向があります。
これでは経営者や人事も「本当にこの決め方で良いのか」という不安もあるでしょうし、従業員も決め方に納得できない場合もあります。パナリットは、非財務データを上手く活用して、現場も経営者も納得感のある意思決定をサポートしたいと思っています。
小川:これまで、セールスやマーケティングの領域では、データの活用が進んできましたが、非財務データの活用はまだ手付かずの領域だと思います。その領域をパナリットがサポートすることで、企業がより良い意思決定ができ、それが企業競争力の向上につながると思っています。
また、最近パナソニック社の顧客事例を英訳したところ、ピープルアナリティクスの領域で、海外で著名なデビッド・グリーン氏に「2022年最も良かったHRおよびピープルアナリティクス」の記事に、我々の事例が取り上げられたのです。 今まで日本では、人事のデータ活用が世界基準で比較してもかなり遅れていましたし、多少の取り組みがあったとしても、海外への発信力はほとんどなかったと思っています。日本企業の人財マネジメントの良いところもたくさんあるのに、それが世界に認められないのではもったいない。パナリットが、顧客に変わって発信を担える役割があると、改めて感じました。
パナリットは、社員の国籍が10カ国とグローバルなメンバーで仕事をしているので、海外に発信することや、出ていくことへの抵抗感もありません。
日本のSaaSは海外で通用するものが少ないと言われますが、私たちはまず、日本の顧客企業の素晴らしい取り組みを海外に向けて発信していき、将来は日本を代表するグローバルSaaSとなることを目指して、これからも挑戦していきたいと思います。
パナリット株式会社
既存の人事システムやデータファイルに連携するだけで、企業の健康状態を客観的・俯瞰的に可視化して捉え、改善の方向性を示唆する “組織の人間ドック”のようなソリューションを提供している 。高度な分析技術や専門家を社内に持たずとも、どのような企業でも現在利用中のツールやファイルと連携させるだけですぐに始められ、人事・経営・現場が一枚岩となってデータ・ドリブンな人事意思決定が可能。既に7ヶ国で展開され、アジアを代表するユニコーン企業や急速な事業拡大・組織変革を進める大企業の人財分析のパートナーとして選ばれている。(PR TIMESより引用)
取材日:2022年6月28日
インタビュアー:山田 直哉
編集:神成 美智子
写真:パナリット株式会社より提供
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